乗って納得、カワサキ・Ninja ZX-25R。その甘美なメカニズムを知る
- 2020/10/20
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MotorFan編集部 近田 茂
バイク好き、メカ好きならやっぱり興奮してしまう4発。気筒当たり僅か60ccチョイの、まるで精密機械を思わせる直(並)列4気筒エンジンはもはや芸術的レベル。まさに孤高の存在だ。そこで今回はデビューほやほやのNinja ZX-25Rに試乗した経験を踏まえた筆者が(しかも、これまで全ての量産250cc4気筒モデルに試乗済み)、これまで取材してきた経験を踏まえてあれこれと魅力を考察してみた。
REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
取材協力●カワサキモータースジャパン
カワサキ・Ninja ZX-25R SE.......913,000円/同ZX-25R.......825,000円
全てが新設計!新たな4気筒ブームを呼び覚ますのか!?
Ninja ZX-25Rが2019年の東京モーターショーで初公開された当初、ターンテーブルの上で披露されたニューモデルに、まさか4気筒エンジンが搭載されているなんて、筆者は想像すらしていなかった。
まさに「カワサキさんアッパレ」!なのである。思いもよらぬインパクトに心底 “感動” した、同ブースでの鮮烈な印象はまだ記憶に新しい。
かつて、1970年代後半に初お目見えしたイタリアのベネリ254を始め、国内では1983年にスズキGS250FWがデビュー。その後は国内4メーカーが4気筒クォーターでレーシーなスーパースポーツからネイキッドまで豊富なラインナップで凌ぎを削り合っていた。
しかし、それらモデルは全てが消え失せてしまう寂しい状況になってしまっていたのである。
そこで今回は250ccクラス唯一の存在としてカワサキが復活の狼煙を上げた4気筒エンジンについて、敬意と歓迎の気持ちを込め、これまで全ての量産250cc4気筒モデルに試乗し、取材してきた経験を踏まえて考察してみた。
直(並)列4気筒。その中身を想像して見た事はあるだろうか。先ずは冒頭のタイトル写真をご覧頂きたい。ZX-25Rのボア・ストロークは50×31.8mm。かなりボアが大きな設定とは言え、それでもピストンの直径は僅か5cmに過ぎないのである。
それが3cmちょっとの距離を忙しく小刻みに、凄まじい勢いで往復する。1回毎(1個)の爆発で得られるエネルギーは2気筒や単気筒エンジンより小さいが、四つのピストンが協力しあって高回転を稼ぐ事で他を凌ぐ高出力を発揮。多くの仕事をこなせるすばしっこい力強さがある。
125ccでもツインエンジンは古くからあったので、コンパクトなピストンはそれほど珍しくはないかもしれない。しかし4気筒となると実はそう簡単な話では済まないのである。
詳細まで踏み込むと文章がどんどん膨らんでしまうので多くは割愛するが、横置きの直列4気筒ツインカム16バルブエンジンは、クランクシャフトと吸排カムシャフト2本も横に長い軸が必要となる。
長い棒が良くしなる(曲がる、捩じれる)のは誰もが知っている事だと思うが、鋼鉄で作られるエンジン部品でもまったく同様で、曲げや捩じれに耐えるようより高剛性に作る必要が生じ、高精度に対する要求も多気筒エンジンの方がさらにシビアになってくるのである。
気筒数が多ければ、部品点数も多くなる。遠心力が作用する部分では回転を上げれば上げる程その影響は膨大になる。擦れる部位や回転軸の支持点数も多い。つまりそれだけエネルギーロスする箇所も多くなってしまう。
増してやメンテナンスに無頓着なユーザーの酷使にも十分耐えるだけの耐久性を確保しなければならず、量産商品として確かな信頼性を担保するのは、メ-カーの開発にとって、また生産工場での品質管理面でも並大抵の努力では済ませられない。
ある意味4気筒エンジンを開発し生産することはメーカー自らがハードルを上げて、素材の吟味はもちろん、加工等の技術レベルも含め全てわたって、それに関わる従業員一同の士気レベルを高める必要があると言っても過言ではないのである。
カワサキは4気筒エンジン車では最も小さな排気量となる「ZX-25R」と言う製品を改めて蘇らせた。そこに表現されたチャレンジングなメーカー姿勢と、開発に注がれた情熱が市場に大きな反響と感動を呼ぶ。
2020年の記憶に残るインパクトの大きな出来事に、心から拍手をおくりたい。
トコトン効率追求が徹底された新作エンジン
かつてカワサキはZXR 250で4気筒エンジンをリリースしていた。水冷DOHC16バルブである点、K-CAS(カワサキ・クール・エア・システム)と呼ばれた、走行風をエアクリーナーに積極導入する仕組みを装備。エンジン本体も右サイドカムチェーン方式の等間隔シリンダーを採用。四角いオイルパン・デザイン。そしてオイルクリーナーエレメントやクラッチも基本レイアウトはZX-25Rの新作エンジンと共通している。
