今日から覚えるエアレースの歴史。〜1930年／♯01　レッドブルエアレース

2019/08/16
MotorFan編集部

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　アメリカが三連覇してレースが終了するかと思われたが、アメリカ軍チームは突如、シュナイダー・トロフィーからの撤退を発表。水上機のレースで得られるものは、もはやないという判断からだった。これ以降、アメリカでは国内で開催されるようになった陸上機のレースで独自の進化を遂げていくことになる。　
　ここからシュナイダー・トロフィーは、イギリスとイタリアのマッチレース状態となる。フランスが開発で遅れ、対等に戦えなくなった為だ。イタリアはちょうどムッソリーニ政権となったばかり。イタリアの力を世界に知らしめる為、国のメンツをかけてレースに挑むことになった。

　対するイギリスは、いくつもの機体メーカーとエンジンメーカーがレースに向けた開発を行い、その中から素晴らしい性能を発揮する機体が登場した。後に名機スピットファイアを開発する天才エンジニア、レジナルド・ミッチェルのスーパーマリンS5である。

　イタリアはカーチスを参考にして独自に進化させたマッキM39、M52、M67を作り上げたが、エンジンの性能が安定しなかった。ハイパワーを追求したマグネシウム合金製ピストンが溶けて穴が空いてしまうなどのトラブルが多発。無理を押して出場したレースではエンジントラブルから死者も出してしまう。
　イギリスはS5を進化させたS5B、更にS6を作り上げてエンジンをロールス・ロイスRに変更。更に速さを増していた。イタリアと決定的に違っていたのはエンジンの信頼性。マーリンエンジンはハイパワーだっただけではなく、トラブルが少なく壊れなかった。

　1927年、1929年と2連勝したイギリスに対してイタリアは、ついに怪物レーサー、マッキMC72を開発した。エンジンを直列に2機搭載。２つのプロペラを反対の方向に回転させ、強大なトルクで機体が傾くことを防止するモンスターだ。S6にも負けることのない最終兵器ともいうべき機体だった。
　しかし、信頼性を高める為のテストが追いつかなかった。事故でパイロットが殉職したこともあり、イギリスに対してレース延期を申し出るもののイギリスはこれを受け入れず、イタリアは苦渋の決断でレースを棄権。最大のライバルがいなくなったレースでイギリスは1931年の大会で三連覇を成し遂げ、ついにシュナイダー・トロフィーはここで終わりを迎えるという若干後味の悪い結幕になってしまう。

　イタリアはシュナイダー・トロフィーの栄冠を手にすることはできなかった（レース初期、イタリアは三連覇したが、その時はトロフィーを返納していた）。しかし、マッキMC72でのトライは行われ、このついに709.209km/hという世界速度記録を樹立する。プロペラの水上機としてだけでなく、陸上機も含めた最速の記録だった。レシプロ水上機の世界速度記録は現在も破られていない。