ホンダe(イー)の登場で電気自動車の時代は来るのか? 日本の現状と課題を考える
- 2020/08/14
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御堀 直嗣
新型電気自動車「ホンダe(イー)」が、もうすぐ日本の道路を走り出す。ホンダのみならず、各メーカーが開発に力を入れている電気自動車だが、その普及には課題も少なくない。
TEXT●御堀直嗣(MIHORI Naotsugu)
集合住宅での充電問題は、いまだに解決されていない
日産リーフが2010年に発売されてから10年が経つが、電気自動車(EV)の国内販売には課題が残されている。最大の問題は、マンションなど集合住宅の管理組合の存在だ。
集合住宅では、建物や設備の維持管理を行なうため、住民の代表による管理組合という組織がある。住民が快適に暮らせるよう、定期的あるいは不定期に集まり、課題解決のため討議し、賛否を問う。たとえ分譲であっても、エントランス、エレベーター、廊下、駐車場などは住民の共用部分であり、その管理や修理などは管理組合で合議の上、手が施される。駐車場に、EVあるいはPHEV用の充電コンセントを設置することも、管理組合の合議によって認可されなければ敷設することができないのである。
そして、ほとんどの集合住宅で、管理組合の反対により充電コンセントを設置できない状況が10年も続いている。たとえば初代リーフが発売されたとき、購入者の9割が戸建て住宅の人であった。稀に、集合住宅でも充電コンセントを設置できたが、それは1割かどうかであったのだ。
なぜ、集合住宅の駐車場に充電用コンセントを設置することができないのか。
ひとつは、充電器の設置に関して、戸建て住宅であれば言葉通り200Vのコンセントを取り付け、屋内の配電盤から配線を引けば済む。およそ10万円で工事は終わる。しかし集合住宅の場合は、各部屋の電気は住民個別の配電盤から電気を採り入れ、電気料金も各家庭で使用した分だけ支払う。
ところが住民の公共部分となる駐車場は、電気の配線が別になるので、誰がその電気を使ったかわからず、誰に支払いを請求したらいいか、単なるコンセントの設置では見分けがつかなくなる。そこで、利用者のカード認証などをできる充電器を設置する必要がある。認証や課金機能を備えた充電器だと、70~80万円くらいする可能性がある。急速充電器は200~300万円あるいはそれ以上するので、普通充電器はその3分の1ほどであるとはいえ、費用がそれなりに掛かることが、課題となる。
それでも、EVまたはPHEV購入者が自分で代金を支払うと申し出ても、却下される事例が少なくない。管理組合員の誰かが「自分には関係ない」とか「工事がうるさいのでは」というような、理屈ではない理由で反対を唱える事態が起きているのである。これでは、交渉の余地もない。
この集合住宅の管理組合問題が、EV普及の大きな足かせとなったまま、10年間解決の糸口が得られずにいるのだ。
一方、新築のマンションを開発するデベロッパーのなかには、充電設備があることが将来的に価値を高めるとの判断から、積極的に設置する動きがある。ただ、圧倒的に数の覆い既存のマンション等で課題が解決できなければ、国内でのEVの拡販は難しいといわざるを得ない。
日産自動車は、それでもリーフを発売した以上、顧客と一緒に管理組合の説得に当たるなどの策を講じ、打開の糸口を探している。一方で、PHEVを発売したトヨタや、今回ホンダeを発売するホンダは、何ら手立てを持っておらず、この課題に対する認識さえ無いに等しい状況にある。
路上駐車が多い欧州。充電規格もコンボ方式を採用する
来年から二酸化炭素(CO2)排出量規制が強化され、その対応のためホンダeも今年の春から欧州で先行発売されたわけだが、欧州の充電事情はどうか。
欧州各国では路上駐車が認められている場合が多いので、日本の集合住宅の管理組合問題のようなことは起きていない。逆に、路上駐車する場所への急速充電器の設置が期待され、そこから、普通充電と急速充電をひとつの充電器で行なうことのできるコンバイン(通称コンボ)方式という充電設備が開発された。
日本および中国で広がりを見せているCHAdeMO方式を基本にする充電は、普通充電と急速充電を分ける考えである。通常は、普通充電が基本となるので、急速充電用の余計なケーブルやコネクターが不要となる。急速充電用のケーブルとコネクターは、急速充電器側に設置されているので、EV所有者が維持・管理する必要はない。
欧州で強化される燃費規制をクリアするにはEVが必須
欧州全域で施行されるCO2排出量規制は、1km走るときに排出できるCO2の量が95グラム(g)に規制される。これは、日本流の燃費表現で28km/ℓほどを、メーカー平均値で達成しなければならない。28km/Lといえば、2代目プリウスほどの燃費性能だ。これを、コンパクトカーから高級車や高性能スポーツカーなどすべての車種の平均値で達成しなければならないのである。したがって、マイルドハイブリッドは最低限の水準で、車両が大きくなるほどPHEVやEVでなければ達成不可能だ。
この企業平均値を達成できなければ、クレジットと呼ばれる課徴金の支払いが自動車メーカーに負わされる。そこで、欧州で新車販売をしようとする自動車メーカー喫緊の課題が、EVの市販なのである。
ホンダも、そこに狙いを定めてホンダeを開発し、欧州から先に販売をはじめたというのが実情だ。したがって、国内販売台数は極めて限定的としている。
リチウムイオンバッテリーをどう再利用するかも課題
EVを市場導入するに際して、単に新車開発し販売するだけで終わらないのが、EVやPHEVの新たな課題でもある。すなわち、EVに搭載されたリチウムイオンバッテリーは、クルマとしての役目を終えた後でもまだ60~70%の容量を残している。これをそのまま廃棄したのでは、資源の無駄どころか、資源を捨てるようなものだ。
日産は、初代リーフが発売される前に、EV後のバッテリー再利用などを視野に入れたフォーアールエナジー社を設立し、現在、廃車されたリーフのリチウムイオンバッテリーでの再利用の事業がはじまっている。A/B/Cの3段階に仕分けされ、Aグレードは中古リーフのバッテリー交換用などに用いられる。グレードBは、フォークリフトや再生可能エネエルギーの電力調整用などに活用される。Cグレードは、緊急対応用としてスマートフォンの充電用など、災害時に自宅や商店などで手軽に充電できる装置となって販売されている。
こうした活動は、トヨタやホンダでは行なわれていない。海外のメーカーでも実施している例はない。
EVやPHEVは、単に機能や魅力に優れた新車を開発すれば済むのではなく、EV後に残されたリチウムイオンバッテリーという資源を無駄なく使いつくすことまでを視野に、車両開発されなければならないのである。
またEVが現役で走行している間も、駐車中に自宅など施設へ電力供給を行なうV2H(ヴィークル・トゥ・ホーム)なども行なえる制御を搭載することが望ましい。昨今、世界的に大災害が起きており、停電が珍しいことではなくなっている。そのとき、EVに乗っていれば、およそ3日分の電力を自宅に供給できる。これで、パーソナルコンピュータが使えるし、冷蔵庫も機能し続けることができる。
ホンダeも、日産で使っている装置を活用した電気事業者と提携し、V2Hを希望する所有者に対応するとしている。
EVは、環境に適合した移動手段というだけでなく、社会貢献できる潜在能力を持つ。一方で、国内においては集合住宅の管理組合問題という難題も抱えており、業界や関係者が一体となり、社会の意識改革という事業に取り組まなければならない。
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