しかしシリンダーの前傾具合を少し立てた新型エンジンではボア・ストロークを変更し、さらにショートストローク化を追求しているのが見逃せない。
ZXR 250は49×33.1mmだったのでボアは1mm拡大、ストロークは1.3mm縮小されスクエア比は1.48から1.57に拡大された。
シリンダーの中でピストンが動くスピードには限度があるので、回転を上げるにはピストンスピードを落とす必要がある。スピードが変わらないとすれば、動く距離を短くすれば良いわけで、それにはショートストローク化が有効な手段の一つなのである。
同時にボアアップはシリンダーヘッドのスペース拡大にもなるので、より大きな吸排気バルブを採用する事が可能となり、空気および燃焼ガスの充填効率が高められ、吸排気効率も促進することで高回転高出力の発揮もレベルアップが図れるのである。
バルブは吸気側がφ18.9mm、排気側がφ15.9mmと言う大径バルブを28°と言う狭角レイアウトされ、頭上にセットされた軽量鍛造カムシャフトの各プロフィールが直接バルブを駆動する直打方式となっている。
ちなみに耐熱要求の高い排気バルブの素材は、Ninja H2と同様のインコネルを採用。高回転高負荷への耐久性能が高められている。また3段レートのバルブスプリングが採用され、回転限界領域でもバルブが踊る事なく、確実な開閉を担えるように配慮。ピストンも軽量なアルミ鋳造品を採用。燃焼室も精密加工が施された。
放熱性に優れたデザインの軽量アルミダイキャスト・シリンダーはZX-10R等で培われたメッキ処理が施され、クランク支持部には幅の狭いベアリングを選択する等、フリクションロスの低減にも抜かりはない。
点火系及び燃料噴射も今や電子制御が当たり前の時代、ZX-25Rにはφ30mmの電子制御スロットルバルブ4個を装備。ラムエアシステム&ダウンドラフトインテーク方式とした吸気系と、ZX-6Rに似た排気系はジョイントパイプを持つエキゾーストパイプと、後輪の前方に二重構造を持つ4.5L容量のデュアルチャンバー・マフラーを備え、トータルでの吸排気効率が徹底的に高められた。
その結果、インドネシア本国フルパワー仕様の最高出力は、ラムエア加圧時で37.5kW(51PS)/15.500rpm、
最大トルクは22.9N・m(2.3kgf・m)/14,500rpmを発揮、まさにクラス最高最強のポテンシャルを誇っているのである。
エンジン性能曲線を新旧4気筒で比較!
エンジンの出力特性を比較したいと思い、ZXR 250の古い資料を出して来た。新旧エンジン性能曲線を、できれば同じスケール上に並べて見たいと考えたからである。
残念ながらZX-25Rで公表されているのは、2気筒エンジン搭載のNinja 250の性能曲線と重ねられたもので、縦軸と横軸のスケールは明記されておらず、単なるイメージとして捉えることしかできないものであった。
両車のピーク出力&トルクのデータから割り出そうとグラフ用紙に転記して数値を当てはめては見たが、正確な比較参照には不適切な曲線であることが判明。詳細な出力特性を知る材料としては役不足である。
一方ZXR 250のエンジン性能曲線は4,000~18,000rpmまでの変化が克明に記されている。そこから読み取れたのは、6,000rpmからトルクが膨らみ出し、9,000~15,000rpmではZX-25Rのピークトルクより勝っている事である。
エンジンの圧縮比は12.2対1。対する新作エンジンは11,5対1なので、まだチューニングの余地が残された設計と言えなくもない。
かつての試乗インプレでハッキリと覚えているのは、ZXR 250は低速域のトルクが貧弱だったこと、スロットルレスポンスが目茶苦茶シャープで、凄まじい吹き上がりと強烈(乱暴)なエンジンブレーキが記憶に残っている。
その点ZX-25Rは既報のインプレ記事に記した通り、新作エンジンは全回転域に渡って柔軟で扱いやすい。4気筒ならではのシャープさと粘り強さが光る。そして豪快かつエキサイティングなサウンドを楽しませてくれ、ギクシャクすることのないスムーズな走りも両立しているのである。
簡単に言うと圧縮比とクランクマス、及び車重の違いによるところが大きいとは思うが、ZXR 250のヤンチャな走りを動力性能的に凌駕しようとは考えず、現代に、そして未来に相応しい250cc 4気筒のあり方を真摯に追求。最先端技術を惜しみなく投入しながら大人のエッセンスも加えて完成させてくれた。
それが現在クラス唯一の4発であるNinja ZX-25Rなのである。
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