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ボア径Φ70mm×ストローク長90.5mm|ホンダGB350/Sの単気筒エンジンを解説。クリアな鼓動と力強さの秘密は?

  • 2021/04/03
  • MotorFan編集部 北 秀昭
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空冷4ストロークOHC単気筒348ccエンジンを搭載したホンダGB350シリーズ。

ホンダは空冷4ストロークOHC単気筒348ccエンジンを搭載した新型ロードスポーツモデル・GB350を2021年4月22日(木)に、GB350 Sを2021年7月15日(木)にHonda Dreamより発売。ここではエンジンや電子制御システムをクローズアップ。単気筒ならではの“鼓動”にこだわり抜いたパワーユニットに注目だ。
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)

国内発売決定のNEWビッグシングル・ホンダGB350/S|外観と機能を解説

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単気筒の“鼓動”にこだわった、ボア径Φ70mm×ストローク長90.5mmのロングストロークエンジン

パワーユニットのねらいは「クリアな鼓動と力強さ」

最高出力は20ps/5,500rpm。最大トルクは29kgf・m/3,000rpm。トルクや鼓動感を重視したボア径Φ70mm×ストローク長90.5mmのロングストローク型で、圧縮比は9.5に設定。ミッションは5速リターン式。
 GB350シリーズのパワーユニット開発は、まず新世代のユーザーが持つ感覚にミートしたファンモーターサイクルとして、楽しく、扱いやすい動力性能を提供するエンジン諸元を構想することから着手。

 パワーユニットのねらいは、クリアな鼓動と力強さ。市街地での普段使いから長距離ツーリングまで、幅広いシチュエーションで常にライダーに喜びを与えることを念頭に、エンジン形式を空冷4ストロークOHC単気筒348ccに設定。

 開発に際しては、この諸元の持つ特性を最大限に引き出すとともに、ライダーに上質なフィールを与えるため、先進技術を惜しみなく投入されている。

出力特性のポイント

出力特性イメージ。
 ボア径Φ70mm×ストローク長90.5mmのロングストロークを始めとする各部エンジン設計により、3,000rpm付近にトルクピークを設定。日常的に使用する市街地でも、その力強さを楽しめる特性としている。

 また、ワイドレシオの5速トランスミッションを採用。市街地の交通環境と調和しながら、キビキビ走れる4速までのレシオに対し、5速は30km/hから高速巡航までの広い範囲を想定し、低回転域からの息の長い加速を楽しめる設定としている。

 さらに、質量の大きなフライホイールを採用。慣性マスによって粘りのある燃焼フィールを際立たせ、それをライダーに伝えることで、乗り応えに大きく寄与。

 これらにより、日常の移動から長距離ツーリングまで、ライダーはエンジンの鼓動と対話しながらも、それに急かされることなく、常に余裕と充実感に包まれた出力特性に作り込まれている。

 WMTCモード値の燃費は、1リッター当たり41.0kmを実現するなど、単気筒ならではの低燃費性能がポイント。エンジン始動方式は、利便性に優れたセルフスターターのみで、キック始動は省略。この点は、キックスターターのみのロングセラーモデル・ヤマハSR400とは明確に異なる。

さよならヤマハSR400、こんにちはホンダGB350。|空冷シングルの諸元を比べてみた。

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メインシャフト同軸バランサーを採用。その構造は?

 GB350シリーズのパワーユニット開発では、燃焼エネルギーを心地良さや手応えとしてライダーに届ける“鼓動=味わい”と、往復回転部の慣性力に起因する不快な“振動=雑味”を明確に分割。鼓動の最大化と振動の最小化を図ることで、単気筒エンジンの特徴を引き出しクリアな鼓動を実現している。

 その手法として、一次振動の抑制を目的とした一般的なバランサー軸に加え、メインシャフト軸上にもバランサー(※特許出願中)を追加した。

 パルス(振動周波数)発生とクランクシャフト回転数の関係性については、4ストローク単気筒エンジンでは、ライダーに排気音と後輪が蹴り出すトラクションを感じさせる燃焼爆発、すなわち鼓動がクランクシャフト2回転につき1回であるのに対し、ピストンの往復がもたらす慣性力による不快な一次振動はクランクシャフト1回転につき1回発生。

