四半世紀ぶりに刷新、やれることをすべて盛り込むマツダ・スカイアクティブMTはこうして作られた

2019/12/14

マツダ・スカイアクティブMT

マツダは「SKYACTIV（スカイアクティブ）」と名付けた次世代技術を2010年10月に発表した。横置き6速MTもそのひとつで、ガソリン／ディーゼルエンジン、6速AT、ボディ、シャシーと同時に発表。最大許容入力トルク270Nmのミッドサイズ、同460Nmのラージサイズをラインアップ。ミッドは2軸、この項で紹介するラージは3軸である。

シフトレバーだけを短くしてストロークを短くすると、レバー比が小さくなり大きな操作力が必要になる。そこで、作用点であるケーブルの先、すなわちシンクロのストローク量を短くしてレバー比を上げ、短いストロークと軽い操作力を両立させた。

〈ストローク短縮とレバー比拡大〉スリーブがシンクロを押し分けた後でかみ合うスプラインの奥行きを縮めると同時に、背面にある隙間を縮めて内部ストロークを縮小。45mmのストローク量（a）に対し、7.65㎜の内部ストローク（b）とした。

ニュートラル位置からあるギヤ段にシフトする際の手の移動距離（横軸）と操作力（縦軸）の関係を表す。30mm付近の小さな山はシンクロ由来。ぐっと押したときに荷重が上がった直後は吸い込まれるようにしてギヤ段に入り、最後は適度に押しとどめてくれる。抜くときはすっと抜けるのがいい。

左がスカイアクティブMT（ラージ）の1速ギヤ。左が従来の1速。スリーブ側とかみ合うスプラインのストロークを縮めている。加工レスの冷間鍛造品で、「地場のサプライヤーさんが頑張ってくれた」（MT設計グループ岡留泰樹氏）。

ディテントは、ロッドが回転した際の乗り越え時にシフトフィールを作り込む部品。用をなさないセレクト時（ロッドの上下スライド時）にはディテントを押しつけるばね荷重を引きずっていた。マツダの開発陣はこれが重さにつながるとして嫌い、セレクト時にはディテントが一緒に動く構造にすることで無駄な荷重をドライバーに与えないようにした。

他の要件を優先すれば、高速段側にシフトする動きのなかでセレクト方向にシフトレバーを動かす際、ドライバーはそうと知らずにロッドを持ち上げる方向に動かすことにもなりうる。これでは軽快なフィールを損なうと、スカイアクティブMTではアップシフトするに従ってロッドを下に落とす構造とした。ガイドプレートの形状が（斜めシフト性を含め）シフトレバーの軌跡を決める。計算ではなく、試験を積み重ねて形状を吟味した。

シフト方向のフリクションを低減するための技術のひとつが、スライドボールベアリングの採用。前ページで説明したロックボールタイプのキー構造を加え、カセットチェンジには4つの重要な技術を投入。操作力の低減とシフトフィールの改善を狙う。シフト＆セレクト機能がコンパクトにまとまっているので、AMT化はそう難しくなさそう。

シフトストロークを短くしつつ、操作力も低減。物理量だけでなく、ドライバーが感じるフィーリングにもこだわった。ミッドとラージでフィーリングをそろえただけでなく、マツダのどのクルマに乗っても同じフィーリングが味わえることが目標。クラッチも同じ。ペダルの荷重特性やミート～発進特性をそろえるべく取り組んでいる。

スカイアクティブMT・ラージの重量は50kg台半ばで、従来品より10kg以上軽くなっている。スカイアクティブMT・ラージより軽い3軸トランスミッションも存在するが、トルク容量は小さい。もともと3軸は全長を短くできるのが利点のひとつだが、スカイアクティブMT・ラージは約370mmで、ベストインクラスである。

左が従来手法で設計したケースで、9.75kg。右がゼロベース設計で行なったケースで7.5kg 。1万基生産すれば、22.5tのアルミ合金を節約できる。「最初に必要最小限のケースを設計し、次に強度的、NVH上必要なリブを追加。最後に形状の最適化と生産要件を織り込んで設計する」（パワートレイン開発本部主査菊池敏之氏）。従来は全部まとめて設計した後で不要な肉を抜く手法だったため、一度付いた肉を取り切れなかった。

「ヨーロッパのモード燃費で1％改善」（菊池氏）する効果を挙げたのが、ユニット抵抗の低減。シャフトをボールベアリング化したのに加え、透明ケースを作ってオイルをモーターで回し、様子を確認しながらオイルレベルを確認。シミュレーションでの検討と並行して実地に検証したことで、オイル量の低減に結びついた。

記事に戻る

四半世紀ぶりに刷新、やれることをすべて盛り込む マツダ・スカイアクティブMTはこうして作られた

四半世紀ぶりに刷新、やれることをすべて盛り込むマツダ・スカイアクティブMTはこうして作られた