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【ホンダNSR達人会談】ストリート×サーキット、それぞれの極意を語る。

  • 2019/08/16
  • モト・チャンプ編集部
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ストリート派とサーキット派では、NSRへの向き合い方が異なるに違いない─。今回の企画はそんな発想が原点になっているのだが、話しは意外な方向へ進む。2人のNSR マイスターが語ってくれた話は、多くの共通点を感じるものだった。
月刊モトチャンプ 2019年8月号より

PHOTO◉富樫秀明(TOGOSHI Hideaki) REPORT◉中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)

ストリート代表:和光2りんかん 狩野 修さん

1976年生まれの狩野さんは、20年以上に渡ってMC28を愛用中。数年のアルバイト期間を経て、2りんかんに正式入社したのは2001年で、2010年頃には当時の店長に薦められて、和光店にNSRパーツコーナーを設置。そのパーツチョイスとシャシーダイナモを用いた健康診断が話題となり、近年の同店には多くのNSRユーザーが訪れるようになった。

和光2りんかん
埼玉県和光市下新倉5-11-1
☎048-452-6290

サーキット代表:MotoUP岩槻本店 渡部 晋さん

1979年生まれの渡部さんは、若き日に2台のNSRを乗り継ぎ、2ストの魅力に開眼。90年代中盤に名門レーシングチームのJha(城北ホンダオート)に入社してからは、NSRや市販レーサーRSと格闘する日々を送ることとなった。2000年代後半以降は、メカニックとして世界各国を転戦し、故・富沢祥也や長島哲太、ジャック・ミラーなどを担当。

MotoUP岩槻本店
埼玉県さいたま市岩槻区加倉4-25
☎048-812-8040

NSRへの向き合い方が異なるとセッティングはどう変わる?

――生産終了から約20年が経過したにも関わらず、近年になってブームと言えるほどの盛り上がりを見せているNSRの世界。このモデルを熟知した達人として、どんな人を思い浮かべるかは人それぞれだが……。

 今回は過去に本誌の取材に協力してくれた、和光2りんかんの狩野 修さんと、モトアップの渡部 晋さんに登場していただき、現代のNSRの状況を対談形式で語ってもらうことにした。

 もちろん、日本には他にも多くのNSRマイスターが存在するけれど、この2人が近年のNSRブームに大いに貢献していることに、異論を挟む人はいないだろう。

 本題に入る前にざっくり説明しておくと、和光2りんかんがNSRのパーツ販売と整備を主業務としているのに対して、レーシングチームが母体のモトアップは車両の販売に力を注いでいる。また、狩野さんが通勤・ツーリングにNSRを積極的に使うストリート派であるのに対して、渡部さんはレース畑出身で、サーキット事情に精通する。こういったスタンスの違いが、NSRへの向き合い方に何らかの影響を及ぼすことはあるのだろうか。



渡部 あんまりないと思いますよ。確かに僕は、レースの世界で仕事をしていた期間が長いですが、今の時代にNSRと接するうえで、最も重視しているのは本来の性能を取り戻すこと。エンジンをカリカリにチューニングしたり、足周りをサーキット指向のセッティングにしたりという仕事は、ほとんどやっていませんから。もしそういうことをやるとしても、まずはノーマルの素晴らしさを味わってもらうのが大前提ですし、扱いやすさが何よりも大事という考え方は、実はストリートバイクもレーサーも変わらないんです。

狩野 僕もそう思いますよ。もちろんレースで表彰台を目指すとなったら、ストリートバイクとは異なるノウハウが必要になると思いますが、基本的な姿勢は同じでしょう。なおウチの主業務はパーツ販売と整備以外に、DIY派のサポートがあります。具体的には、シャシーダイナモを使った健康診断を通して、お客さんにさまざまなアドバイスをするわけですが、NSRユーザーはとくにDIY派が多いですね。なお健康診断を通して僕が把握している、最近のNSRの傾向を述べるとしたら、完調の車両が少なくなった……という印象です。中でもMC18以前のモデルは、好調を維持している車両にはめったに出会いません。

渡部 そうなんですよね。僕がNSRの中古車の実情を知ったのは、モトアップで車両販売を始めた数年前からですが、そのまま乗れるレベルの車両には出会ったことがないです。だからウチが扱うNSRは、比較的コンディションが良好なMC21と28が主力。もちろん、お客さんからどうしてもと言われれば対応しますが、80年代に生まれたMC16と18は、完調を取り戻すまでに、かなりのコストと時間がかかります。

──ちょっと答えづらい質問かもしれないが、狩野さんはモトアップの仕事をどう感じているのだろう。古くからNSRに力を入れて来た狩野さんとしては、新興勢力であるモトアップに対して、違和感や敵対心を持つことはないのだろうか。

狩野 まったくありません(笑)。そもそもウチは車両販売を行なっていないですし、普段から調子が悪いNSRをたくさん見ている身としては、モトアップさんのように卓越した技術力のあるショップが、完調のNSRを世に送り出してくれることは、むしろ嬉しいことですから。少々大げさな表現かもしれませんが、NSR業界と2輪業界の活性化を考えると、モトアップさんの参入は大きなプラスになっていると思います。

渡部 そこまで言ってもらえると、かなりのプレッシャーを感じますが……(笑)。でも完調を目指すと相応の費用がかかるわけで、それがお客さんに受け入れてもらえるのは、NSRだからなんですよ。同じ時代に生まれた他のレーサーレプリカの場合は、なかなかそうはいきません。逆に言うならウチの中古車販売は、NSRという偉大なモデルのおかげで、何とか成立しているんです。