 この一次振動を打ち消す機構が一次バランサーだが、一次バランサーが1本である一般的な機構においては、バランサー軸とクランク軸がそれぞれ異なる軸であることに起因する偶力(ぐうりょく)振動を伴う。

 そこでGB350シリーズは、シリンダー後方に位置するメインシャフト上にウエイトを追加し、シリンダー前方に配置したバランサー軸との位置と質量を調整することで、偶力振動をキャンセル。この一次振動と偶力振動の両方を抑制するバランサーシステムにより、GB350シリーズはロングストロークエンジンの鼓動をクリアに伝える、趣味性の高いエンジンフィールを獲得している。

メインシャフト同軸バランサー構成のイメージ。

密閉式クランクケース

 GB350シリーズに採用したロングストロークエンジンは、エンジン全高が長くなることに加え、完成車として最低地上高の確保も必要となることから、その限られたスペースの中でオイル容量の確保とクランクシャフトのオイル攪拌抵抗低減を両立させるため、クランク室とミッション室の間に隔壁を設けた密閉式クランクケースを採用。

 隔壁に配置されたリードバルブが、ピストン上下によるクランク室の圧力変動に伴い開閉することで、ピストンジェットから吐出されてピストン冷却とコンロッド大端部の潤滑を終えたオイルをミッション室に排出。これによりフリクション低減を図り、燃費向上につなげている。

密閉式クランクケース構造図。

力強いGB350シリーズのパワーユニット。その秘密はココにも!

工夫を凝らした吸気系統

 エアクリーナーのクリーンサイドから、スロットルボディにつながるコネクティングチューブまでの吸気径路は、低速から力強いトルクを生み出せる管長の確保と、ストレート化による吸気抵抗低減を推進。

 必要な量の空気を安定して取り入れるため、吸気口を走行風による外乱影響の少ないエアクリーナー後方に配置し、そこまでの空気の導入経路をシート下とエアクリーナー上面の間に設置。これらにより、低回転からの力強さと、鼓動を感じられるクルージングの両立に大きく寄与。

吸気系の構成図。

エキゾーストパイプを二重管構造にした排気系統

 単気筒エンジンを搭載した、GB350シリーズのキャラクターを体現する特徴の一つ。それはエンジン諸元設定など開発初期段階より、サウンドのクオリティにこだわっていること。質のいい排気音を実現するため、ライダーに鼓動を伝える音の成分を定量的に可視化することで、より精細な音質のマネジメントが図られた。

 GB350シリーズが目指した味のある鼓動感(エキゾーストノート)は、迫力ある重厚な低音を主成分とし、弾けるように急激に立ち上がる高音成分をそこに加えることを重要視。それを生み出すマフラー構造とした。

 マフラー内部の排気管長をマフラー後端部まで確保することで、低回転域でのトルクフルな走りに寄与。また、大径Φ45mmのテールパイプを採用し、マフラー容量とのバランス最適化を図り力強い低音を作り出している。

 同時に膨張室をシンプルな1室構造とすることで、燃焼に起因する音の鋭さをテールパイプまで導き、燃焼そのもののエネルギーに満ちた“鼓動”がライダーにクリアに伝わるようにチューニング。

 これらにより、GB350シリーズはスロットルグリップ操作とギア選択によるエンジン回転変化に素直に反応する、歯切れの良い“鼓動”を実現。

 加えて、エキゾーストパイプを二重管構造とすることで、GB350ではクロームの、GB350 Sではマットブラック仕上げの熱による変色を抑え、キャタライザーをアンダーパイプに沿わせて直列に配置するなどの配慮により、バンク角の確保を図りながら、スッキリした完成車外観に仕上げている。

マフラー内部の構成図。
排気音圧と波形のイメージ。

「オフセットシリンダー」と「非対称コンロッド」を導入

 燃焼によってピストンが押し下げられる際に発生する、ピストンとシリンダー内壁との摺動抵抗を低減させる、オフセットシリンダーを採用。シリンダー配置をクランク中心から前方にオフセットすることにより、ピストンが往復する際にシリンダー内壁にかかる摺動抵抗を抑制。クランクの回転に伴う、フリクションを低減しているのがポイントだ。

 また、ストローク量に対応した長さを持つコンロッドとシリンダー下端内壁との干渉を避けるため、コンロッドのプロフィールを前後非対称とすることで、10mmのオフセット量を確保。これにより燃焼が生み出すエネルギーを最大限に活かすとともに、良好な燃費にも寄与。

