空冷、2スト、7馬力。|ホンダの2ストスポーツ初号機「MB50」を振り返る
- 2020/09/25
- MotorFan編集部 北 秀昭
1979年(昭和54年)、ホンダは2スト50ccスポーツモデル「MB50」をリリース。50ccスポーツとしては4ストエンジン搭載の「CB50」も人気だったが、ホンダは新たなチャレンジとして、スポーツモデル初の2ストエンジン搭載車を市場に投入。50ccスポーツの座は、やがて2ストのMBに受け継がれていく。
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
パワフルな7.0馬力の2ストロークエンジン搭載
ホンダ MB50……1979年(昭和54年)発売
4ストにこだわり続けたホンダだが、時代の流れにより2ストにシフトしていく……。その代表的なモデルがMB50。MB50はホンダ初となる2ストロークエンジンを搭載したスポーツモデル(※注1)。4ストロークエンジン搭載の「CB50」とともに、ホンダの2大50ccスポーツモデルとしてリリースされた。
MB50が登場し、2台の50ccスポーツはしばらく共存していたが、CB50は1981年モデルをもって生産終了。50ccスポーツの座は、2ストのMBシリーズに受け継がれていった。
前後18インチホイールを採用した125cc並のフルサイズボディ、パワフルな2ストエンジン、フレームと外装を同色とした斬新かつスポーティなフォルムにより、MB50は若者を中心に大ヒット。
MB50がきっかけとなり、ライバル車となるスズキRG50E、カワサキAR50、ヤマハRZ50など、次々に最高出力7.2psのフルサイズ50ccモデルがラインナップ。2スト50ccスポーツモデルの競争が激化していった。
※注1:ホンダの初号機である2ストロークエンジンのカブF号は、正確には自転車用補助エンジンとして発売
吊鐘型燃焼室などの新技術を取り入れた、空冷2サイクルの7馬力エンジン
新しい感覚の斬新なデザインが与えられたMB50は、ホンダ初の2サイクルスポーツモデル。軽快な操縦性や走行性を求め、燃焼室集中冷却シリンダーヘッド、吊鐘型の燃焼室など、新技術を採用した7馬力のハイパワーエンジンを搭載。エンジンのポイントは、
・1軸一次バランサー=1本のバランサー軸を採用。往復運動部の一次慣性力を釣り合わせる機構で、2サイクルエンジン特有の振動を減少
・燃焼室集中冷却シリンダーヘッドを採用。これは走行時の風を、より多く燃焼室周りに集中させた設計のシリンダーヘッド。エンジンが発生する熱を効果的に放散し、性能変化を減少させる
・吊鐘(つりがね)型の燃焼室を採用。一般的な半円球型に比べ、圧縮工程での混合気の攪拌(かくはん)効果が大きく、低速域から高速域に渡り、安定した燃焼とプラグのカーボン詰りを防ぐ
・分離給油方式を採用。アクセル開度と連動を計り、エンジン回転数に応じた理想的な量のオイルを供給
・CDI点火装置を採用。確実な点火と始動性の向上を実現し、整備性も良好
4ストエンジン搭載のスポーツモデル「CB50」との違い
●MB50
全長:1880mm/全高:980mm/全幅:655mm
重量:78kg
エンジン形式:空冷2サイクル単気筒49cc
ボア×ストローク:39mm×41.4mm
圧縮比:7.9
最大出力:7.0ps/9000rpm
最大トルク:0.56kgm/8000rpm
変速機:5速リターン
タイヤ:前2.50-18 後2.50-18
当時の価格:13万9000円
●CB50S(最終モデル)
全長:1790mm/全高:975mm/全幅:685mm
重量:83kg
エンジン形式:空冷4サイクルOHC単気筒49cc
ボア×ストローク:42mm×35.6mm
圧縮比:9.5
最大出力:6.3ps/1万500rpm
最大トルク:0.43kgm/9500rpm
変速機:5速リターン
タイヤ:前2.50-17 後2.75-17
当時の価格:13万6000円
前後17インチホイール採用のCB50に比べ、18インチのMB50の方がビッグサイズだが、重量は5kg軽量。これは部品点数が少ない2ストロークエンジンの影響が大きいと考えられる。
MB50のボア×ストロークは、ホンダ50ccの2スト最終モデルとなる「NSR50」まで引き継がれた、ロングストローク型の39mm×41.4mm 。CB50は、4ストスポーツならではのショートストローク型(42mm×35.6mm)としている。
最大出力はMB50が9000回転で7.0馬力。最大トルクもMB50が上回っている。一般的に2ストロークエンジンの長所は、
・4ストよりも部品点数が少なく、構造もシンプル
・4ストよりもコンパクトで軽量
・4ストよりもパワーを出しやすい
・4ストよりも低コスト
逆に短所は、
・4ストよりも燃費が悪い
・4ストよりも有害ガスを排出しやすい
環境を重視し、2000年頃を境にバイクは2ストから4ストに転換・移行。しかしMB50が登場した1980年代初頭は、ハイパワー志向が激化し始めた頃。4ストにこだわり続けたホンダが、MB50発売をきっかけに2ストへと転換・移行していったのは、現在よりも遥かに排ガス規制が緩く、短所よりも長所が大きい2ストエンジンを欲した時代の流れ=ユーザーが2ストを要望した、ごく自然な結果だったともいえる。
【ホンダ CB50】50ccで唯一“CB”の称号が与えられた本格4ストゼロハンスポーツ|1971年(昭和46年)~
1960年代、ホンダはカブ系の横型エンジンを搭載した「ベンリイSS50」などのスポーツモデルをリリース。1970年初め、今度は50c...
