「やるか、やられるか」が信条のフライングテキサン、ケビン・シュワンツ。【磯部孝夫カメラマンが紡ぐWGPの世界】
- 2021/04/02
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MotorFan編集部
1980年代から、国内外の二輪レースをファインダーに収めてきた磯部孝夫カメラマン。その秘蔵フィルムをもとに、かつて数多くのファンを魅了したライダーやレースを振り返ってみたい。今回の主役は、世界最高峰の二輪レース、WGP(ロードレース世界選手権)で驚異のレイトブレーキを武器に戦ったケビン・シュワンツだ。
PHOTO●磯部孝夫(ISOBE Takao)
長い手足を生かした独特なライディングフォーム。速さだけなら誰にも負けない
ケビン・シュワンツは1964年6月19日、テキサス州ヒューストン生まれ。母と叔父がバイクとモーターボートの店を営んでいたことから、幼少時よりバイクに乗り始める。34というゼッケンナンバーは、ダートトラックで活躍した叔父から受け継いだものだ。
8歳の頃、シュワンツのレースキャリアはトライアルから始まった。その後、モトクロスもやるようになったシュワンツが初めてロードレースに出場したのは83年のことだ。早くも地元のトップライダーとなったシュワンツは、84年のシーズン終了後にUSヨシムラからテストのオファーを受け、そこでウェス・クーリーを上回るラップタイムを記録。ヨシムラの契約を手に入れてみせたのだ。
85年からシュワンツはヨシムラのエースライダーとしてAMAスーパーバイクで活躍する。86年のデイトナ200ではヤマハのエディ・ローソンに次ぐ2位を獲得。飛躍の年となったのは87年で、チャンピオンこそホンダに乗るウェイン・レイニーに譲ったものの、6戦中5戦で優勝を遂げたのだ。アメリカでその実力を証明することに成功したシュワンツは、88年から活躍の場をヨーロッパへ移した。87年からワークス活動を復活させたスズキに抜擢され、RGV-ΓでWGPを戦うこととなったのである。
88年の開幕戦となった日本GPで、シュワンツは世界中のファンの度肝を抜いた。前年王者のワイン・ガードナーやエディ・ローソン、ランディ・マモラといった強豪たちを尻目にデビューウインを飾ったのである。ロデオのようにRGV-Γを乗りこなすテキサスの若きカーボーイが、いずれ世界王者になることは約束されたようなものだった。
しかし、シュワンツはなかなか世界王者の座に就くことはできなかった。優勝を重ねても、同じくらいのリタイアがリザルトに残った。シュワンツのライディングスタイルは、”Do or Die.(やるかやられるか)”。ストレートスピードに劣るRGV-Γの特性をカバーするため、シュワンツは限界まで攻め続ける必要があったのだ。
アメリカでライバルだったレイニーは、WGPでもシュワンツの壁となって立ちはだかった。同じタイミングでWGPに昇格したにもかかわらず、レイニーは90年から3年連続世界王者になっていたのだ。アグレッシブなだけではレイニーに勝てないと悟ったシュワンツの走りが変わったのは93年だった。
この年、シュワンツは速さと安定感を高次元で両立した走りを披露した。第9戦までに4勝をあげ、勝ちを逃したレースでも表彰台に立ち続けた。しかし、第10戦ではミック・ドゥーハンに巻き込まれて転倒、左手首を骨折してしまった。ライバルに付け入る隙を与えたなくないシュワンツは、そのことを隠しながらその後のレースを戦うことに。ついにはレイニーにポイント逆転を許してしまうが、第12戦でレイニーはアクシデントでレースキャリアに終止符を打つ。その結果、シュワンツは「無冠の帝王」の称号を返上し、念願のシリーズチャンピオンを手にすることとなった。
だが、それはシュワンツのWGPキャリアの終わりの始まりでもあった。ライバルを失ったことで、シュワンツは燃えたぎる闘争心をどこにぶつければいいのか戸惑っているようにも見えた。ゼッケン1とともに走った94年は2勝をあげて意地を見せたものの、95年の第3戦・日本GPがラストレースとなった。
WGPでの優勝25回、ポールポジション29回、ファステストラップ26回。記録も立派だが、レイニーを驚異のレイトブレーキングでうっちゃった91年ドイツGPなど、ファンの記憶に残る走りが多かった。FIMはシュワンツが長年使用したゼッケン34を永久欠番とした。
写真:磯部孝夫(いそべ・たかお)
1949年生まれ。山梨県出身。東京写真専門学校(現東京ビジュアルアーツ)を卒業後、アシスタントを経て独立。1978年から鈴鹿8耐、83年からWGPの撮影を開始。また、マン島TTレースには30年近く通い続けたほか、デイトナ200マイルレースも81年に初めて撮影して以来、幾度も足を運んでいる。
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