オフセットシリンダーの概念図。
プロフィールを前後非対称としたコンロッド。

燃焼室上部に独自の冷却機能を導入

 GB350シリーズの空冷エンジンでは、以下の冷却技術を採用することで、高い空気密度を保った吸気による体積効率の向上を図り、良好な燃焼効率を全回転域にて確保。

・冷却フィンの深さ/厚さ/間隔を最適化し、冷却性能と空冷エンジンならではの外観の存在感に寄与。
・ピストンの冷却と潤滑のため、ピストン裏にオイルを噴射するピストンジェットを採用。
・特に高温となる燃焼室周辺を冷却するため、シリンダーヘッド内の燃焼室上部全体を覆う範囲にオイル通路を設けて冷却することで、燃焼室周辺の温度を未採用時よりも約10%低減。

 これらの冷却技術により、PGM-FIで最適化された点火タイミングによる効率の高い燃焼を維持することで、その力強いトルクを低回転から高回転まで味わえるとともに、燃費向上にも寄与している。

燃焼室上部の冷却オイル通路イメージ。

駆動系チューニング

 クランクから後輪までの駆動系領域では、駆動力を連動して伝える機構をトータルでとらえた上、CAE機構解析シミュレーションを活用しながら以下の各要素をチューニング。

 これらの相互バランスにより、単気筒エンジンの大きなトルク変動によるギクシャク感を抑えながら、その力強さをライダーに心地よい鼓動として伝えることに大きく寄与。

 プライマリードリブンギアに配置されているダンパースプリングの硬さを最適化することで、トルク変動に伴う不快な振動を吸収し、鼓動感を活かしている。

 また、リアハブ内に配置されたハブダンパーは、より大型クラス同様の5個仕様とする事で緩衝力を増やし、各部サイズや形状、硬度などを最適化することで、加減速時のギクシャク感を抑え、力強い加速感との両立を図っている。

プライマリーダンパー図。
リアホイールのハブ内に配置されたハブダンパー。

上質なシフトフィールの秘密とは?

シフト時にスライドするシフトフォークガイドシャフト、その軸受け間のクリアランスを最適化

 GB350シリーズは以下の仕様や装備によって、その車格にふさわしい操作フィールを作り込んでいる。

 GB350シリーズはシフト時の踏力の軽さに加え、しっかりした操作感を兼ね備えたシフトフィールが特徴。シフト荷重(ギアチェンジに必要とする踏力)を軽くするため、シフト時にスライドするシフトフォークガイドシャフトと、その軸受け間のクリアランスを最適化。また、シフトドラムの溝に沿って移動するシフトフォークガイドピン接触端面の面取り形状設定により、スムーズな作動を獲得。
 
 一方、ペダル操作時の荷重特性を決めるシフトカムのプロフィールには、より大型のモデルと同じタイプをベースとして形状をアジャストし、ペダルを踏み込むストロークに対して、リニアな抵抗を発生する荷重特性とすることで、しっかりした操作感を実現。

アルミカムのアシストスリッパークラッチ

 GB350シリーズには、アシストスリッパークラッチを採用。通常のクラッチ機構に比べ、クラッチレバー操作荷重を約30%軽減したアシスト機能と、シフトダウンによる急激なエンジンブレーキによる不快なショックを緩和するスリッパー機能により、頻繁なシフトを繰り返す市街地走行から長距離ツーリングまで、ライダーの疲労低減と快適性を提供。

アルミカム アシストスリッパークラッチの構造図。

Honda セレクタブル トルク コントロール(HSTC)も設置

 幅広い路面コンディション下での走行を想定し、路面状況に応じてエンジントルクを制御するHSTC(セレクタブル トルク コントロール)を採用。様々な路面コンディションと遭遇する、長距離ツーリングなどでの安心感を高めている。

 このシステムは、前後ホイールに設置した車速センサーの値からECUが後輪のスリップ率を算出し、その値に応じて燃料噴射を間引くパターンを調整することで、エンジントルクを最適化。これによりライダーのスロットルグリップ操作に起因する後輪のスリップを緩和してくれる。

 システムの作動は、メーター内のHSTCインジケーター点滅により通知。メーター左側面のスイッチでON-OFFが可能。

HSTC(セレクタブル トルク コントロール)の作動イメージ図。

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