エンジン、シャシー、どこが変わった? フルモデルチェンジしたヤマハ MT-09 ABSを解説
- 2020/10/29
- MotorFan編集部 北 秀昭
水冷4ストロークDOHC 3気筒4バルブエンジンを搭載したロードスポーツ「ヤマハ MT-09 ABS」がフルモデルチェンジ。排気量は845ccから890ccに変更され、最高出力は116馬力から119馬力にアップ。最大トルクも大幅に向上した。新型は欧州に向けて先行発売され、2021年春以降に国内にてリリース予定。発表されたMT-09 ABS(欧州仕様)の外観、エンジン、フレーム、足周り等を詳しくレポートしよう。
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
新しくなったヤマハ MT-09 ABS(2021年モデル)を動画でチェック
排気量を845ccから890ccにアップしてパワー&トルクも向上。新しいデザイン、エンジン、フレーム、足周りにも注目
ヤマハ MT-09 ABS……国内仕様の諸元や価格等は非公表
2014年に発売され、後に投入された2気筒エンジンのMT-07と共に、車体の扱いやすさや軽さ、また低価格設定で大きな注目を集めてきたロードスポーツモデル、ヤマハ MT-09 ABS。慣性トルクが少なく、燃焼室のみで生み出される燃焼トルクだけを効率良く引き出す設計思想「クロスプレーン・コンセプト」に基づいて開発された水冷4ストロークDOHC 3気筒4バルブ890ccエンジン、個性的なネイキッドスタイルを持つこのモデルは、国内はもちろん、欧州でも高い人気を誇っている。
今回、フルモデルチェンジされたMT-09 ABSのポイントは、
・トルクフルな新型の890ccエンジン
・軽量CFアルミダイキャスト製の新型フレーム
・初採用となる独自のSPINFORGED WHEEL(スピンフォージド・ホイール)技術による軽量アルミホイール
・トルク感と加速感を表現したサウンドデザイン
・新IMUを活用した運転操作を支援する各種制御
・感覚を刺激する新しいボディデザイン
各ポイントの詳細を、順を追って紹介しよう。
ストロークアップにより、一層トルクフルになった水冷4ストDOHC 3気筒4バルブ890ccエンジン
新開発の水冷4ストロークDOHC 3気筒4バルブエンジンは、ストロークアップ(ボア径は変わらず)により、排気量を845ccから890ccに拡大。最高出力は116馬力から119馬力にアップ。特に最大トルクは、8.9kgf・mから9.5kgf・mに大幅向上した
吸気系には、ダウンドラフト型のFIを採用。燃焼室は狭いコンパクト型とし、素早い燃焼で高いトルク性能を発揮。ピストン、コンロッド、クランクシャフト、カムシャフト、クランクケースなど、主要パーツの多くは新設計され、軽量化も推進された。
燃料供給系も一新され、インジェクターは従来のシリンダーヘッド直付け式から、スロットルバルブ側に取り付け位置を変更。燃料噴射はバルブ傘裏方向とし、優れた燃焼効率を実現。これらの燃焼改善と軽量化により、燃費の従来比9%(欧州公表値による計算)改善を実現している。
新設計のCFアルミダイキャスト製フレームとスイングアームは、軽量化と剛性アップを両立
最新のCFアルミダイキャスト技術により、驚愕の最低肉厚=1.7mmを実現した軽量アルミ製フレームを採用(従来は最低肉厚=3.5mm)。リヤフレームもCFアルミダイキャスト製とし、スチール製の従来モデル比で1.5kg軽量化。
フレームは直進安定性と操縦性を両立させるため、縦・横・ねじり剛性のバランスを調整しており、特に横剛性は従来比で約50%アップ。直進安定性向上にも貢献している。
スイングアームはアルミパネルを溶接したボックス構造とし、フレームとリヤフレーム、スイングアームの合算で、前モデルよりも約2.3kgの軽量化に成功した。
独自の「スピンフォージド・ホイール技術」を駆使して製作された軽量アルミホイール
ヤマハ独自のアルミ材開発と工法の確立により、鋳造ホイールでありながら、鍛造ホイールに匹敵する強度と靭性のバランスを達成した、「スピンフォージド・ホイール(SPINFORGED WHEEL)技術」の軽量ホイールを初採用。このホイールは、従来モデルよりも前後で約700g軽量。さらにリヤの慣性モーメントを11%低減。軽快で俊敏な運動性能を獲得している。
トルク感と加速感を「表現」した、心地良いサウンド
NEWモデルの開発にあたり、ヤマハでは排気音と吸気音のクオリティが、乗り味に寄与する重要な要素であることに着目。排気・吸気を独自に設計・チューニングし、トルク感・加速感を上手に演出した。
排気音は、1.5段膨張室サイレンサーと左右シンメトリーのテールパイプを採用することで、発進時はリヤの駆動力と同期した排気音によってトルクを感じ、スロットルを開けた瞬間に音が増大して聴こえるような、スイッチ感のあるサウンドを獲得。また、回転上昇に従い、ライダーへの主音源が排気音から吸気音へ切り替わるように調整されている。
吸気音は、断面積と長さの異なる3つの吸気ダクトを採用。各ダクトによる吸気音を各周波数帯で共鳴させ、かつ音圧をチューニングすることで、中・高回転域でサウンドを強調。気持ちの良い加速感を演出している。
新しい「IMU」を活用した、運転操作を支援する各種制御とは?
