「これはアドベンなのか!?」から、「これならアドベンだ」へ|BMW・S 1000 XR試乗レポート BMWのアドベンチャーバイク、S 1000 XRインプレ|いろいろ柔らかくて優しい。でも激速だ!
- 2020/07/16
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MotorFan編集部
大人気スーパースポーツモデル、S1000RRの派生モデルとして、ネイキッドバージョンのS1000RとアドベンチャーモデルのS1000XRが展開されていた。その生い立ちゆえアドベンとしては激しかったXRだったが、新型ではグッと接しやすくなっている。
TEXT●ノア セレン
PHOTO●山田俊輔
BMW・S 1000 XR……1,981,000 円~
アドベンチャーモデル「らしさ」
直4のスポーツモデルは国産車のお家芸だったが、同じ土俵で勝負をかけてきて一歩も引かない実力を見せたのがBMWのスーパースポーツモデルS1000RR。その後も進化を重ね続けファンを増やし、さらにそのプラットフォームをアドベンチャーモデルに転用したのがS1000XRだった。カワサキにも直列4気筒を使ったアドベンチャー「ヴェルシス」が存在するが、ヴェルシスが比較的まろやかな味付けなのに対し、S1000XRはRRの性格をそのまま受け継いだような、大変にアクティブな味付けがなされていて、「これははたしてアドベンチャーモデルと言えるのだろうか?」と思えるほど、常に臨戦態勢にあるようなバイクだった。
そもそも、アドベンチャーは「快適に長距離を走り抜くためのもの」と認識されている部分が大きい中で、激しい性格のアドベンチャーモデルというものが提示された時、市場はちょっと驚いたのかもしれない。常用域での扱いやすさや現実的な速度域における速さを追求すると、他社は概ね大排気量のツインを選択することが多いのに対し、スーパースポーツ由来の4気筒というのは異質なのは間違いないだろう。しかしだからこそスポーティなアドベンチャーモデルが出来上がっているわけで、S1000RRの容赦ない高性能をリラックスできるポジションで日常的に、またはツーリングで楽しめるという、ある意味夢がかなったとも言えるモデルだったとも言える。
BMWの新しいジャンルを確立するスタイリング
新型になって一番気付かされたのは、シンプルに「カッコ良くなった」ということだった。特にマフラー周り、先代はタンデムライダーの快適性確保のためタンデムステップを下に下げ、大きなマフラーはそれを避けるようにさらに下の方に追いやられたような恰好をしていたのに対し、新型はS1000RRと共通デザインのスマートなサイレンサーを採用し、おかげでリア周りのデザインがグッと締まった印象を受けた。
ボディ周りも、先代はスポーツモデルを何とかアドベンチャーに落とし込もうと腐心した様子がうかがえるが、新型では洗練され、よりXRらしいスタイリングへとまとまってきたような印象を受ける。他社と比較すると、例えばドゥカティのムルティストラーダは発売当時はゲテモノ感が少なからずあったが、今はすっかり確立されたスタイリングとなりしっかりとカッコ良い。S1000XRもこれと同じプロセスを踏んでいることを考えると、今後どのようなスタイリングを熟成させていくかも楽しみだ。
軽量化され、柔らかくなった車体
先代モデルに対して10kgも軽量化したというのがニュースだったが、先代でも打てば響くというか、かなりカッチリとした印象で、ファイナルもショートで、いつ何時でも臨戦態勢!というイメージの乗り物だったため、これが軽くなってしまったらアドベンチャー「らしさ」(?)がさらに失わてしまうのでは?とも危惧したが、新型はむしろ肌触りが優しく、逆に接しやすくなっていると感じた。軽量化も効いているだろうが、フレックスフレームの採用やハンドル幅が狭くなったことによるコンパクト化、さらにはハンドルがラバーマウント化されたことで直4特有の微振動が伝わってこないことなど、先代の硬質な感じはずいぶん弱まっていると感じた。
