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ホンダから誕生したベンチャー企業第一号 株式会社Ashirase その意味とは?

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株式会社AshiraseのCEO 千野歩(ちの・わたる)さん。

ホンダでは、社内での事業創出プログラムを2017年より展開していた。当初は技術研究所において、社内ベンチャーという形で事業展開を行うための企画募集を行なっていたのだが、2021年4月からは、その展開を全ての従業員に向けるという発展を見せている。その中で、最初のベンチャー企業 ”株式会社Ashirase” が誕生し、2022年中に視覚障がい者向けの歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」を販売することとなった。大企業から生まれるベンチャー、その価値はどこにあるのだろうか?

人の豊かさを”歩く”で創る

 元来、ホンダが事業創出プログラムを立ち上げたのは、創業者、本田宗一郎氏の「人の役に立ちたい」との思いがあった。ホンダの製品づくりは、そのすべてにそのフィロソフィが受け継がれてきているが、ホンダの従業員が持つ独創的な技術、アイデア、デザインを形にして、社会問題の解決と新しい価値の創造に繋げるための座組みとして、IGNITIONという新事業創出プログラムは立ち上げられた。
 このIGNITIONの特徴は、次の通り。

・勤続年数や所属部門に関わらず、日本のHonda正規従業員は誰でも応募可能
・最終審査を通過したアイデアは、社内で事業化、あるいは起業しベンチャーとして事業化
・事業化判断までの期間は6ヵ月間を基本とし、期間中は専門スキルを持った社内人材によるタスクフォースチームが結成され、提案者をサポート
・審査過程において、ベンチャーキャピタルがアドバイスや支援を実施
・起業したベンチャーの独立性を担保するため、Hondaの出資比率は20%未満
 
社内だけでなく、条件的にベストと考えられれば提案者などが起業しベンチャー企業化しても良いものとなっている。その中ではこれまで、子供向けの交通安全アドバイスロボット"Ropot”(ロポット)などが、実証実験を行なっている。

子供達を交通事故から守り交通社会の一員である意識を生むRpot(ロポット)

実証実験を実施しているランドセルの肩につける、交通安全アドバイスロボットのRopot(ロポット)。

 ここで一足早く社内ベンチャーとして、実証実験に臨んでいるRopotについて紹介しよう。このRopotは交通安全アドバイスロボというもので、ランドセルの肩部分に取り付ける小さな見守りロボットだ。あらかじめ保護者が設定した道路横断地点に近づくと、Ropotが体を振動させ子供達に安全確認をすることを促すというもの。またスマートフォンのアプリケーションで、どんな道を歩いたのか、安全確認地点できちんと止まれたかも確認ができる。
 さらにそれだけではなく、ホンダらしいものづくりということでミリ波レーダーを利用して、後方から近づく車を感知し振動することで子供に伝える機能も持たせた。現在は研究所周囲の小学校の協力を得て、実証実験を行なっている。

社外ベンチャーとなった「あしらせ」の取り組みとは

「あしらせ」は靴に入れる歩行用ナビゲーションシステム。

 そして、ホンダ初の社外ベンチャーとなったのが、株式会社Ashiraseだ。ここで開発されているのは「あしらせ」という視覚障がい者が靴に差し込むことで使える、振動インターフェース。視覚障がい者の単独歩行をサポートするナビゲーションシステムで、スマートフォンとBluetoothでつなぎ、音声などで目的地設定をすることで最適な歩行ルートを案内するもの。
 靴の中に入れる振動インターフェースは、4方向に振動子を持っており、歩く方向や止まれの指示などを足裏の振動で感じ取ることができる。
 本田技術研究所の社員時代にIGITIONへ提案し、現在AshiraseのCEOとなった千野歩(ちの・わたる)さんは、ホンダでEVモーター制御や自動運転システムの研究開発を行っていたが、親族の事故をきっかけにプロジェクトをスタートさせたという。会社としての目標は「人の豊かさを”歩く”で創る」というものだ。

スペシャリストが集まりやすい大企業から生まれるベンチャー

左からIGNITION審査委員長の水野泰秀さん(本田技研工業)、株式会社Ashirase CEOの千野歩さん、IGNITION審査員の永田暁彦さん(リアリテックファンド代表)。

 千野さんの提案した企画がIGNITIONで審査される中で、この案件はリーンスタートアップが良いとの判断がなされた。このリーンスタートアップとは、できるだけ小予算で試作品を製作し、アーリーアダプターと呼ばれる流行や新技術に敏感な人たちに試してもらい、そのフィードバックを受けて製品開発を行なう手法だ。そんな経緯からも、社外ベンチャーとして「起業」の体制が見えてきたようだ。
 ところでRopot開発に話を戻すと、こちらの発案者の桐生大輔さんは、本田技術研究所でマフラー開発を行ってきた。電子技術とは程遠い世界だが、ここに集まってきたのがセンサーを含むシステム開発、デザイン、ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイン、実証実験、システム検証といった、技術研究所のスペシャリストだ。大企業でのベンチャー化のメリットはまさにここにあり、世界で戦えるスペシャリストが容易に集うことができる。当然、社外的にも社内で得難いスペシャリストとの交流も深い。つまり、単独のスタートアップで立ち上げるケースに比較して「7人の侍」が素早く集まりやすいのが社内ベンチャーの特徴だ。
 
 特に自動車メーカーは、さらなる複合技術がひしめく産業となっている。その中で車や車を取り巻く環境を開発して行くのは当然のこととなる。併せてその大企業のなかで働く人々の直面する問題や気がついた課題は十人十色どころか、千人千色といっていい。
 その課題に直面し、自動車業界という枠を飛び出しても、「人の役に立ちたい」という考え方は、まさにホンダらしいものづくりの体制なのではないだろうか。ここで生まれる柔軟な考え方は、必ずやホンダの製品にもフィードバックされる。という狙いも、内包されているように思う。
 

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