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【大会前にこそ知っておきたい豆知識】レッドブルエアレースのパイロットはどうやって戦っているのか?

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究極のモータースポーツと言われているレッドブルエアレースですが、どんな風にフライトして、どうやってタイムを詰めているのか、意外に知られていません。クルマの運転やサーキットの走り方を知るとレースがとても面白くなるように、レッドブルエアレースでも飛行機の操縦とタイムの詰め方を知るととても面白くなります。

REPORT●後藤 武

クルマやバイクと根本的違う操縦方法

 レッドブルエアレースでは、クルマやオートバイのレースと大きく違っている点がいくつかあります。その一つは加減速をしないこと。クルマやバイクの場合、コーナーに侵入するときは減速しますが飛行機ではそういう操作を一切しません。スタートしたらスロットルは全開のままです。
 プロペラにはガバナーと言われる装置があって、一度回転数をセットすると、速度が変化してもプロペラのピッチが変化してエンジンの回転数を一定に保ちます。急旋回をすると抵抗で飛行機の速度は低下しますが、そうするとガバナーがプロペラのピッチを低速側にして加速しやすい状態を作るのです。クルマのCVTのような機構です。
 フルスロットルのまま旋回する為、機体とパイロットにはすごいGがかかります。また、速度が落ちないためクルマ、バイクでは考えられないような素早く正確な操作が要求されます。イメージするとしたらスロットル全開に固定されたまま、絶対に滑らないタイヤを履いて教習所のコースを走るような感じでしょう。

 そしてもう一つは、旋回する為に機体を傾けなければならないということ。クルマのようにハンドルを切って曲がるわけではありません。曲がりたい方向に機体を傾け、主翼の生み出す揚力を最大限に利用して旋回します。傾き方は旋回する力でなく飛行機が上下に行く力も決めてしまいます。狙ったラインに乗せ、高度が上下したりせず、オーバーG(きつすぎる旋回でGの規定値を超えるとペナルティ)にならないようにしなければなりません。秒速100mを超えるスピードで飛びながら、一瞬で機体の角度を決め、旋回します。考えて操作するのでは間に合いません。パイロット達は条件反射的に機体をコントロールします。

機体の傾きと上げ舵の使い方で飛行機を持ち上げようとする力と旋回する力が決まります。定められた高度の中にとどまり、最高の効率で旋回してラインに乗せる為の機体の傾きは一つ。一瞬でその角度にする必要があります。

重要かつ難しいのは最速ラインを見つけ出すこと

 レッドブルエアレースでタイムを出すためには、最速のラインを見つけ出す必要があります。各チームではF1などで活躍したアナリストが招かれたりして解析に取り組みましたが、彼らをもってしても最速ラインの解析は簡単ではありませんでした。三次元で争われる為、解析が非常に複雑になってしまうのです。

旋回する時、機体を傾ける角度はとても重要です。レース機の速度、鋭い操縦性では考えて対応していたのでは間に合いません。パイロットは条件反射的に一瞬で機体の姿勢をコントロールします。

 例えば垂直に180度ターンして向きを変えるバーチカルターンというセクションを考えてみましょう。上昇すると飛行機は重力によって減速します。速度が低下すると旋回半径は自然と小さくなっていきます。更に速度が落ちることで飛行機はクイックに向きを変えやすくなりますし、ターンが終われば高い位置から急降下して速度をつけながら次のゲートに飛び込んで行くことができます。
 しかし、これが最速とは限りません。バーチカルターンの後に控えているゲートへの侵入するラインを考えたら、横方向に旋回した方が良いこともあります。この場合、重力で速度が低下しない為、スピードに乗ったままの旋回をすることになります。

バーチカルターンは最もタイムに影響する場所。ゲートをくぐったらすぐに上昇に移りますが、ここでもし0.5秒遅れると、戻るのにも0.5秒、トータルで1秒の遅れとなってしまいます。

 こういった要素を総合的に考え、微妙に機体を傾け、斜めに上昇することになったりするのですが、何度傾けて上昇すれば最速なのか、そのラインを見つけ出さなければならないわけです。解析で見つけ出された仮想ラインをパイロットが正確にトレースします。
 室屋選手のチームは、この解析力が非常に高いと言われています。逆に解析を使用しないのがニコラス・イワノフ選手。自分のインスピレーションを大事にして、解析をせずに飛んでいます(2018年の情報。現在は変わっている可能性があります)。非常に速い選手なのですが、成績にバラツキがあるのは、そういうスタイルにも原因があるのかもしれません。

コースによっては、バーチカルターンで垂直に上がるよりも傾けて上昇旋回するような飛び方をした方がタイムが早い場合があります。どの飛び方をするのが速いか、コースを解析して導きだします。
プロペラの角度は自動的に変化し、回転数が常に一定になるようになっています。上昇で速度が遅くなるとピッチが浅くなり、スピードが出て行くとビッチが深くなります。

後藤武

2007からレッドブルエアレースの取材を行い、2011年にはレッドブルエアレースマガジン(ネコパブリッシング刊)を出版。テレビでもエアレースの解説を担当していた。大会プログラムやWEB、雑誌などでエアレースに関する記事を執筆。飛行機、ヘリコプターのライセンスを持ち、90年代にはエアロバティックスにも精力的に取り組んでいた。

 最速のモータースポーツ、レッドブルエアレースは今回が最後の開催になります。ぜひ会場で、その熱い戦いをじっくりと観てみてください。

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