また見た目は大きいがシートは低く、1000ccものバイクなのに「何とかなりそうだ」という感覚があり、先代よりも気軽に走り出せる感じがあった。
走り出せばハイエンドモデルであることがヒシヒシと伝わってくる。ハンドリングの正確さやサスペンションの作動感、クイックシフターの節度など、同時に試乗したパラツインの新型900シリーズよりもワンランク上の質感をしっかりと感じさせる。走っている時に目に入ってくるデザインも上質で「ココの処理が……惜しい!」といったことが全くなく、スキのないまとまりに唸らせられた。
電子制御のサスペンションはライディングモードと連動しても動くが、走り出した時はちょっと柔らかすぎる?と感じたほど良く動いていた。慣れて様々なモードを試すうちに良い所に落ち着いたため、あらゆる体格のライダーや使用状況に合わせてきめ細やかに設定できるだろう。
総じて先代よりもとっつきやすく、かつしなやかで、それでいて実力の高さは維持した仕上がりで洗練度合いは確かに増した。しかしとんでもない速さと、直4アドベンチャーという個性は失われておらず、アドベンチャーらしさが増えたと同時に、XRらしい個性は失われていないと思う。
エンジンも柔らかな口当たりに
エンジンについては二つの大きな変化があった。
一つ目は4速から先をロングにふったこと。これにより「常に臨戦態勢!」という激しさがかなり弱まり、高いギアでクルージングしている時の回転数が落ち、速度の座りもとても良くなった。車体の所で触れた「硬質さがなくなった」というのはこのギア比の変更によるところも大きいだろう。燃費向上も見込めるため歓迎したい変更だ。
もう一つはアクセル開け始めがファジーになったことだ。これはF900シリーズにも共通したことなのだが、いわゆる「ドン付き」(アクセルをジワリと開けたいのに、ライダーの意志以上にウワッとアクセルが開いてしまって車体が進んでしまう現象)の逆のことが起きており、開け始めがかなりぼやけているのだ。これはいくらか慣れを要し、開け始めの所がわかりにくいと感じる人もいるかと思う。そう感じる人はダイナミックモードにすれば意志と実際のアクセルの開き方のシンクロが高まるだろうが、逆にこういったハイパワーな大型車に慣れていない人にとっては、適度なアソビのようなものがあり、そのおかげで怖がらずに発進できることにもなるだろう。
それ以外の所ではスペック的にも先代と同様ということもあり、変わらずにパワフルで、ツインにはない高回転域での絶対的パワー感も楽しめるエンジンである。
スーパースポーツに乗りたい腰痛持ちへ
腰痛持ちの人に限定するわけではないが、筆者がその持病のためにスーパースポーツモデルに乗れないがゆえ、そんな思いが頭をよぎった。S1000RRの絶対的性能が(数値上は少なくなっているものの)失われておらず、それでいてアップハンで快適で、ライダーにスポーツを強いないという意味で、これはイイなぁ! と思ったわけである。
アドベンチャーモデルは皆速くて快適で「使える」バイクではあるが、S1000XRはその中でもSSモデルの血筋をしっかりと感じさせ、本来の飛びぬけた性能をヘンにスポイルすることなく、ラクして楽しませてくれるパッケージとなっているのだ。加えてハイエンドモデルらしい作り込みと仕上げで所有欲も非常に高く、乗っていて誇らしくなるようなモデルでもある。
アドベンチャーだからと言って余裕をもってのんびりと長距離を楽しみたい、ということに割り切らず、出先で気持ちの良いワインディングがあったら最大限楽しみたい! というアクティブなライダーにぴったりのモデルだろう。
足つきチェック
跨った瞬間は目に入ってくるバイクのサイズ感がかなり大きく、2気筒アドベンチャーのGS系と同様の「大きなバイクに乗っている!」という、一種の心構えを強いる部分は確かにあるが、シートはかなり深くえぐられているため足つきそのものは意外に良好だ。ただステップやべダルの位置が絶妙にふくらはぎに当たるもので、まっすぐ下ろせないような感覚はあった。
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