CVTのラバーバンドフィールを考察する——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第63弾
- 2021/02/17
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安藤 眞
モーターファン・イラストレーテッド173号の特集はCVT(連続可変式無段変速機)。欧米ではほとんど支持されていないこのトランスミッションが、電動化によって再び注目されるかも!?というのが特集の骨子である。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
欧米でCVTが不人気な理由のひとつが、いわゆる“ラバーバンドフィール”という現象だ。しかし、業界人なら当たり前に使うことの多いこの言葉を「具体的に説明せよ」と言われると意外と難しい。今回、寄稿した文章の中でも簡単な説明をしたのだが、文字数の関係でだいぶ端折ってしまい、実はあまり納得が行っていない。そこでこの場を借りて、もう少し丁寧な解説を試みたい。
CVTの最大のメリットは、減速比を連続無段階に変えることができること。たとえば急加速する場合、まずエンジン回転数が最高出力発生領域に高まるところまでプーリー比をローレシオ側に飛ばし、エンジン回転数は維持したまま、速度上昇に比例してプーリー比をハイレシオ側に振っていけば、最高出力を維持した状態で加速し続けられる。すなわち、エンジンのポテンシャル(潜在能力)をフルに引き出して加速できる、というわけだ。
また、実走行のように加減速を繰り返す場合、必要なパワーも常に変動しているため、減速比が連続可変なら、それに追随してエンジンの熱効率が高い領域を使いながら走ることができる。走行に必要なパワー(P)は、トルク(T)と回転数(N)の積 ÷ 716なので、たとえば20ps必要な場合、4.77kg-m×3000rpmでも、9.55 kg-m×1500rpmでも、どちらの組み合わせでも良い。もっと言えば、“P=T×N/716”さえ満足できれば、組み合わせはいかようでも構わない。その範疇で、等燃費線図上で熱効率が最も高くなるように減速比を連続的に変化させられる=常に最大効率点を使用できるのが、CVTの特徴である。
ただし、これを最大限に発揮させてしまうことで、顕在化するのがラバーバンドフィールだ。
たとえば前者の場合、アクセルを踏み込んでいるのに加速せず、まずエンジン回転数だけが跳ね上がる。続いて、エンジン回転数は一定なのに、速度だけがスルスルと高まっていく。まるで、幼児を乗せた足こぎ自動車にゴムバンドを付けて引っ張ったときのように、引っ張った瞬間には加速せず、引っ張った手を止めてから、ゴムが縮んで加速が開始されるかのような振る舞いとなるため、“ラバーバンドフィール”という名前が付いた(のだと思う)。
これがアメリカで特に指摘を受けたのは、その走行環境によるところが大きい。アメリカのフリーウェイは導入路が短いところが少なくなく、日常的に、強い加速を長く要求されるシーンが多いため、ラバーバンドフィールを体感する機会自体が多かったのだ(173号P28にデータが掲載されている)。
あるいは後者の場合、緩加速をするときに、エンジン回転数は高めずにトルク(=スロットルバルブ開度)を大きくしたほうが、熱効率最高領域を維持しやすいというケースがある。そうなると、①アクセルペダルを踏み足したのに、②エンジン回転数は高まらず、③速度だけが上がっていく、という振る舞いになる。これも、アクセルペダルとスロットルバルブがゴム紐でつながっているかのような感覚を生じる。
特に教習車がMTしかなかった時代に免許を取った世代には、これが大きな違和感となる。MTでは、アクセルペダルの踏み込み量とエンジン回転数、それに車速との関係は、常に比例関係にあったし、なによりこれを把握することが、坂道発進を首尾良くこなして免許を取得する最低条件でもあった。だから、“ペダル踏み込み量∝エンジン回転数∝車速(∝は比例)”という感覚が染みついているのだ。
すなわち、自分の行った操作とエンジン回転数、それに車速の三者を常に関連付けて把握しようとしているからこそ、ラバーバンドフィールを感じる、ということであり、ATで免許を取ってCVT車から運転履歴をスタートさせた世代の中には、「ラバーバンドフィール? なにそれ美味しいの?」と思う人もいるかも知れない。
ともあれ、この仮説が正しかったとすると、電動車にCVTを採用するためのハードルは、内燃機関車より低いことに気付く。“ペダル踏み込み量∝エンジン回転数∝車速”という相関関係のうち、“エンジン回転数”という要素がなくなるから(モーターの音や振動はドライバーに伝わらないレベルまで下げられる)、ラバーバンドフィール自体が霧消してしまうのだ。
電動車で変速機が必要になるほど高速で走ることの是非は置くとして、電動車+CVTの相性は、内燃機関と組み合わせるより良いのは間違いない。特に、これまでCVTの普及率が低迷していた欧州では、伸びしろが大きいと言えるのではないか。
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