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文:高橋 剛 自立型バイクはバイク乗りをジジババ化する

  • 2017/11/08
  • ゲッカンタカハシゴー編集部
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今回の東京モーターショーでお披露目されたホンダ・ライディングアシスト-e(写真提供:本田技研工業)

最近ちょっとおとなしくしっとりはんなりしとやかな記事を書いていたが、今回ばかりは言わせてもらおうと思う。東京モーターショーに出展された自立型バイク、ホンダ・ライディングアシスト-eとヤマハ・モトロイドだ。あの2台、どうもオレにはポンと来なかったのだ。間違えた。ピンと来なかったのだ。

 オレはどうにもこうにもホントにライディングがヘタクソだと自認している。まずもって信号待ちの発進停止がスマートにできず、自分でイライラする。ブレーキをかけて減速し、足を着くだけの行為だが、そのタイミングがうまく取れず、オタつくことが多い。発進の時もスローペースすぎるせいか人間がひねくれているせいか分からないが、右だか左だかにわずかに傾くのが気に入らない。

「ですよね!? そんなあなたにこそ、ライディングアシスト-eやモトロイドがオススメです。これからはバイク任せで安心して低速域を楽しめます。ふらつきも立ちゴケもナシ。あなたはただバイクにまたがってぼんやりしているだけ。緊張することもなく、より気軽にバイクに乗っていただけますよ」

 ふんふん、そいつぁありがたい。……って、ちょっと待ってーっ! オレからバイクを操る喜びを奪わないでーっ! 

 しつこいようだがオレはホントにヘタクソだ。そしてバイクは、自分のヘタクソさを分かりやすい形で示してくれるありがたい乗り物なのだ。だからうまく操りたいと思うし、そのために自分なりの練習や勉強や努力や工夫をするし、たまにうまくいった時にはものすごくうれしい。子供が初めて補助輪ナシの自転車に乗れた時の、ドキドキオタオタヨロヨロしながらの「うひゃっほーっ!」という喜び。オレのようなヘタクソは、バイクに乗るたびにあの感動を鮮烈に味わっているのだ。

 重要なのは、低速であればあるほど、少ないダメージで自分のヘタクソさを思い知ることができるということだ。転がったバイクの姿は「オレの失敗」の分かりやすい具現化。戒めそのものである。オレは自分の何がいけなかったのか思い当たる節を考えられるだけ考えて、反省すべきを反省し、バイクに全力で謝るのだ。「もう絶対転ばないからね」と。そしてしばしの落ち込みの後に何事かを得て、さらに学び、次につなげていく。そしてまた失敗する。以下ループ。それでもオレは、ほんの少しずつでもライディングというものを習得していくだろう。つまりオレは、失敗することで成長していけるわけだ。

 そりゃあ転倒すれば手痛い現実がオレの身とサイフに襲いかかってくる。立ちゴケだってバカにすることはできない。できるだけ避けたい。でもそれはバイクの仕事じゃない。バイクはできるだけシンプルに、ただそこにいてさえくれればいい。あとはオレがやるから。なんちて。でも、そういう覚悟というかヤセ我慢の美学というか、ムダに力入る変なトコがバイクのカッコよさだと思うのだ。自立型バイクに乗ったら、オレは自力でどうにかバランスを取ろうという意欲や向上心を失うだろう。そして急速に老け込み、バイクにまたがりながら渋茶などをすすりミカンの皮を剥きテレビなど観始めるのだ。だって自分でバランスを取らなくていいんでしょう? やることないじゃん。

「いえいえ、ご安心ください。バイクがバランス取りをアシストするのは低速域まで。高速域は今まで通りの走りがお楽しみいただけます」

 ちょっと待ってーっ! 高速域こそ転ばないようにサポートしてーっ!!

 テクノロジーがサポートするべきなのは、比較的安全に失敗できて習熟の喜びも得やすい低速域よりも、失敗しづらいけれど失敗すると大ダメージを食らう高速域の方じゃないか、とオレは思う。もし自立型バイクのめざす制御が「低速域で効き、高速域では解除される」といったシロモノなら(ライディングアシスト-eはそんな仕組みだと聞くが)、それは完全に使いどころが逆だ。