パワーユニットに関するふたりの推奨品と考え方

──ここからは油脂類やパーツに関して、おふたりの推奨品や考え方を聞いてみたい。マニアなら誰もが気になる、2ストオイルの話から。

狩野 僕の推奨品はホンダ純正のGR2です。サーキット指向のユーザーの中には、エルフやワコーズなどを選ぶ人もいますが、一般的な使い方なら、GR2に勝るものはないでしょう。ちなみに、混合が前提のレース用2ストオイルを街乗りで使うと、燃え残りのカーボンが、燃焼室に堆積しやすくなります。

渡部 ウチもメインはGR2で、サーキットでも分離給油のままなら、GR2をオススメしています。世の中には純正オイルをバカにする人がいますが、GR2は相当に侮れない、守備範囲が広いオイルだと思います。

──続いては油脂類つながりで、ギヤオイル、ブレーキフルードの話。

狩野 ギヤオイルはホンダ純正のG1も選択肢のひとつですが、乾式クラッチを装備するSE/SP用として、ウチでは広島高潤さんと共同開発した、タイプHとLを準備しています。ブレーキフルードは、ワコーズを使うことが多いですね。

渡部 ギヤオイルはG1とエルフHTX830、ブレーキフルードはゴールデンクルーザーとプロジェクトμが、定番になっています。

──エンジンについてはどうだろう。渡部さんからは先ほど、カリカリにチューニングする機会はほとんどない、という話が出ているが……。

渡部 それ以前の話として、ピストンリングやリードバルブがへたっていたり、RCバルブが正常に動いていなかったり、クランクシャフトのセンターシールが抜けていたりと、ウチに入ってくるNSRは、何らかの問題を抱えている個体がほとんどです。まずは純正部品を使ってのフルオーバーホールが出発点で、チューニングの話はそれからでしょう。でも実際に本調子のNSRに乗ると、〟これ以上のパワーは必要ない〝と言うお客さんが多いですけどね。

──その一方で、狩野さんのMC28は、独自のチューニングで約70㎰の最高出力(クランク軸)を獲得している。和光2りんかんは、そういう指向のユーザーが多いのだろうか。

狩野 いえいえ、そんなことはないです(笑)。本来の調子を取り戻して、それをできるだけ維持したいというお客さんが、圧倒的な多数派です。ただしDIY派の中には、僕のように地道なエンジンチューニングを続けているNSRユーザーがいて、そういう人たちとよく話しているのは、取り返しがつかないような壊し方をしないのが大事だということ。いくら丈夫でパーツが豊富なNSRといっても、エンジンに致命的なダメージを負うと、修復は難しくなります。

──2ストならではのパーツであるチャンバーに関しては、どちらのショップも、ドッグファイトレーシングが一番人気になっているという。

狩野 確実な出力向上が見込めることに加えて、品質の安定感や納期の早さという面でも、素晴らしい。もっとも最近では、ドッグファイト製の美点をわかったうえで、ライズオンやタイガパフォーマンスを試したい、というマニアも増えてきました。

渡部 ドッグファイトさんのチャンバーは、昔から〟間違いない〝と言われていますからね。ただし現在ウチでは、チャンバーの選択肢を増やすために、MC21/28用の右2本出しタイプを開発中です。

──キャブレターは純正をフルオーバーホールする。両店ともに、アフターマーケット製のものに変更するケースはめったにないそうだ。

狩野 キャブをオーバーホールするときは、単純に内部を掃除してシール類を交換するだけではなく、針と筒、ジェットニードルとニードルジェットホルダーの磨耗についても要注意です。この部分の寸法変化によって、調子を崩している個体は少なくないですよ。

渡部 昔のNSRは、直キャブが定番でしたが、今はエアクリーナーボックスを取り払うことはまずないですね。そもそも直キャブにしても、簡単にパワーが上がるわけではないし、耐久性の確保という面では、エアボックスの使用はマストでしょう。

──点火ユニットのPGMに関しては、かつては壊れたらどうにもならない……と言われていたものの、近年では独自に修理を行なうショップやプライベーターが登場している。

狩野 ウチのお客さんも、そういったショップやプライベーターに修理を依頼している人が多いです。ひと昔前のギャンブル的な雰囲気、でアタリかハズレかわからないPGMを、多くのNSRユーザーがネットオークションで購入していた頃を考えれば、今はいい時代になりました。

渡部 PGMの修理は、ウチも外部に依頼しています。なお点火系については、近年のレース界で話題になっている、スロベニア製のジールトロニックを試してみたいのですが、じっくり取り組む時間がなかなか取れない……というのが現状です。

狩野 ジールトロニックは、まだインフラが整っていないですよね。すでに使いこなしているプライベーターはいますが、ボルトオンでOKという雰囲気ではない。

モトアップのパーツ開発&テスト用車両であるこのMC28は、渡部さんが中心になって開発。基本的にはレーサーだが、ストリートバイクへのフィードバックを念頭に置いているため、耐久性を損なうチューニングは行なわれていない。とはいえ、VHMのシリンダーヘッドやRS125R用リードバルブ、7Cのチャンバーなどを採用したパワーユニットは、後輪で65psを発揮するという。フレームはノーマルだが、リヤホイール/ブレーキパーツの選択肢を増やすため、スイングアームはMC21用のガルアームに変更している。
20代前半からNSRに乗り始めた狩野さんにとって、現在の愛車は2台目のMC28。エンジンには高度なチューニングが行なわれているものの、狩野さんは通勤やツーリングなどに、この車両を普通に使用している。「NSRを日常的に使っていると言うと、もったいないとか、街乗りは疲れない?と言われることがありますが、僕はどんなときでも、大好きなNSRに乗っていたいんです(笑)。それに“走る・曲がる・止まる”の三拍子がきっちり揃ったNSRは、危険を回避できるという意味では、実は安全なバイクなんですよ」

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