クランクの存在感が濃厚。空水冷フラットツインとは一線を画するエンジンに浸る。【BMW・R nineT Pure試乗】
- 2021/03/24
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中村友彦
王道路線のR1250系とは狙いが異なるフラットツインとして、世界中のライダーから支持を集めているR nineT(アールナインティ)シリーズ。今回試乗したピュアは、価格的にも乗り味的にも、シリーズの中で最も親しみやすいモデルだ。
※試乗車は2020年モデル
REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●佐藤恭央(YASUO Sato)
BMW・R nineT Pure……1,736,000円(メタリックカラーは+57000円)
BMW・R nineT Pure(2021年モデル)……1,905,000円(グレー以外は+1万9000円~18万5000円)
ヘリテイジという新ジャンルを形成
『伝統の空油冷フラットツインの最後を飾る、限定的なモデル』。2014年から発売が始まったRナインティに対して、当初の僕はそんな印象を抱いていた。と言うのも当時の2輪業界では、BMWの空油冷ユニットは今後の排気ガス規制に対応できないと言われていたし、その事実を裏付けるかのように、同社の王道と言うべきR1200シリーズは、2013年から全面新設計となる空水冷フラットツインの導入を開始していたのだ。だからRナインティは、数年で市場から姿を消すだろうと思っていたのだが……。
意外なことに以後のBMWは、ピュア、レーサー、スクランブラー、アーバンG/Sと、矢継ぎ早に派生機種を発売。ふと気づくとスポーツやアドベンチャー、ロードスターなどと並ぶ新たなジャンルとして、ヘリテイジが形成されていたのである。
なお今回試乗したのは2020年型だが、すでに同社は各部を刷新してユーロ5規制に適合した、2021年型を公開しているので、おそらくこのシリーズの生産は、最低でもあと数年は続くだろう。
足まわりでキャラクターの差異を設定
パワーユニットに関しては、二世代前のR1200用をベースとするRナインティシリーズだが、ダイヤモンドタイプのスチールフレームは専用設計である。また、一昔前のフラットツインは、全車がフロントにテレレバー式サスを装備していたため、RナインティがS1000RRの技術を転用したテレスコピック式フォークを導入したことは、2014年のデビュー時には大きな話題となった。
シリーズの中で乗り味に差異を生み出しているのは、主に足まわりとハンドルだ。第1号車のRナインティが倒立フォーク+前後17インチのスポークホイールだったのに対して、ピュアとレーサーは正立フォーク+前後17インチのキャストホイール。スクランブラーとアーバンG/Sの特徴は、前後サスストロークが長いことと(フォークはいずれも正立式)、フロントに19インチを履くことで、ホイールはキャストとスポークの2種を設定(日本仕様のアーバンG/Sはスポークホイールが標準)。ハンドルに関しては、原点モデルとピュアがセミアップ、スクランブラーとアーバンG/Sが大アップ、レーサーは低めのセパレート式を採用している。
前述したように、2021年型Rナインティは各部の刷新を実施している。具体的にはスロットルがケーブル式→電子制御式になり、シリンダーヘッドは燃焼効率を追求した新作に進化。さらには2段階のライディングモードやバンク角でブレーキの利きが変わるABSプロを導入しているのだが、スペックに大きな変化はないようだ。
シリーズ随一のフレンドリーな資質
当記事で取り上げるピュアは、価格的にも乗り味的にも、Rナインティシリーズの中で最も親しみやすいモデルである。まずは価格についての説明をすると、近年のネオクラシック系モデルの基準で考えれば、190万5000円は高い部類なのだが、それでも兄弟車よりは10~15万円ほど安い。では乗り味はどう違うのかと言うと、倒立フォークの挙動に微妙な硬さを感じる原点モデルのRナインティ、ライポジがスパルタンなレーサー、シートがやや高めでフロント19インチの挙動に慣れが必要なスクランブラー&アーバンG/Sと比較すると、ピュアはすべての挙動が至ってナチュラル。勝手知ったる愛車のように、早い段階から気軽に乗れてしまうのだ。
もっとも乗り味に対する印象は人それぞれで、例えば普段から前輪が大きい旧車を愛用している人の場合は、スクランブラー&アーバンG/Sのほうが親しみやすいかもしれない。ただし、前後17インチの現代的なロードモデルに慣れ親しんだライダーにとって、最もとっつきやすいRナインティは、間違いなくピュアだろう。
バイクの“芯”が感じやすい
ところで、今回の試乗で久しぶりにRナインティを体験した僕は、このシリーズ特有の昔ながらのフィーリングに、改めて感心することとなった。と言っても、それはシンプルでオーソドックスなルックスや、他のシリーズより控え目な電子制御の話ではないし、もちろんエンジンの冷却方式の話でもない。ちょっとマニアックな話になるけれど、このバイクは“芯”を感じやすいのである。
その要因は、パワーユニットのレイアウトだ。2013年以降の空水冷フラットツインが、エンジンとミッションを一体化し、クランクの下にクラッチ+ミッションを配置しているのに対して、Rナインティが搭載する空油冷フラットツインは、1923年型R32から長きに渡って継承して来た、クランクの背後/同軸にクラッチ、その後方にミッションケースというレイアウトを採用している。
この2つのどちらが優れているかと言ったら、小型軽量化と縦置きクランク特有のトルクリアクションの緩和という面では、どう考えても前者だろう。でもオートバイの“芯”となるクランクの存在感は、空油冷フラットツインのほうが明確で、クランクを軸にして車体が左右にバンクしていく軽快感が堪能しやすい。そしてそのフィーリングは、名車と呼ばれるクラシックBMW、R50や69S、R75/5、R100などに通じるところがあるのだ。
190万5000円という価格をどう感じるか
実際にピュアを購入する際に、ちょっとした悩みの種になりそうなのが価格である。前述したように190万5000円という価格は、Rナインティシリーズの中で最も安いのだけれど、最新技術を随所に導入した王道モデルのネイキッド仕様、R1250Rが195万円という事実を考えると、何となく割高と思えなくもない。とはいえ、伝統のフラットツインのフィーリングを気軽に楽しみたい人にとって、ピュアは最善の選択肢になるはずだ。
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