 バイク乗りの皆さんなら体感的にご存知のように、バイクは高速になるほど安定する。つまり、乗り手としては失敗しにくい。ごまかしが効くっていうんですかね。オレの体験例でいえば、200km/hオーバーで突入する筑波サーキットの最終コーナーはそこそこうまく行くけど、80km/hぐらいのヘアピンがヘベレケで大きくタイムロスする、と言った具合だ。しかし、高速になるほど何かあった時のダメージは大きい。筑波のヘアピンで転んでもダメージは少なめだが、最終コーナーで転んだらタダゴトでは済まない。このあたりは転倒の仕方にもよるので一概には言い切れないが、速度が高いほどエネルギー量が増大するというシンプルな物理法則に基づいた大まかな理解としては間違っていないと思う。

 例えばクネクネした峠道を走っていて、オーバースピードで高速コーナーに突っ込んでしまったとする。「アッ!」と思わずガードレールを見てしまい、ごくごくわずかでもブレーキングのタイミングが遅れたら、もうアウトだ。まさに高速でガードレールが迫り、対処する猶予を与えてくれない。ABSがあるったって、アレはライダーのブレーキ操作に対する制御であって、手遅れになる前にブレーキングを開始をしてくれるわけじゃない。トラクションコントロールがあるったって、アレはスロットルを開けるというライダーの操作に対してエンジンパワーを制御するだけだ。高速でガードレールが迫り、ギュッと身が強ばって何もできない時に、トラコンは「シーン……」てなもので、何もしてくれない。電子制御、電子制御といったところで、パニック状態に陥ったライダーが操作できない時にアシストしてくれるわけじゃないのだ。

 低速域でのバランス取りを自立型バイクが肩代わりしてしまったら、乗り手はいつまでもライディングを習熟できない。そして何も分からないまま安全安心快適のうちにヌクヌクと高速域に至ってしまう。高速域では確かにバイクが安定するが、それは単に物理現象によるもので、スキルのおかげじゃない。しかも膨大なエネルギーを携えている。しかし習熟していないライダーはそのことに気付かない。そしていつか「アッ」という瞬間が訪れる。ライダーがパニック状態になり、膨大なエネルギーが突然キバを剥く。その時自立制御は切れている。迫るガードレール。自立型バイク、「シーン……」。怖ぇよ、そんなの。

 希望的観測を述べれば、ライディングアシスト-eもモトロイドも現時点ではまだまだ全然ヒヨッ子みたいな技術で(東京モーターショーでは補助輪ついてたし)、そのモーターショーへの出展は「とりあえず現状こんな感じなんですけど、いかがです?」というお披露目なのだと思う。将来的には高速域でのライダーのミスもリカバリーできるまでに成長するのだろう。というより、心からそうなってほしいし、そうなった時に初めて市販化を考えてほしい(現時点ではホンダもヤマハも市販化するなんてヒトコトも言ってないけど)。

 しつこい性格なのでしつこく言っておこう。低速域でのバランス取りは人間にやらせてほしい。今のところバイクは、乗る人の身体能力や反射神経との相乗効果によって、優れた機能を発揮する乗り物だ。同じバイクでも、うまい人が乗る時とオレのようなヘタクソが乗る時とでは動きの滑らかさがまるで違う、という具合に。バイクが、乗り手に一定の能力を求める乗り物なんだとしたら、ちゃんと習熟の機会を与える乗り物であってほしい。転倒のダメージを減らすための方策や、未来の交通社会への対応なんかは別途全力で考えてもらうとして、とりあえず低速域は人間に頑張らせていただき、習熟の喜びを感じさせてもらいたいのだ。

 もしメーカーがバイクを習熟不要の乗り物にするつもりなら、高速域での転倒を防ぐためのテクノロジーこそ本気で磨いてほしい。だって、みんなオレ以上にヘタクソになるってことなんだから。メーカーがそういうバイク界をイメージしているなら、バイクが自ら危機的状況を察知することに始まって、やるべきことは恐ろしくたくさんあるはずだ。そして、あらゆる場面で完全に完璧に自立して自律し、制御してくれなくちゃ困る。それこそ、乗っているジジババが渋茶をすすりミカンを剥きテレビを観ていてもOKなぐらいに。「ここまでは自立システムの守備範囲、ここからはライダー次第」みたいな中途半端さじゃ、習熟すべきなのかすべきじゃないのか分からないじゃないか! どうしろっていうのだ!! バンバン!!!(机を叩いてる)

 東京モーターショーに登場した、ライディングアシスト-eやモトロイドというヒヨッ子ども。人のあとをピヨピヨついて来たりしてカワイイもんだが、実はヤツらは、バイクとは何なのかを問い、メーカーとしてバイクをどうしていくつもりなのかを問う、ものすごく重要な存在なのである。ホント、どうするつもりなんだろうなぁ……。オレは今んとこ、渋茶ミカンテレビバイクはいいや……。

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