空気とクルマの関係——ときには邪魔に、ときには味方に

2019/10/12
Motor Fan illustrated編集部

（PHOTO：DAIMLER）

いろいろな形と抗力係数（CD）の例。流れの中に物体を置いたときにどれだけ空気が沿いやすいか、剥離を起こしにくいかを示す値が抗力係数。したがって、大小や速度には関係なく、単位もない。数値が大きいほど剥離が大きいことを示す。実際の空気抵抗を算出するときは、先述のように速度や前面投影面積を乗じる必要がある。ちなみにCDのDは下付きで表すが、大文字を用いるのが日英。Cdと表記するのは米式で（Cd／Cs／Cl）、独はCW／S／A、伊仏はCX／Y／Zで表す。

走行中のクルマを持ち上げようとする力が揚力（＝CL）。クルマにとってはありがたくない力であり、もっぱら負の揚力＝ダウンフォースが追求される。前輪揚力と後輪揚力の合計の値であり、CL＝揚力係数とはその物体が備える形状においていかに持ち上がりやすいかを示す値。床下に空気を積極的に流すことで車体上面との通過速度差を生み、下方にクルマを押し付けるのが大まかな仕組み。床下に速い空気を流し、エンジンルーム内の熱気を吸い出す効果もある。（FIGURE：PORSCHE）

販売される自動車というくくりで見れば、抗力係数がもっとも小さいのがフォルクスワーゲンXL1（2017年3月当時）。CD値は0.189という途方もない数値である。前面投影面積はポロに対して2／3、ボディ表面は平滑で後部が大きく絞り込まれている。

フロントリフトの解消はスポイラーやアンダーパネルで講じやすく、ドラッグへの影響も少ない。しかしリヤリフトの解消は一般的に難しく、ご覧のような大掛かりな空力デバイスの付与をともなうことが多い。（PHOTO：SUBARU）

空力騒音は、笛吹音やウィンドスロップなどの狭帯域音、および風切音や吸出音などの広帯域音に大別される。前者は周波数が狭いことから発生の仕方や把握も比較的容易なのに比べて、後者の、とくに風切音は対処が基本的に難しい性質を持つ。段差の解消や断面形状の工夫などで、シミュレーションや実車風洞で対処する。（PHOTO：GM）

視覚的にも、ノーズの傾斜角が大きければ抵抗が少ないのは理解できる。抗力および揚力ともに優れた性能を発揮できる形状だ。上部が張り出したノーズ形状は不利だが、エッジを丸め剥離の程度を抑えることで性能を回復できる。（PHOTO：TOYOTA）

抗力係数はウィンドスクリーンの角度は小さければ小さいほど──というわけではないようだ。三菱自動車の実験では、30度程度が良好。揚力係数は小角度ほど有利。ノーズ角とも合わせて車両前端およびキャビン上部に負圧を生み出す部位だけに、及ぼす影響は大きい。（PHOTO：LAMBORGHINI）

上から眺めたときに、キャビンが角張っているよりもエッジが立っていないほうが抗力係数の低下には有利。ウィンドスクリーンの角度と合わせて検討される。いっぽうでパッケージングに与える影響や生産の難しさ、コストの高騰などが課題として上ってくる。（PHOTO：LANCIA）

ミニバンでありエンジンフードの角度もあることから、側方へ流れを作ろうとしたのがルノー・エスパス。（PHOTO：RENAULT）

オーテック・ステルビオはフェンダーミラーをエンジンフードの中に収めてしまうという奇抜な手段を選んだ。（PHOTO：AUTECH）

サイドミラーやドアハンドル、サイドパネルの形状、バンパーからホイール周りに流れる空気の整流、アンダーパネルの装着による車両下面の空気流れの最適化など、平滑化によってアウディ100は空力性能の向上を図った。（PHOTO：AUDI）

ルーフ後端で剥離、渦が生成すると巻き上げが生じる。35度を超えるとその傾向が強く、ワイパーの装備などが必要。ほか、エッジを丸める、ルーフスポイラー、下面の空気流動強化などの手段がある。（PHOTO：VOLKSWAGEN）

セダンのリヤウインドウは、ルーフ後端とリヤフード後端を結ぶ線が実質的な傾斜角と見なされる。左の基準車（ゴルフ）に比べれば、セダン（ジェッタ）のほうが抗力係数に関しては有利である。（PHOTO：VOLKSWAGEN）

いっぽうでリヤフードの形状については、尻下がり（左）よりもハイデッキ（右）のほうが抗力係数に優れることがわかっている。（PHOTO：ALFA ROMEO）

リヤスポイラーの装備は効果的。高さを上げ続けて──ワゴンボディになると再び係数は下降傾向を辿る。（PHOTO：ALFA ROMEO）

紡錘型が抗力係数に優れているのは先述のとおりで、その観点で言えばリヤトレッドを狭くしリヤスパッツによって空力改善を図るのは有効的。写真のダイムラーの実験車は、速度によってリヤエンドが延長する構造としている。（PHOTO：DAIMLER）

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