【新・カーデザインここだけの話】 忘れ得ぬ思い出のクルマたち 第二回 広島で感じた、ロータス・セブン&アウトビアンキA112アバルトの快感
- 2021/06/18
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荒川 健
カーデザイナーとして三菱自動車、マツダ、KIA等を経て、フリーランス・デザイナーとなった荒川健氏。その長く深いキャリアの中で出逢ってきたクルマの思い出を、紹介して行こう。
マツダ本社で出逢ったロータス・セブン!
1988年4月、三菱自動車からマツダに移籍しすぐにデザイン部の様々な設備を案内していただいた。興味津々であたりをくまなく見て回っているうち、私は車両用の大型エレベーターの近くに深紅のロータス・セブンがうずくまっているのを発見してしまった!
説明によるとあるコレクターの方から直接購入したとのことで、デザイン主査は試乗できるとのことであった。そのあと色々説明されたが上の空状態で何も覚えていない。
そして引っ越しが落ち着いた1988年の5月中頃、念願のロータス・セブンをお借りすることが出来た。しばらく使ってなかったとのことで担当の方が念入りに点検してくださって初夏の広島郊外に乗り出したのだが、爽やかな風が髪の毛と共に頭皮をマッサージしてくれて、初体験の気持ち良さを味わうことが出来た。
おそらく1968年頃のシリーズ3で、例によってクラッチの重さとステアリングは据え切りNGで切り返しの際大変な労力を要する。路面電車のデコボコでは、すぐ後ろで後輪が地面を蹴り暴れるフロントを機敏に修正しながらの加速感は他の何物にも代えがたい本物のスポーツカーで、よくコマーシャルでも耳にするファントゥードライブとはこれなんだと実感できた。
但しエンジンは旧式なフォードベースのロータス製4気筒ツインカムエンジンで、ソレックスのキャブレターの急加速する際の「シュコ!」という吸気音は頼もしいが、吹きあがりがいまいちで古さは否めなかった。またエンジンカバーやドアの戸当たりなど構造的な問題に加えフレームの捻じれも有るため走行中のガシャガシャ音がすさまじく、これもマニアにとっては嬉しい騒音に違いないと私は勝手に納得してしまった
真っ赤なボンネットの先端に黄色のロータスエンブレムが誇らしく輝き、将来成功の暁にはぜひとも手に入れたいと思った。
そんな体験のおかげで、広島の綺麗な空気を満喫しようと決心し社員販売で1988年型のフォードレーザー・カブリオレを買うことにした。男の子が2人だったため定員4人が丁度よく、ほんとうに広島はオープンカーにぴったりの環境であった。
ふと見つけてしまったアバルトに乗る!
そして2年ほどしたころ、欲しいクルマのキーワードが「赤色」「硬派なスポーツタイプ」「特別なブランド」ということで洗脳されてしまったらしく、三次のテストコースから帰る途中にある広大な中古車展示場にアウトビアンキA112アバルトが奥の方にあるのを目ざとく発見してしまった。もちろんボディカラーは深紅だ。しかも最も似合うATSの星型アルミホイールにピレッリの45%の扁平タイヤをはいていた。状態もすこぶる良い。試乗したら調子も良くたったの4万キロしか走っていない“見つけもの”であった。
深紅に黒いプラスチックのヘッドライトベゼルやバンパーが似合っていて、フロントグリルには価値あるアバルトのバッジが燦然と輝き、ほんとうに嬉しかった。
まもなく横浜研究所に転勤になったため土日のいずれかは必ず都心にドライブに出たが、休日は当時道路が空いていて一度は大使館ナンバーの古いオースチン・ミニクーパーと国会議事堂周辺の広い道路でシグナルレースをし、お互いグッドジョブと親指を立てあったりもした。
70馬力は700㎏と軽いボディには十分で、吹きあがりの良いアバルトチューンは素晴らしく、力強い加速とタイヤの食いつきで横っ飛びをする運転感覚は独特だった。独楽鼠になったように小回りが利きめっぽう楽しいクルマだった。
そんなわけで、サラリーマンの私にとっては140万円の予算で最高に自慢できる走りとステータスを満足させてくれた生涯で忘れられない思い出のクルマとなった。
そんなお気に入りのクルマでもいろいろな事情で手放す時がやってきた。カーグラフィック誌の個人売買のコーナーに写真入りで掲載したらすぐに買い手が見つかり、若い方が名古屋から新幹線で引き取りに来られ乗って帰られたのだが、なんと免許取り立てで最初に購入するクルマとして私のアウトビアンキを選んだのだとか。
無事に到着したとの連絡を待つ6時間の間、気が気ではなかったが若い人に引き取られたことが何よりうれしかった。
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