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【新・カーデザインここだけの話】 忘れ得ぬ思い出のクルマたち 第一回 スタイルそして走り味まで、まるでボートのようだった ”アルファロメオ1600スパイダー・デュエット”

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アルファロメオ1600スパイダー・デュエット

カーデザイナーとして三菱自動車、マツダ、KIA等を経て、フリーランス・デザイナーとなった荒川健氏。その長く深いキャリアの中で出逢ってきたクルマの思い出を、紹介して行こう。

陸のスポーツクルーザー

優雅で美しいボディライン。ヘッドライトの透明のカウルはその美しい面造形を崩さない。スパイダーデュエットの誕生は1966年。その後、数回のモディファイを受けている。

独立してフリーランスのデザイナーとなった後に、デザインスタジオの近くに住むマツダのカタログを手掛けたことがあるという小さな広告代理店会社の社長と親しくなった。

いつもカッコいいクルマに乗っていたが、私がMotor Fan illustrated誌のデザインコラムを書き始めた頃ちょっと見てほしいクルマがあるといってスタジオ前に乗り付けたのが、なんとアルファロメオ1600スパイダー・デュエットだった。
ボディサイドには、誇らしげなピニンファリーナのエンブレムが輝いているではないか!

1966年2月のジュネーブショーでデビュー、デザインしたのはあのバッティスタ・ファリーナで息子のセルジオに全てを任せる引退前の最後の作品であった。
宇宙船を思わせる砲弾型流線型のエレガントなデザインは、戦後のイタリアン・モダンを代表するカーデザインとして歴史に燦然と輝いている。

長いテールを大きく下げるプロポーションと、サイドの上下を深くえぐるキャラクターラインが印象的。専用のハードトップも用意された(本国カタログより)

丸い曲面ボディは他の誰も真似のできない美しさを誇り、サイドの上下を2分する上品でシャープなキャラクターラインが絶妙な設定位置にあり、ピニンファリーナ社のデザイン力の高さを改めて世の中に知らしめるモデルであった。

さっそく助手席に座らせていただき、近くをドライブすることになった。
クルマは1968年登録とのことで、普通に屋根のある車庫かマンションの地下駐車場で雨に当たらず50年ほど無事に扱われてきた感じで、特別に丁寧でもなくごく自然に余生を過ごしてきた感じが好ましかった。
レストアされた形跡はなく、ところどころ経年並みの劣化や錆も自然で、前の持ち主は特にクルマ好きでもなく「ワックスもごく稀にしかかけてもらってない感じ」と言う新しいオーナーの言葉からは“これから可愛がってあげるよ”というニュアンスがにじみ出ていて面白かった。

オリジナルの硬いビニールシートは、お世辞にも座り心地がいいとは言えなかった。そして急加速で走り出すとフロントがグワンと持ち上がる独特の走りはいかにも時代を感じさせ、発表当時からボートテールスタイルと呼ばれていたが個性あふれるスタイルは全体もモーターボートそっくりだった。

しかし硬くてシンプルな座面形状のビニールシートはツルツル滑るが、背中の真ん中を支える湾曲したシートバック形状が意外によくできていることに気が付いた。さすがは椅子文化の先輩国、ツボを押さえたデザインは疲れにくく先ほどの急加速でノーズが持ち上がるときもしっかり背中をサポートしてくれるのだ。

ピニンファリーナ・マジックが生んだ魅力的デザイン

運転してみたらとの甘いお誘いに遠慮なくちょっとだけ運転させていただいたのだが、クラッチも普通に重くパワステではないためステアリングもめっぽう重い。しかし一旦スピードに乗れば着座姿勢、ステアリングの位置や傾斜角が最適で運転は極めて気持ち良かった。

私が持っている当時のカタログのレイアウト図をご覧いただきたいのだが、エンジンが当時のスポーツカーと比べかなりフロントに搭載されている。そのため路面のうねりでのノーズが上下する量がかなり大きめで、それに加えソフトなサスペンションと経年によるダンパーの劣化で本当に陸を走るモーターボートのような走行フィーリングなのが不思議で面白かった。
「昔のクルマはいいですね、早く走れなくても。」と褒めたつもりで言ったのだが、後で考えたら「こりゃポンコツですね」と先方は解釈したかもしれないと気が付き、まずいことを言ってしまったと反省した。

当時のアルファらしくシフトレバーの根元はかなり奥まっており、5速MTはまるで縦に操作するような動きになる。
0位置を大きく右に回り込ませたスピード&タコメーター。コンパクトながら、ホールド性も良いシート。(本国カタログより)

1年後、Motor Fan illustratedの購読者となった彼から「ちょっと見てほしいクルマが有るの」と電話があった。
今回スタジオに乗り付けてきたのはマセラッティ・クーペで漆黒のボディカラーに真っ赤な本革シート、真っ赤なブレンボのディスクブレーキが良く似合っていた。
聞くところによるとアルファロメオが高く売れたので買い替えたそうだ。
実に羨ましかったが、やはり「こりゃポンコツですね」と解釈されたのだと確信したのだが、今回も「前の3200GTのL字型リヤコンビネーションランプはカッコ良かった!」と思わず余計なことを言ってしまった。
その後1度いらっしゃった記憶はあるが、それきり訪れることはなかった。

そういえばマツダに移籍して間もないころ、デザイン部が所有する参考車のアルファロメオ2.0スパイダーをお借りしたことがあった。
シリーズ3でデザインも近代化し、空気力学の進歩に合わせテールをスパッと切り落としたコーダトロンカ・スタイルになっていたが、出力は有ったものの先ほどの1600スパイダー と走行フィーリングがそっくりで、やはりゆっくり走りたくなるクルマだったことを思い出した。それに広島周辺の初夏の、爽やかに空気の澄み渡った環境にぴったりのクルマであったことも昨日のように記憶がよみがえった。
さらには、映画「卒業」で準主役みたいに感じたのは私だけではないと思うが、使われたアルファロメオ1600スパイダー・デュエットはカリフォルニアの爽やかな風景にぴったりに似合っていて、おまけにダスティン・ホフマンを取り巻くアッパーミドル階層の生活を象徴する役目を見事に演じていたことも忘れられない。

そんなわけで私にとって、1960年代イタリアンモダーンデザインと美しい環境が一緒になった懐かしい“忘れ得ぬクルマ”の代表として、新連載の第1回目に選ばせていただいた。

アルファロメオ2.0スパイダー。バンパーやリヤエンドの大きく変更されたシリーズ3。(1988年撮影)

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