日本にとっての最適解は何か エンジンをなくしてしまって、ホントにいいのですか? その7
- 2021/04/12
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牧野 茂雄
エンジンなんてもう古い。時代はカーボンニュートラル。これからの自動車は電気だ——メディアだけでなく世の中の大勢はいまやこの方向だ。「電気は環境に優しい」と。しかし、現実問題として文明社会とICE(内燃エンジン)の関係は本当に切れるのか。断ち切っていいものなのか……。7回目のテーマは日本。すべてのCO2(二酸化炭素)排出に占める自動車・運輸部門の比率は、EU(欧州連合)の25%に対し日本は17.8%。そもそもこの基礎データが日本は優秀だ。果たして日本で、軽自動車も含めて電動化することが本当に正しいのか。ここを考える。
日本は日本独自の決断を下さなければならない
先日、国立環境研究所(以下=国環研)が興味深いデータを発表した。どんな土地に太陽光発電施設が設置されたのかを、0.5MW(メガワット)以上の国内8725施設について調べたものだ。その面積は約229㎢であり「もともとは二次林、植林地、草原、農地など里山の自然に該当する場所が多いことがわかった」と報告された。
同時に地図も公開された。グーグルの衛星地図に発電設備をプロットしたものであり(図参照)、これを見ると平野部だけでなく山間部にも太陽光発電施設が建設されている様子がわかる。山間部は陽水(水力)発電所だけかと思っていたが、意外にも太陽光が進出している。
「再生可能エネルギーへの転換は温室効果ガス排出抑制のために重要だが、いっぽう、再生可能エネルギーの発電施設は、その場所の生物・生態系、水循環など自然環境への影響をとおして自然資本の損失を招くおそれがある。そのため、再生可能エネルギー発電施設の立地適正化は、今後の日本と世界にとって重要な課題である。とくに太陽光発電は広い施設面積を要するため、自然環境への大きな影響が懸念される」
国環研はこう警鐘を鳴らした。発電容量0.5MW以上の太陽光発電施設の総面積は229.11㎢であり、これは日本の国土面積の0.079%に過ぎない。また、この面積の66.36%は容量0.5〜10MWという中規模施設が占めている。この点について国環研は「比較的小型の規模の施設が。累積的に自然環境を損なっていることを意味する」とコメントしている。
発電容量10MW以上の大規模施設も含めると、生態系の消失面積は二次林/人工林がもっとも多く143.3㎢、2番目は畑で82.4㎢、3番目は人工草原で80.5㎢、4番目は水田で66.7㎢である。天然林と自然草原は極めて少なく、一度人の手が入った土地、いわゆる里山の景色がソーラーパネルに取って代わったという形だ。「人工林や農地など人の手が加わった環境にも、生物多様性保存上重要な場所がある」と国環研はコメントしている。
太陽光発電はひとつのブームになっており、放棄された人工林や耕作をやめた畑、稲作をやめた水田を利益に変える手段としても注目されている。しかし、これまでと同様の無規制状態が続くと、将来は自然保護区への設備設置が増えて「さらに里山の自然が失われる」と国環研は結論づけ、規制の必要性を訴えた。
太陽光発電に使われる発電パネルそのものは、たとえばそのまま放置して廃棄したとしても、重量比でもっとも大きいのはガラスとアルミ合金フレームであり、この両方で約75%を占める。それ以外はプラスチックがほとんどでありケイ素などを使った発電パネルは重量比でたった5%でしかない。この中に多少の鉛などが含まれている場合もあるが、ものすごく乱暴な言い方をすれば、細かく砕いて埋めたとしても、大きな土壌汚染は考えにくい。
それに太陽光発電は小規模でも役に立つ。送電網とは無関係に、あるエリアまたはコミュニティ内の電力を太陽光、揚水、そして将来的には燃料電池といった複数の方法でまかない、送電網不要にするマイクログリッドが実現すればかなり理想的だ。その中心に太陽光を据える。ただし、ひとつの方式がフェイルした場合のバッファーと夜間電力を供給するための蓄電システムは必要になる。
太陽光発電の弱点は、天候に左右されるということよりも面積当たりの発電量の低さにある。発電量は太陽光の受光面積に完全に比例する。大規模発電となると大規模な平地が必要になる。発電施設の面積当たり効率は原子力が圧倒的に有利だ。