“Nチビ”って何? ホンダNSR500を3/4サイズで再現したNSR50/80。|市販全モデル掲載
「3/4(スリー・クォーター・ワークス」「HRC SPORT SPIRIT(HRC・スポーツ・スピリッツ)」、これがNSR50/80の開発コンセプ...
斬新な「X型バックボーンフレーム」や大径18インチの「コムスターホイール」を装備
軽量化と高剛性を狙い、X型に構成されたシンプルで個性的な車体デザインを可能とした「X型バックボーンフレーム」を採用。シート下まで続く燃料タンクや、電装系などを重心近くに配置するなど、独特のレイアウトが特徴。シティユースからロングランまで幅広く楽しめる1台に仕上がっている。また、
・重量物集中設計(いわゆるマスの集中化)を採用。エンジン、燃料タンク、電装品などの重量物を重心位置付近に配置し、軽快な操縦性を実現。電装品は燃料タンク前方に配置して整備性を向上
・制動性能の向上を狙い、フロントには油圧式ディスクブレーキを採用
・T型クロームメッキリムに、3ポイント式の軽量でしなやかなコムスターホイールを装備
・トップブリッジとハンドルバーを一体とした、スポーティなセパレートハンドル風のトップブリッジ一体構造ハンドルを採用
また、ウインカーランプやヘッドランプなどのスイッチをハンドル左側に集中し、操作性向上。スピードメーターとタコメーターは一体型とし、見やすい中央部に配置。ビキニカウル、サイドボックス、リヤキャリアがオプション設定された。
セミアップハンドルを装備した「ホンダMB5」
1980年(昭和55年)には、MB50をベースにセミアップハンドルを装備した「MB5」が登場。MB5は市街地や長距離走行にも楽なライディングポジションが得られ、余裕ある走行が楽しめるのがポイント。便利な小物入れも新設された。
タンデムもOK!78ccの9.5馬力エンジンを搭載した「MB-8」
1980年(昭和55年)には、78ccの9.5馬力エンジンを搭載したMB-8(MB5に-はないが、MB-8には-あり)登場。ボア×ストロークは45.0mm×49.5mm(50は39.0×41.4)に拡大。Wシート&タンデムステップを装着し、2人乗りにも対応している。当時の価格は15万2000円。
ホンダ MB50の主要諸元
型式名:ホンダAC01
全長 (m):1.880
全幅 (m):0.655
全高 (m):0.980
軸距 (m):1.215
車両重量 (Kg):整備:87,乾燥:78
最小回転半径 (m):1.8
燃料タンク容量 (L):9.0
燃料消費率 (km/L) (30km/h定地走行テスト値):65
登坂能力 (tamθ):0.36
エンジン形式:空冷2サイクル単気筒
弁機構:リード弁式、ピストン弁式併用
総排気量 (cm3):49
内径×行程 (mm):39.0×41.4
圧縮比:7.9
最高出力 (PS/rpm):7.0/9,000
最大トルク (Kg-m/rpm):0.56/8,000
始動方式:プライマリーキック式
点火装置:CDI
潤滑方式:分離潤滑式
潤滑油容量 (L):2.1
一次減速比:4.117
変速比:
1速 3.083
2速 1.882
3速 1.400
4速 1.130
5速 0.960
最終減速比:3.307
フレーム形式:バックボーン式
懸架方式 (前):テレスコピック式
懸架方式 (後):スイングアーム式
キャスター (度):25°00′
トレール (mm):70
タイヤサイズ:
(前)2.50-18-4PR
(後)2.50-18-4PR
ブレーキ形式:
(前) 油圧式ディスク
(後) 機械式リーディングトレーリング
当時の発売価格:13万6000円
ホンダ MB-8の主要諸元
型式名:HC01
全長 (m):1.880
全幅 (m):0.655
全高 (m):0.980
軸距 (m):1.220
