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最高出力/回転数、最大トルク/回転数、圧縮比、内径×行程(mm)を見てみよう 原付バイクの「諸元表の数値」からエンジンの特性を推測してみる

  • 2019/07/08
  • MotorFan編集部 北 秀昭
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バイクの「速さ」の目安となるのが、カタログの主要諸元に表記された『トルク(kgf・m)』や『馬力(PS)』。一見、「数値が高いほど凄い」と思われがちなトルクと馬力だけど、そこには本一冊でも書ききれない、驚くほど難解な工学理論や数式が隠されています(マフラーの太さ・長さ・抜け、マニホールドの長さ、エアクリーナーorパワーフィルターorエアファンネル、ミッションやスプロケットのレシオ、プーリーの変速タイミング等々も複雑に絡み合う)。ここまで読んで「???」となった方へ! 今回は、そんなムズカシイ話は置いといて、バイクビギナーやメカに詳しくない人でもすぐに分かる、“主要諸元の数値からでエンジンの特性を推測する”方法をレポートします。
PHOTO●4ミニ.net https://4-mini.net/
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)

エンジンの特性や方向性を知るには、1台でも多くの数値を比較してみよう

 主要諸元からバイクの特性を知るポイント。それは、「最高出力/回転数」「最大トルク/回転数」「圧縮比」「内径×行程(mm)」、加えて「車体の重量」の数値を見比べてみること。多数のバイクを比較することによって、各車の特性や方向性が見えてきます。

 特にバイクは、市販車でもレーシングマシン並みの高回転型エンジンや高圧縮型エンジンを搭載したモデルが多数あるので、「各モデルが目指すエンジンの性格」が比較的分かりやすいのがポイントです。

 まずは、ともに4ストローク単気筒124ccエンジンを搭載していますが、特性や方向性が明確に異なる、「ホンダ スーパーカブC125」と「スズキ GSX-R125 ABS」を例に、各モデルの主要諸元をピックアップし、エンジンの特性や方向性を知る方法をチェックしてみましょう!

124ccエンジン搭載の「ホンダ スーパーカブC125」と「スズキ GSX-R125 ABS」を比較!

ホンダ スーパーカブC125
●エンジン型式:空冷4サイクル単気筒OHC 2バルブ
●総排気量:124cm3

■最高出力(kW[PS]/rpm):7.1[9.7]/7,500
■最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm):10[1.0]/5,000
■内径×行程(mm):52.4 × 57.9
■圧縮比:9.3

スズキ GSX-R125 ABS
●エンジン型式:水冷4サイクル単気筒DOHC 4バルブ
●総排気量:124cm3

■最高出力(kW[PS]/rpm):11[15]/10,000
■最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm):11[1.1]/8,000
■内径×行程(mm):62.0 × 41.2
■圧縮比:11.0

 排気量はどちらも同じ4ストローク124ccで、ピストン1本の単気筒。スーパーカブC125は、シンプルな構造の空冷OHC 2バルブです。
 一方、GSX-R125 ABSは、冷却効率に優れた水冷式。また、カムシャフト2本のDOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフトの略。ツインカムとも呼ばれる)、また、吸気弁2本&排気弁2本を備えた4バルブの高性能エンジンを搭載しています。

 「最高出力」とは、そのマシンの最高馬力のこと。国内モデルの場合、「kW」と「PS」が表記されていますが、昔ながらの「PS」が馴染み深いです。
 スーパーカブC125の場合、エンジンを7500回転(rpm)まで回した時、9.7PSまで出力。GSX-R125 ABSは、エンジンを1万回転(rpm)まで回した時、15PSまで出力します。

 「最大トルク」とは、クランクシャフトに掛かる最大の力のこと。国内モデルの場合、「N・m」と「kgf・m」が表記されていますが、昔ながらの「kgf・m」で馴染みです。
 スーパーカブC125の場合、エンジンを5000回転(rpm)まで回した時、1.0kgf・mのトルク。GSX-R125 ABSは、エンジンを8000回転(rpm)まで回した時、1.1kgf・mのトルクが掛かります。

「1.0kgf・m」や「1.1kgf・m」のトルクって、一体どのくらいの力なの?

モンキー用マフラーのフランジ(接続部)用ナットを絞め込んでいるところ。
 モンキーやスーパーカブなど、小排気量車のマフラーのフランジ部を締め込む時は、0.8 kgf・mから1kgf・m程度に設定するのが一般的(写真はモンキー)。

 つまり、スーパーカブC125やGSX-R125 ABSの最大トルクは、「小排気量車マフラーのフランジ部のナットを締め込む時の力」と同じくらいの力。レンチで締める=てこの原理を使っているので、じつはかなり大きな力です。

 ちなみにリッターバイクなら、10kgf・mを越える大トルクを発揮。10kgf・mのトルクは、「普通自動車のホイールナットを絞め込む時の力」と同じくらいの力です。

主要諸元の数値で見る、「ホンダ スーパーカブC125」と「スズキ GSX-R125 ABS」のエンジン特性や性格の違いとは?

 水冷DOHC 4バルブエンジンを積んだGSX-R125 ABSは、1万回転(rpm)の時に15PSを出力。また、8000回転(rpm)の時に最大トルク:1.1kgf・mを発揮。
 GSX-R125 ABSはスーパーカブC125に比べ、8000~1万回転(rpm)の高回転域で、スーパーカブC125以上の馬力とトルクを発揮していることになります(※注1)。
 つまり、GSX-R125 ABSのエンジンは、ガンガン回してこそパワーを発揮する、レーシーでポテンシャルの高いアグレッシブなエンジン特性であることが分かります。

 一方、スーパーカブC125は、7500回転(rpm)の時に9.7PSを出力。また、5000回転(rpm)の時に最大トルク:1.0kgf・mを発揮。街乗りで多用するであろう5000~7500回転(rpm)域でパワーを発揮する、ストリートでの扱いやすさを重視した特性であることが分かります。

 また、エンジンを回さず=ガソリンの消費量を抑えてパワーやトルクを稼ぐスーパーカブC125は、走りを重視したパワフル仕様のGSX-R125 ABSよりも、燃費を重視した、穏やかな特性だともいえます。

「ホンダ スーパーカブC125」と「スズキ GSX-R125 ABS」の【内径×行程】に注目!