今年(2021年)2月に栃木県足利市で発生した山火事では106ヘクタールが焼失した。106万㎡である。1㎢は100万㎡だから、焼失面積はほぼ1㎢。これの143倍の面積の人工林が日本で太陽光発電施設に転換されたのだから、少々驚きである。経済活動主体で考えたときに「利益を生まない遊休地」であっても、そこには生態系がある。生態系に「遊休」はない。狭い国土の日本が将来、太陽光パネルだらけになって、それでカーボンニュートラルでございますというのはいかがなものだろうか。生態系や景観とのバランスを取るためのルール作りは必須である。
EUでも再生可能エネルギーによる発電は、いろいろな問題を引き起こした。ドイツなどでは陸上に風力発電の風車を新規建設することが極めて難しくなり、風車は洋上へ追いやられた。太陽光パネルは景観や迷惑での訴訟を抱えている。それでも、日本に比べれば太陽熱や地熱など、再エネ発電方法の選択肢はまだ多い。
日本では、もともと存在した水力以外では、太陽光が新エネ発電をほぼ牛耳っている。地熱資源は豊富だが、新エネの話が出るはるか以前に温泉地になっていた。太陽熱は日本のような高緯度地帯には向かないと言われ、世界初の実証実験を1981年に成功させたものの、安定した出力を得にくいなどの理由から凍結されたままである。
いずれ水素を使えるようになるだろう。技術面での体制整備は着々と進んでいる。しかし、その水素を作るときにCO2を大量排出したのでは元も子もない。日本では福島にFH2Rというグリーン水素(CO2排出しない手段で精製する水素)施設が建設された。エネルギーは太陽光である。同様の施設はオーストラリアやEUなどでも多数計画されており、現在はその規模の争いという様相も呈している。いまのところFH2Rが世界最大だが、どこも「1番になりたい」ようだ。それが目的のはずはないのに。
前回で紹介したように、資源エネルギー庁調べでは日本の1次エネルギー(無加工状態)供給構成は2018年度で石油37.6%、石炭25.1%、LNG(液化天然ガス)22.9%、再生可能エネルギー(風力、太陽光など)8.2%、水力3.5%、原子力2.8%である。これらは発電量ではなくエネルギー供給量であり、発電でのエネルギーシェアは2019年データで火力75.0%、水力と太陽光がともに7.4%、原子力6.5%、バイオマス2.7%、風力・地熱1.0%であり、再生可能エネルギー発電のシェアは18.5%まで上昇した。
東日本大震災以降、日本では原子力が停滞し再エネが増えた。火力はもっと増えた。しかし、原子力発電をどうするかの決断は下されていない。これは世界共通の悩みであり、EUでもアメリカでも既存の原子力発電所の耐用年数延長を決めた。新規の建設をどんどん進めているのは中国である。日本は日本独自の決断を下さなければならない。
簡単な計算をしてみた。筆者の自宅に太陽光発電パネルを設置するシミュレーションだ。太陽光発電協会のデータによると、出力容量1kWの太陽光発電パネルは1年間に約100kWhを発電できるという。1日当たり2.7kWhである。この数値は地域によって異なるが、東京はほぼこの数値だという。筆者宅の年間電力消費量は2020年実績で7200kWh。これをすべて太陽光でまかなうには72kWhの発電設備が必要だ。
この設備は膨大であり、木造3階建ての筆者宅では設置できない。屋上テラスをすべて太陽光パネルのために使っても、耐風圧や重量を考えると10㎡が現実的な線である。これで発電量は27kWh。損失係数をどれくらい設定するかで数値は変わるが、とても家の電力消費にBEV(バッテリー電気自動車)への充電分も加えた消費量はまかなえない。
ただし、BEVを蓄電設備とをセットで持てば太陽光発電の瞬間的な「発電し過ぎ」という現象からは逃れられる。BEVに搭載されているLiB(リチウムイオン2次電池)は現在の最高性能のものであり、太陽光パネルとBEVのセットにはCO2セーブの大きなポテンシャルがある。ただし、これは「日照時間帯はBEVがつねに家にある」ことが大前提である。ほとんどの家庭にとってこれは無理だ。となると、家庭用にもそこそこの容量の蓄電設備が必要になる。
「BEVも太陽光発電も補助金でまかなえばいい」は正しいか?