NEWモデルには、新開発の「IMU(Inertial Measurement Unit)」を搭載。2015年モデル以降の「YZF-R1」で実績のある「IMU」の基本性能を維持しつつ、センサー構成を見直すことで、50%の小型化し、40%の軽量化を実現している。
IMUの情報を受け取り、車両側にフィードバックするECUには、3種の制御システム(バンクの深さも反映するTCS、旋回をサポートするSCS、前輪の浮き上がり傾向を抑止するLIF)を導入。個々の制御は相互に連動し、運転操作を支援、マシンのポテンシャルを効率良く引き出してくれる。各システムとも、介入レベル調整、およびON・OFF設定が可能。
前モデルよりもスパルタンなイメージに変身!感覚を刺激する新しいボディデザイン
2014年発売の初代モデル、2017年発売の2代目モデル(現行モデル)を受け継ぐ3代目として、NEWモデルは大きく進化したポテンシャルをイメージした、アグレッシブで新鮮なスタイリングを採用。エアインテークと、そこに風を導くフロントウィングのスタイリングに、空気の「流れ」や音の「波」など、サウンドを想起させるテーマをアレンジしている。
ヘッドランプやサイレンサーなどには、各パーツをエンジンの中心に凝縮させて力強いトルク感を表現。さらにスムーズなトップラインに、ショートオーバーハングのシルエットを組み合わせ、初代から引き継いできた「ライダーの意のままに操れるイメージ」を演出。カバー類を極力減らしたゼロカバー造形による構造体を魅せるスタイリングで、軽量化したボディによる軽快なハンドリングを表現しているのもポイントだ。
ヘッドランプはコンパクトでデザイン性に優れ、優れた照射性を持つ、バイファンクションLED型(Hi-Lo一体)を採用。照射範囲と範囲外の境目のコントラストにより、穏やかで柔らかくムラのない配光。ポジションランプも導光体を備えたLEDタイプとし、新しいイメージに導いている。
現行の国内モデルとの大きな違いとは?
【2021年モデル(欧州仕様)】
全長:2,090mm
全幅:795mm
全高:1,190mm
シート高:825mm
軸間距離 :1,430mm
車両重量:189kg
総排気量:890cc
内径×行程:78.0mm×65.1mm
圧縮比:11.5 : 1
最高出力 87.5kW(119PS)/10,000rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7,000rpm
燃料タンク容量:14L
タイヤサイズ:
前120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)
後180/55ZR17M/C (73W)(チューブレス)
【現行の国内モデル】
全長:2,075mm
全幅:815mm
全高:1,120mm
シート高:820mm
軸間距離 :1,440mm
車両重量:193kg
総排気量:845cc
内径×行程:78.0mm×59.0mm
圧縮比:11.5 : 1
最高出力 85kW(116PS)/10,000rpm
最大トルク:87N・m(8.9kgf・m)/8,500rpm
燃料タンク容量:14L
タイヤサイズ:
前120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)
後180/55ZR17M/C (73W)(チューブレス)
2021年モデルはボア径は78.0mmのまま、ストローク量を59.0mmから65.1mmに引き上げて排気量を845ccから890ccにスープアップ。これに伴い、3馬力のパワーアップはもちろん、トルクの大幅な向上に磨きが掛かった。ホイールベースは10mm短縮し、車両重量は4kg軽量化。ガソリンタンク容量(14L)や、前後のタイヤサイズは同寸としている。
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ヤマハ MT-09 ABS(欧州仕様) 主要諸元
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