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新型試乗|KTM890アドベンチャー/Rは、もはや1050アドベンチャーの域に達したのかもしれない。

  • 2021/06/29
  • 大屋雄一
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KTM初の水冷並列2気筒〝LC8c〟エンジンを搭載し、2019年5月より日本でも販売がスタートした790アドベンチャーと同R。2年後の2021年に排気量をアップするなど早くもモデルチェンジを実施し、車名の数字を〝890〟とした。欧州の新排ガス規制ユーロ5に対応しながら最高出力を10psも引き上げ、合わせてサスペンションやブレーキなども熟成。茨城県にある日本自動車研究所で行われた試乗会でのインプレッションをお伝えしたい。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
問い合わせ●KTMジャパン(https://www.ktm.com/ja-jp.html)

KTM・890アドベンチャー……1,629,000円

KTM・890アドベンチャーR……1,689,000円

STD(上)とR(右)のホイールサイズはフロント21インチ、リヤ18インチで共通。大型ウインドシールド、フロントダウンフェンダー、前後分割式シート、オンロード向きの標準装着タイヤ(エイボン・トレイルライダーAV53/AV54)などがSTDの主な装備となる。車体色はオレンジとブラックを用意。
こちらがRで、ホイールトラベル量はSTDの前後200mmに対して前後240mmと伸長される。スモークタイプの小型ウインドシールド、フロントアップフェンダー、前後一体型シート、ブロックパターンタイヤ(メッツラー・カルー3)、丸型ミラーなどを採用する。車体色は写真のブラック×ホワイト×オレンジのみ。
直接の上位モデルである1290スーパーアドベンチャーSは車名の末尾に〝S〟が付くのに対し、890アドベンチャーにそれがないのは軸足がオフロード寄りだからだろう。乾燥重量は1290よりも24kg軽い。
シート高は880mmと高めで、これは同じホイールサイズの1290スーパーアドベンチャーRと同値となる。付け加えると最低地上高はその1290よりも21mm高いため、より悪路走破性に優れると言えるだろう。

かつての1050アドベンチャーを彷彿させるフレンドリーさがそこに

今から6年前の2015年。KTMはアドベンチャーシリーズの末弟として1050アドベンチャーをリリースした。まだ390や250アドベンチャーが登場する以前の話だ。1190アドベンチャーをベースに、搭載されていた水冷75度V型2気筒〝LC8〟エンジンをスケールダウン。排気量を1,195ccから1,050ccとし、最高出力を150psから95psと大きく減じたそれは、リッターオーバーのVツインとは思えないほど低回転域から扱いやすかった。しかもパワーは必要にして十分ということもあり、兄貴分の1190や1290よりもフレンドリーな性格に好印象を持ったのだ。

さて、2021年に登場した890アドベンチャー(STD)の第一印象は、この1050アドベンチャーに近しいものだ。まずはエンジン。LC8cと名付けられた水冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジンは、435度の位相クランクを採用する。435度は360度+75度、つまり1290スーパーアドベンチャーらが搭載する水冷75度V型2気筒〝LC8〟エンジンと同じ爆発間隔となる。

パラツインのLC8cについては、790デュークと890デュークRで経験済みだ。890デュークRは富士スピードウェイのショートコースで試乗しており、ライディングモードを上から2番目のストリートに設定してすらスロットルの開け方次第では脱兎のごとく加速し、そのパワフルさに驚かされた。その印象が強く残っていただけに、890アドベンチャー/同Rのエンジンのフレンドリーさには正直拍子抜けした。ライディングモードはストリート、レイン、オフロードの3種類で、どのモードでもアイドリングのすぐ上の低回転域でトコトコと走れてしまう。これは790時代から質量を20%増やしたというクランクマスが効いているようだ。

その一方で、スロットルを大きく開ければ105psを公称するだけあって強烈な加速を見せるが、エンジン自体の回り方は非常にスムーズで、なおかつツインらしい歯切れの良い排気音とは裏腹に体へ伝わる微振動は少なめ。かつての1050アドベンチャーとは排気量が近く、爆発間隔が同じとはいえ、全体の印象は明らかに洗練されたものだ。そして、それをさりげなくサポートしているのがMTC(モーターサイクルトラクションコントロール)やコーナリングABS、オフロードABSなどの各種電子デバイスである。短時間の試乗においてそれらの全てを試すことは叶わなかったが、中でもトラコンの優秀さはウェットの舗装路や悪路において明確に感じられた。

脚の長さとマスの集中感に450ラリーからのノウハウの継承が伝わる

ハンドリングは、フロント21インチ/リヤ18インチのワイヤースポークホイールを履く本格ダートマシンに共通するもので、バンキングからフロントの舵角が入るまでにややタイムラグがあるものの、燃料タンクの分割レイアウトによる低重心化もあってか倒し込みや切り返しが軽く、さらに車体のピッチング次第で高い旋回力を引き出せる。舗装路でのコーナリングならオンロード向きのタイヤを履くSTDに軍配が上がるが、ブロックタイヤのRもなかなかどうして、バンク中の安定性が高いため不安はない。

土砂降りの中、日本自動車研究所内にある悪路試験場に足を踏み入れる。STDの方はタイヤのトレッドパターンからして躊躇するシチュエーションだが、LC8cエンジンのオフロードモードにおけるスロットルレスポンスの優しさと秀逸なトラコン性能もあって、意外なほどスルスルと走れることに驚いた。そして、それに慣れてからRに乗り換えると、オフロード走行が苦手な自分でも楽しいと思えるほどになった。

悪路におけるタイヤのグリップ性能の違いもさることながら、Rは前後のホイールトラベル量が40mm長いことに加え、サスペンションの動きがワンランク上なので、明らかに安心感が高い。例えばコーナーの入り口でフロントが流れるなど、何か起きたときのフォローが素早いので慌てずに済む。そして、車体のピッチング中心とライダーの乗車位置が限りなく接近している感覚は、以前ほんの少しだけ試乗したことのあるKTMの450ラリーを彷彿させるものだ。

タイトなスケジュールだったため、街中や高速道路など一般道での試乗はできずじまいだったが、ポテンシャルの片鱗は十分に体感することができた。昨今人気のトラベルエンデューロの中ではオフロード性能が明らかに抜きん出ており、それを重視するのであれば1290スーパーアドベンチャーS/Rよりも軽量なこちらを推したい。

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