人生には反抗期が必要だ【ルノー・トゥインゴ:デザイナーインタビュー】
- 2019/08/27
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森口 将之
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8月22日、三代目トゥインゴがマイナーチェンジを受けた。そこでMotor-Fan.jpでは、この三代目トゥインゴの魅力を再検証すべく、前期型デビュー時のフランス本国取材や国内徹底取材を振り返る企画を数回に渡ってお送りする。第三回目の今回は、ルノーのデザイン部門を率いるローレンス・ヴァン・デン・アッカーのインタビューをお届けしよう。
TEXT●森口将之(MORIGUCHI Masayuki)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本稿は2016年7月発売の「ルノー・トゥインゴのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
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人生を楽しむためのクルマ──それがトゥインゴの役割
アッカー氏と言えば、チーフデザイナーに就任直後、人生を一輪の花に例えたデザイン戦略、「ザ・サイクル・オブ・ライフ」を掲げて注目を集めた。恋に落ち、世界中を旅し、家族を持ち、働き、遊び、英知を得る。人生を美しく過ごしていきたいと願うユーザーのパートナーとしてのデザインを、ルノーはクルマに込めていくことにしたのである。
具体的にトゥインゴのデザインについて伺う前に、このスケールの大きなテーマについてもう一度、アッカー氏に説明をお願いした。
「ザ・サイクル・オブ・ライフという考え方は、お客様との強い関係を築きたいという気持ちから生まれました。このラインナップがあれば、すべてのライフステージにアプローチできると考えています。ルノーはジェネラリストなので、さまざまなクルマを持っています。そこにはいろんなユーザーがいます。幅広いユーザーに受け入れられるためのブランドを目指し、クルマ作りを進めていくことにしたのです」
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続いてアッカー氏は、具体的な車種をサイクルに当てはめて説明していったのだが、印象的だったのは、最初は恋に落ちるからルーテシアと紹介し、これがアイコン的存在と口にしたことだ。恋をすることが、相手が人であってもクルマであっても人生の基本と考えているようなメッセージ。実にフランスらしい。
続いてパートナーと一緒に世界を冒険するのがキャプチャー、家族を持つのがセニック、家族を養うために仕事をするのがカングーなどとなり、次の「遊ぶ」にトゥインゴが該当する。仕事をしているだけじゃ人生はつまらない。だから遊ぶ。その役割をトゥインゴが果たすことになるという。よって見た瞬間に笑顔になれるクルマ、生き生きするクルマを目指したそうだ。フランス語で表せば、エスプリ・ド・ヴィーヴルとなる。
説明を聞きながら、日本人との人生観の違いを痛感した。僕たち日本人の平均的サイクル・オブ・ライフからいくと、子供の頃に遊び、思春期に恋をして、旅もしたりするけれど、大人になり家族は持ってからは基本は働き詰めというパターンになりがちだからだ。しかもトゥインゴはAセグメントという、最も小さなカテゴリーである。ボディもエンジンも小さく、価格も安い。日本では短絡的に若者向けとなりがちだ。
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アッカー氏によれば、サイクル・オブ・ライフは単純に年齢で区切っているわけではないという。遊ぶというライフステージを想定しているので、必ずしも若者だけをターゲットとしたわけではなく、40歳代でも20歳代のライフスタイルを求めているような、気持ちが若い人に向けた1台だという。いずれにせよ「恋に落ちる」ルーテシアとはターゲットが明確に違うことになる。
フランス人は遊ぶために働くと言われるぐらいだから、生活にゆとりが出てきたら、多くの人はそのゆとりを遊びに使うはず。クルマで遊ぶなら手頃なサイズでドライビングが楽しめるヤツがいい。そんな考え方でトゥインゴを選ぶ人、確かに多そうだ。昔も今も、パリはコンパクトカーをかっこよく乗りこなす大人が多いけれど、彼らは小さなクルマしか買えないのではなく、人生を楽しむためにこのサイズにこだわっているのだという思いに至った。
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そういえばスタイリングの方向性も、ひとクラス上のルーテシアやキャプチャーとは違う。ノーズがスロープし、ヘッドランプは鋭角で、サイドシルやキャビン後半を絞り込ませて、かなりダイナミックなフォルムとしているルーテシアとは、ボディサイズ以上の差がある。実はこれも、ザ・サイクル・オブ・ライフと関係があった。
「トゥインゴには遊びっぽさが欲しかったのです。より具体的に言えば、反抗的なイメージです。家族の中で言うと、外国へしばらく行っていたりして、ちょっと変わったおじさんみたいな人です。遊びがないラインナップはつまらないと思います。反抗的なクルマを入れることで、ラインナップが生き生きすると考えたのです。車格的にも遊びを盛り込みやすいので、その点を強調しました」
少し吊り上がった丸型ヘッドランプを据えたフロントマスクも、反抗期を表現したものだった。しかしながら、リヤエンジンらしさはあまり感じないという印象も抱いた。この点についてはアッカー氏も同意していた。
「これがリヤエンジンだ、というデザインは目指しませんでした。ジャーナリストの方々はリヤエンジンに興味を持つ人が多いようですが。実際のお客様で、そういう方向を求めている人は少数だと考えています。それよりもリヤエンジンのメリットとして注目してほしいのは、ホイールを4隅に置けることです。コンパクトなボディでありながらホイールベースが長く、トレッドが広いので、室内を広くとることができます。ステアリングの切れ角も大きく取れます。こういうメリットを示すような造形を心掛けたつもりです」
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確かに僕たち自動車メディアは、ルノーのリヤエンジンと聞いただけで歴代アルピーヌや8ゴルディーニなどを直感的に連想しがちだ。しかしゴルディーニではない8やその前のドーフィン、日本でもノックダウン生産された4CVは、量産セダンとして多くの人に愛用されたという側面もある。リヤエンジン経験が豊富なブランドだからこそ、冷静に見ることができるのかもしれない。
と言いつつ、新型トゥインゴのデザインはかつてのWRC(世界ラリー選手権)マシン、ミッドシップ・リヤドライブの5(サンク)ターボをモチーフにしたと、ルノーではアナウンスしている。一昨年にパリを訪れた際、シャンゼリゼにあるルノーのショールーム「アトリエ・ルノー」を覗いたときも、デビューしたての新型トゥインゴの傍に5ターボが展示され、デザインのモチーフになったことをアピールしていた。
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