【内径×行程】には3種類あり。

 内径×行程(ボア径×ストローク長)の数値は、「ピストン径」×「ピストンが上下する距離」を表し、mm(ミリ)で表記されます。

 内径×行程(ボア径×ストローク長)には、「ロングストローク型」「ショートストローク型」「スクエアストローク型」の3つがあります。

 「ロングストローク型」は、ボア径よりもストロークの長いタイプ。一般的に、低中回転域でネバリ強い、街乗りしやすいエンジン特性。実用性を重視した小排気量スクーターや、図太いトルク感が味わえる、V型2気筒の大排気量アメリカンモデルなどに多用されています。

 「ショートストローク型」は、ストローク長よりもボア径のほうが大きいタイプ。一般的に、高回転までスムーズに回る、レーシーなエンジン特性。高回転域でパワーを稼ぐ、レーシングエンジンの定番です。市販車では、「エンジンを回して楽しむ」レーシングモデルなどに多用されています。

 「スクエアストローク型」は、ボア径とストローク長が同じサイズのタイプで、一般的にロングストローク型とショートストローク型の中間的な特性。

 スーパーカブC125は、ボア径52.4mm×ストローク長57.9mmの「ロングストローク型」。GSX-R125 ABSは、ボア径62.0mm×ストローク長41.2mmの「ショートストローク型」。
 ロングストローク型のスーパーカブC125は、低中回転域でネバリ強さを発揮する実用性の高い特性。ショートストローク型のGSX-R125 ABSは、レーシーなエンジン特性であるといえます。

すべてモンキー用ピストン。写真左から頭の部分が凹んだ「ノーマル用ボア径39mm」、頭の部分が平坦な「ボアアップ用ボア径48mm」、頭の部分が盛り上がった高圧縮型の「ボアアップ用ボア径52mm」。
モンキー用エンジン。ピストンとシリンダーを「ノーマル用ボア径39mm」から「ボアアップ用ボア径52mm」に変更して、ロングストローク型からショートストローク型にチェンジ。
▲どちらもモンキー用クランクシャフト。写真左は「ノーマル用ストローク長41.4mm」、写真右は「ストロークアップ用52mm」。
▲写真は「ノーマル用ストローク長41.4mm(写真右)」と「ストロークアップ用52mm(写真左)」を縮めたところ。両者のストローク長の違いが分かる。
エンジン内で上下運動を繰り返す、クランクケースにセットされたクランクシャフト。写真はモンキー用。

★排気量の計算方法

排気量は、

→ ピストン断面積×ストローク長=(ボア径÷2)×(ボア径÷2)×3.14×ストローク長

で算出される。

例:スーパーカブC125の場合…(52.4mm÷2=26.2)×(52.4mm÷2=26.2)×3.14×57.9mm=124.7cc

【圧縮比】の違いで分かる、「ホンダ スーパーカブC125」と「スズキ GSX-R125 ABS」の特性や性格の違い

 圧縮比とは、

→ シリンダー容積(B)及び燃焼室容積(A)に占める燃焼室容積(A)の割合のこと。

(A+B)÷Aで算出します。

 走りを重視した、パワフルでアグレッシブな高性能エンジンは、一般的にパワーを出しやすい、圧縮比を上げた高圧縮型に設計されています。

 膨らました風船を押し潰した時を想像してみてください。

 風船の大きさが同じ場合、押し潰せば押し潰すほど破裂した時の力が大きくなるでしょ。

 これが高圧縮エンジンの基本的な考えです。

 スーパーカブC125の圧縮比は「9.3:1」、GSX-R125 ABSは「11:1」。

 スーパーカブC125に比べ、GSX-R125 ABSはパワーの出しやすい、高圧縮型エンジンであることが分かります。

 ちなみにスズキGSX-Rの最高峰モデル、「GSX-R1000R ABS」は……

スズキ GSX-R1000R ABS
●エンジン型式:水冷4サイクル4気筒DOHC 16バルブ
●総排気量:999cm3

■最高出力(kW[PS]/rpm):145[197]/13,200rpm
■最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm):117[11.9]/10,800
■内径×行程(mm):76.0×55.1
■圧縮比:13.2

 という数値。


 GSX-R1000R ABSは、197PSと11.9kgf・mという驚異的なハイパワー&高トルクな特性に加え、1万800~1万3200回転(rpm)で、マシンが持つ最高のパフォーマンスを発揮する(※注1)、ショートストローク型の超高回転型のエンジン。また、「13.2:1」という超高圧縮な点もポイントです。


 このように諸元の数値をチェックする時は、同じ排気量だけでなく、排気量の異なるモデルを比べてみるのもオススメ。「このマシンって、こんな特性があるのか!」なんて、思わぬ発見があるかもしれんませんよ♪

※注1:そのエンジンがもっともパワーを発揮する回転帯のことを、「パワーバンド」と呼ぶ。最大トルクの回転数から最大出力の回転数までの数値が目安となるが、実際に走行し、タコメーターで確認するのが常識。一般的にノーマルエンジンはパワーバンドが広く、非常に扱いやすいのが特徴。また、各部にチューニングを施した超高回転型のレース用エンジンは、パワーバンドが狭く、ビギナーには扱いにくい傾向がある。

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