「BEVも太陽光発電も補助金でまかなえばいい」
これは正しいことなのか。家に充分な発電量の太陽光パネルを設置し、BEVも購入できるような世帯は、そこそこ裕福なはずだ。国民から集めた税金をそこに配分することには、筆者は反対である。フランスではBEVとPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)への補助金交付額に世帯年収が配慮されているが、日本もそうすべきだ。
ましてや、軽自動車までBEV化するのはいかがなものか。車両重量800kgで収まっているモデルにLiBを積んで100kg重たくすることが正義とは思えない。世界を見わたすと、衝突安全基準の適用外で高速道路を走れないような短距離移動専用のコミューターBEVがあるが、マイクロBEVが成立するとしたらこちらだろうと思う。現在の規格の軽ではない。
日常的に高速道路を利用している軽ユーザーは少ない。市街地〜郊外路の低中速域で使っているかぎり軽自動車は燃費がいい。日常速度域の低さは、EUと日本の自動車・運輸部門CO2排出寄与率の差の大きな理由だと思う。高速道路は130km/h巡行で空いている郊外道では100km/hが当たり前のEUと、高速道路100km/h、郊外の幹線バオパスでせいぜい70km/hの日本では、移動人キロ、移動トンキロだけでなく走行距離当たりの燃料消費で確実に差があるはずだ。渋滞が解消されれば、自動車交通の効率はもっと高くなる。
もう一点、建築基準の違いがある。日本では、ほぼ全国どこででも好きな場所に家を建てられるが、欧州の多くの国では市街地境界の外に家を建てる場合には農地や遊牧地があるなどの条件付きになる。市街地間(インターシティ)の自動車移動と市街地内(コミュニティ)の自動車移動は区別できる。小型のコミューターBEVが成立する理由はここにある。日本ではゴルフカートのようなBEVは公道を走ることはできないし、運転免許のいらない「クルマ以下」のクルマも存在しない。
ちなみに路上充電設備の設置では、日本の100V電源は不利だ。いまではずいぶん安くなったが、安倍政権時代に全国への設置が打ち出された急速充電設備は1基当たり600万円で、そのうちの半分に当たる300万円が基礎工事代金だった。重たい変圧器を内蔵した急速充電器はコンクリート基礎でないと設置できないため、費用の半分は「土木」向けだった。欧州では交流電源が200V以上であり、充電器は路上にポストを立てるだけなので費用は非常に安い。
筆者は、クルマの電動化、とくにBEV化については、社会に無理や分断を生じさせないよう配慮しながら、できることろから徐々に進めるべきだと考えている。そのベースは発電であり、せめて今後10〜20年先の電力消費を予測したうえで発電方法別のシェアについてロードマップを描き、国民の理解を得なければならない。当然、ここには自然環境や生態系の保護という視点が不可欠である。
要は日本に合ったプランを立てればいい。EU発の電動化プッシュは、いかにパリ協定という枠組みがあるとはいえ、いまやファンドやEU企業を使った日本への経済的内政干渉である。管首相はこれを黙認するどころか、積極的に参画しようとしている。だれの入れ知恵なのだろうか。とても持論とは思えないし世間のことは何も見ていない。
民主党政権の時に発生した東日本大震災では、米国から原子力空母ロナルド・レーガンに搭載している原子炉冷却設備の提供という打診があったと旧知の米国人ジャーナリストから聞いた。「当時の日本の総理はこれを断った」と。もし、あの時点で福島の原発事故が短期間で収束していたら……と思うと、その判断に至ったプロセスが検証され、世の中に公表されないことが将来の日本にどれだけの不利益をもたらすか想像もつかない。
筆者は「CO2が地球温暖化の犯人」という通説を疑っている。この問題について1988年から取材を続けてきた結果の持論であり、天文学や古気象学、熱力学といった分野の研究者諸氏からは「CO2が主犯だとは思えない。検証が必要だ」との声を多く聞く。ただし、もしCO2が主犯だとしたら対策しなければならない。その意味では、世の中は検証よりも対策を選んだ。対策なら、まともな対策を願いたい。少なくとも国家・地域・個人の経済格差を助長せず、自然環境を不必要に破壊せず、生態系影響を抑え、いたずらに世の中を混乱させない配慮が必要だ。
余談
日本学術会議は何をしているのだろう。兵器開発には関わらないというが、真っ先にCOVID-19ワクチンを開発した国々は核保有国でありNBC(ニュークリア・バイオロジカル・アンド・ケミカル=核兵器・生物兵器・化学兵器)防御の体制を持っている国々だ。日本学術会議には医学関係の学者がたくさんいるのに、ワクチン開発に積極的に関わっているという報道はない。ワクチンも兵器だと思っているのだろうか。
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