2020年MotoGPを振り返る。/クラッチローとドヴィツィオーゾ、MotoGPから離れた二人のライダー
- 2021/01/04
- 伊藤英里
シーズンの最後には、いつもいくつかの別れがある。それは2020年シーズンも例外ではない。ここでは、2020年をもってMotoGPクラス参戦を離れることになったアンドレア・ドヴィツィオーゾとカル・クラッチローに焦点を当てていく。
TEXT●伊藤英里(ITO Eri)
PHOTO●Ducati、Honda
“長い休暇”を選んだドヴィツィオーゾ
アンドレア・ドヴィツィオーゾは2008年からMotoGPクラスに参戦し、ホンダ、ヤマハを経て2013年からドゥカティのファクトリーチームで戦ってきた。バレンティーノ・ロッシ(Monster Energy Yamaha MotoGP)やマルク・マルケス(Repsol Honda Team)のような華々しいライダーかと言えば、少し違うかもしれない。けれど、確かな実力で2017年から2019年シーズンにかけてマルケスとチャンピオンを争い、3シーズン連続でチャンピオンシップのランキング2位を獲得した。
引き続きDucati Teamから参戦した2020年シーズンはマルケスの負傷欠場が続いたことで、ドヴィツィオーゾにとってはチャンスのシーズンだったはずだ。しかし、成績は安定しなかった。第2戦スペインGPでの3位表彰台と、第5戦オーストリアGPで優勝を飾るのみにとどまってしまった。
2021年シーズン以降に向けたドゥカティとの契約更新は、スムーズにいっていなかったようだ。年々ライダーの契約時期が早まっている上に、2020年シーズンは新型コロナウイルス感染症の影響で、MotoGPクラスの開幕が遅れた。初戦を待たずに2021年シーズンの話題が飛び交い、ライダーたちはどんどん契約を決めていった。ドヴィツィオーゾはそんな状況の中で取り残されていた。8月中旬、ドゥカティとドヴィツィオーゾとの関係は、2020年シーズンをもって終了することが明らかになった。このころ、ドヴィツィオーゾがMotoGPクラス残留を目指すのであれば、選択肢はほとんど残されていなかった。
MotoGPクラスでホンダ、ヤマハ、ドゥカティのマシンを駆り、13シーズンを戦ってきたドヴィツィオーゾの元には、テストライダーとしての話がいくつかあったという。しかし、ドヴィツィオーゾが下した決断は、2021年シーズンは“長い休暇”をとることだった。つまり、2021年はMotoGPクラスへの参戦を休止し、翌2022年シーズンへの可能性を探ることにしたのだ。それは、ドヴィツィオーゾのMotoGPクラス参戦への情熱が、いまだ冷めやらぬものであることを示していた。
テストライダーへの道を選んだクラッチロー
LCR Honda CASTROLのカル・クラッチローは、2020年をもってフル参戦ライダーとしてMotoGPクラスを戦うシーズンを終えた。2010年シーズンに市販車をベースにしたバイクで争う最高峰のレース、スーパーバイク世界選手権(SBK)でランキング5位を獲得したクラッチローは、翌2011年からはMotoGPクラスに戦いの場を移し、以来ヤマハ、ドゥカティ、ホンダで戦ってきた。
転倒が多いライダーではあったが、特に2018年シーズンの第17戦オーストラリアGPフリー走行での転倒により、右足首に深刻な怪我を負った。しかし、2019年シーズンには見事に復帰し、3度の表彰台を獲得している。2020年シーズンは第2戦スペインGPでの転倒により負った左手舟状骨の骨折や、右腕の腕上がりの手術などを受け、2020年シーズンは表彰台を未獲得に終わった。
2020年シーズンの開幕前にはすでに、ホンダのファクトリーチームから参戦していたアレックス・マルケスが2021年はサテライトチームであるLCR Hondaに移籍することが決まっていた。そして、第12戦テルエルGPではもう一人のLCR Hondaライダー、中上貴晶が2021年も同チームから継続参戦することが発表された。
クラッチローの去就は注目を集めたが、彼が選んだのはヤマハのテストライダー。それは、フル参戦ライダーから退くことを意味していた。2020年シーズンの最終戦ポルトガルGPを終えたあと、クラッチローは「終わったと感じている。チャンピオンシップで、やりたかったことをすべてやったと思う」と、その表情はどこかさっぱりしていた。そして、最終戦から数週間、どう過ごすのかを尋ねられると、「家に帰るよ。今年はルーシー(妻)とあまり会っていないし、ウイロー(娘)もパパに会ってない。僕たちは常に一緒に旅していたけれど、今年はいつもとは違っていた。家に帰るのが待ちきれないよ」と家族想いの一面を隠さなかった。さらにはこの先の人生の中で違うことをしたい、とも。クラッチローは穏やかに心のチャンネルを切り替えていたようだった。
※ライダーの所属としてカッコ内に記載しているチームは2020年シーズンのもの。
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