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中国のSUV市場は年間900万台。これをどう読むか? どうするか? [牧野茂雄の自動車業界鳥瞰図] 中国市場は「ひとつの国」に非ず

  • 2017/08/16
  • Motor Fan illustrated編集部
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吉利汽車全体のデザイン展開は、ボルボのデザイン総責任者だったピーター・ホルベリー氏が監督する。LYNK&COの商品も同様であり、かつてはてんでバラバラだった吉利のデザインに戦略性が見られるようになった。李書福会長の直轄であるホルベリー氏のポジションは、欧州流のデザイン担当副社長であり、少なくとも現状ではこの体制で吉利のデザイン部門はまとまっている。「大方の日本車はデザインに魅力がない」などと言わせておいていいのだろうか。

中国でのSUV年間販売台数は昨年、900万台に達した。2017年1〜3月はすでに240万台のSUVが売れた。この市場を自動車メーカー各社が放っておくはずはなく、今年4月のオート上海でも新型車の発表が相次いだ。なかでも中国独立系のSUV熱が凄まじい。SUV市場はまさに階層構造化の様相である。
(ジャーナリスト・牧野茂雄がレポートする)

中国では、全国区ではない中小規模メーカーもSUVを持っている。すべてがトラックのフレームに車室を載せる方式だ。地元の省を中心にある程度の販売台数を見込めるためだ。地方の小規模メーカーは上海、北京、広州の車展(モーターショー)には出展しないが、中国全土で年間50回ほど開催される地方の車展では鼻息が荒い。それぞれの地元市場にアピールし地産地消を狙う。全国区で販売するためには許可が必要だが、少ない生産台数でも採算ラインを超えれば結果オーライなのだ。

2004年に中国政府は「自動車業界を再編し国際競争力のある大規模集団(グループ)と国内需要中心の中規模集団にまとめる」と発表したものの、政府主導の再編は止まったままだ。国内需要が旺盛なため、昨今はむしろメーカー数が増えている。その原因がSUVの活況であり、どこかからトラックの設計を購入し、パワートレーンを購入し、SUVのキャビンを載せて商品に仕立てたモデルが増えているのだ。

日本で話題になる中国のSUV市場は、欧州メーカーの好調と日系メーカーの巻き返しといった内容がほとんどだが、実はもっとも販売台数が多いのは中国メーカー製SUVである。そのなかには、海外から技術者を招いて開発したもの、合弁相手の海外メーカーに協力を仰いで開発されたもの、エンジニアリング会社から設計図面を購入したもの、そして見様見真似のコピーなど、出自はさまざまである。

たとえば電池メーカーである比亜迪(BYD)の子会社・BYDオートは、漢字一文字車名の最新シリーズと、かつてエンジニアリング会社から設計を購入したシリーズを量産している。吉利汽車はボルボ・カーズ買収前に中国系エンジニアリング会社から設計購入したモデルが現在でも販売台数上では主力にとどまる。非国営の独立系自動車メーカーは運営が柔軟であり、国営勢よりもSUVの品ぞろえは豊富だ。

中国メーカーは、商品そのものが階層構造になってきた。「ブランディング」よりも車両価格での分類である。自社商品に松竹梅があり、想定ライバル社や海外勢と闘うための全国区向け戦略車、若者向けなど新展開の商品群、それと旧来からの地元向け商品という区分が一般的だ。これに広大な国土がもたらす気候風土や宗教・民族の違いが重なり、中国市場の階層化は複雑である。およそ自動車という商品に限って言えば「中国」という国家は存在しない。階層構造の根幹は可処分所得であり、これに居住地域(1~5級都市)が影響する。市場は「北京」であり「重慶」「長春」であって、中国ではない。そしてキーワードがSUVなのである。

近年のSUV成功例を挙げれば、上海通用五菱が2015年に発売した「宝駿560」である。通用とはGM(ゼネラルモータース)の中国語表記であり、国営最大手である上海汽車とGMの合弁開発会社・PATACが設計を担当した。上海通用五菱のモデルは、破綻した韓国の大宇自動車をGMが引き受けて新興国向け商品の開発拠点として活用してきたGMコリア(旧GM大宇自動車技術)の資産も流用する。そして宝駿はGMのブランドではなく上海汽車とGMのコラボレーションである。

この「宝駿560」は、上海通用五菱が14年に発売した3列シートミニバン「宝駿730」をSUVに仕立てたモデルであり、宝駿ブランド初のSUVである。設計は古いが実績のある4気筒1800ccエンジンと5MTのみの設定で価格は7.7~9万元。もともと上海通用五菱は貨客兼用車(商用バン)が主力であり、09年に中国政府が導入した汽車下郷(農村にクルマを)政策を機に内陸部への販売店展開を本格的させ、農村開拓の地歩を築いた。とくに地元系メーカーの販売拠点しか存在しなかった4~5級都市を開拓し、販売網を整えた。その結果、安価な「宝駿560」が地方で売れたのだ。

かと思うと、同じ上海汽車集団でも英・MGローバーを買収して設立した上海荣威は別の価格帯を狙う。独・VW(フォルクスワーゲン)および米・GMとの合弁を持ち、一部には上海通用五菱のような保有母体拡大のための安価な商品を持つ上海汽車は、キャデラック、アウディ、VWといった海外ブランドのすぐ下に荣威を置いた。荣威と書いて「ロエベ」と読ませるのは、本当は使いたい「ローバー」という商標権を獲得できていないためだ。ローバーに発音が似ている「ロエベ」である。

2017年の上海車展で上海荣威は、すでに販売しているSUV「RX5」のハイブリッド仕様を披露した。元をたどれば上海汽車が04年に買収し11年にインドのマヒンドラ・アンド・マヒンドラに売却した韓国・双龍(サンヤン)自動車の設計が下敷きである。1500ccエンジンに電動モーターを組み合わせ、車両価格は21~23万元。ナンバープレート交付を制限している上海や広州などの大都市で「環境対応車」枠の優遇に適合するSUVとして販売する。「宝駿560」とは異なる都市型SUVだ。

同じ上海汽車集団のSUVでも、VW・ティグアンやアウディ・Qシリーズは高級路線であり、狙いは富裕層である。VWグループは傘下にポルシェ、ランボルギーニ、ベントレーという高級ブランドを持ち、昨年からベントレーが超高級SUVの販売を開始したことで取り扱うSUVの価格帯は200万元以上にまで広がった。販売展開の基本は車両価格と販売地域によるマトリクスを埋める展開である。

国営メーカーのなかでは、上海汽車と並んで北京汽車、長安汽車が「自前のブランド力の獲得」に対し熱心だ。ある日系自動車メーカーのデザイナーは「長安と北京はさまざまな手を使ってデザインの技術を磨いている。同時に会社としてデザインの位置付けを重視している。市場で人気のある独立系メーカーの商品に対して意地を見せている」と語った。中国には、いまだにあからさまなデザインコピー車もあるが、国営各社と独立系大手は「もはやそのレベルではない」と、日系メーカーのデザイナー諸氏は言う。コピー天国などという視点で中国企業を卑下していたのでは階層化する自動車ビジネスについていけない。

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