車両重量 (Kg):整備:91,乾燥:82
燃料タンク容量 (L):9.0
燃料消費率 (km/L) (30km/h定地走行テスト値):60
エンジン形式:空冷2サイクル単気筒
総排気量 (cm3):78
内径×行程 (mm):45.0×49.5
最高出力 (PS/rpm):9.5/8,000
最大トルク (Kg-m/rpm):0.89/7,500
タイヤサイズ:
(前)2.50-18-4PR
(後)2.50-18-6PR
ブレーキ形式:
(前) 油圧式ディスク
(後) 機械式リーディングトレーリング
当時の発売価格:15万2000円
昭和の名車ヤマハ RZ50|ゼロハン初の水冷エンジン、前後18インチの2スト原チャリスポーツ
高度経済成長という、まだまだ発展途上だった1970年代を経て、モノの価値が量から質へとシフトし始めた80年代。そんな時代を...
昭和スポーツミニ、ホンダ MBX50|7.2→5.6→7.2馬力の変遷。
1979年(昭和54年)に2ストスポーツのホンダMB50が登場以来、スズキRG50E、カワサキAR50、ヤマハRZ50など、次々に最高出力7.2...
|
|
自動車業界の最新情報をお届けします!
Follow @MotorFanwebおすすめのバックナンバー
バイク|令和元年(2019年)のトピックおさらい!
原付免許で乗れるのか……? ハーレーダビッドソンの電動バイク...
- 2019/01/27
- ニューモデル
CBR250RRの贅沢な乗り味はライバル250ccスポーツを圧倒する【...
- 2019/01/23
- ニューモデル
【上下で5800円】“あのワークマン”が本気でバイク用レインウ...
- 2019/03/08
- ニュース・トピック
【トルク3割増】PCXハイブリッドの150cc版に試乗! スタート...
- 2019/08/14
- ニューモデル
出川哲朗「充電させてもらえませんか?」の電動バイクを真面...
- 2019/02/16
- ニューモデル
加速は? 距離は? 電動バイクって実際どうなの? ホンダ PCX...
- 2019/10/11
- ニューモデル
解決します! 交通ルールの素朴なギモン
あおり運転は百害あって一利なし! でも、もしかしたら被害者...
- 2019/09/28
- トピック
【上半身ハダカでバイク運転は許される?】法律上の露出度の...
- 2019/08/12
- ニュース・トピック
【半キャップでのヘルメットで大型バイクは乗ってよい?】現...
- 2019/08/11
- ニュース・トピック
これで完璧!クルマの乗車定員と子供の数え方。【シートベル...
- 2019/08/10
- トピック
自転車用や工事用ヘルメットでバイクを運転!はナニ違反?【...
- 2019/07/18
- ニュース・トピック
50ccで義務の二段階右折。義務のない125ccの原付二種でやった...
- 2019/05/08
- ニュース・トピック
3分でわかる! クルマとバイクのテクノロジー超簡単解説
3分でわかる! スーパーカブのエンジンが壊れない理由……のひ...
- 2019/10/01
- トピック
3分でわかる! マツダのSKYACTIV-X(スカイアクティブ-X)っ...
- 2019/11/18
- トピック
スーパーカブとクロスカブの運転が楽しいのは自動遠心クラッ...
- 2019/08/20
- トピック
ホンダCB1100の並列4気筒にはなぜV8のようなドロドロ感がある...
- 2019/07/09
- コラム・連載記事
ホンダ・シビック タイプRの謎、4気筒なのになぜマフラーが3本?
- 2019/06/20
- ニュース
3分でわかる!アシスト&スリッパークラッチって何? 250ccか...
- 2020/01/25
- トピック