ツーリングは意外と快適! でも600ccクラスとニンジャ250を羨ましく感じる場面も。|Ninja ZX-25R SE 1000kmガチ試乗②
- 2020/12/13
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中村友彦
ツーリングは至って快適だし、低中回転域を維持してのまったり走行もソツなくこなせる。とはいえZX-25Rは、走る場面を問わないオールラウンダーではなく、やっぱりエンジンを回してナンボのスポーツバイクなのだ。
REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)
他のライダーからの熱い視線にビックリ
第一印象を記した第1回目に続いて、今回は約1000kmを走っての感想である。まずは長距離走行における快適性の話をすると、これが意外なことに、いや、意外と言うのも失礼な話だが、なかなか快適だった。その最大の理由は、フレンドリーさとスポーツ性を絶妙の塩梅で両立したライディングポジションだ。
もっとも一泊二日のツーリングに出かけた際は、ある程度の疲労を想像していたのだけれど、二日目後半になってもコレといった身体の痛みはナシ。過去にツーリングに使ったカワサキのフルカウルスポーツ、ZX-10Rと6Rでは首と手首、ニンジャ250では尻に適度な痛みを感じた僕にとって、この快適性は嬉しい誤算だ。そしてそういう視点で見るならもうひとつ、ニンジャ250を比較対象にすると、上半身の前傾がやや強くなり、気筒数の増加でサイドカウルの幅が広がったことで、走行風の身体へのアタリが弱くなったことも、嬉しい誤算と言うべきかもしれない。
実際のツーリング中にありがたかったのは、運動性能をきっちり味わえる場面、ここぞ!という場面がたくさん存在すること。ミドル以上の並列4気筒スーパースポーツでツーリングをすると、そういう状況に遭遇するのは全行程の10%にも満たない……と僕は思っているのだが、ZX-25Rの場合は20~30%の場面で本領を発揮できた気がする。もちろんその印象の背景には、絶対的なパワーが少ないという事実があるのだけれど、しなやかなシャシーや軽い車重も本領を発揮しやすい一因。そう考えると、現代の日本の道路事情の中で、誰もが気軽に並列4気筒の醍醐味を満喫できるという見方をするなら、ZX-25Rは兄貴分を凌駕する資質を備えているのだ。
ところで、ありがたいとはちょっと異なる話だが、ツーリング中に面白かったのは、道の駅やサービスエリアなどでの休憩時に、他のライダーからとてつもないレベルの注目を集めたことである。話題の新型車だし、小さいナリで並列4気筒の音をしているのだから、それは当然なのかもしれないが、素人目には並列2気筒のニンジャ250と同様に見えなくもないこのバイクが、停車中でも、どうしてそこまでの注目を集めたかと言うと……。
現代の250ccでは異例のふくよかなボディに加えて、個人的にはニンジャ250とは異なる豪華にして特徴的な装備、フロントのラジアルマウント式キャリパーや左右非対称スイングアーム、超ショートタイプのマフラーなどが利いていると思う。おそらく、ZX-25Rに熱い眼差しを向けたライダーの多くは、その3点から特別な雰囲気を察知したんじゃないだろうか。いずれにしても外観の目立つ部分に、乗り手の所有欲を満たすだけではなく、周囲へのアピール力を持つパーツを配置したカワサキの手法を、僕は巧みだと感じた。例えば、フロントキャリパーが片押し式、スイングアームがシンプルな角型、マフラーがオーソドックスな右側1本出しだったら、このバイクの印象は違ったものになっていただろう。
かつての250cc並列4気筒との対比
1989~1999年にカワサキが販売したZXR250を含めて、かつての250cc並列4気筒とZX-25Rのエンジン特性がどう異なるのかは、マニアならずとも知りたいところだと思う。そしてこの件に関する僕の見解は、なかなか微妙なのだった。まず高回転域の伸びとパワーは、ほとんど同等。近年のリッタースーパースポーツの躍進ぶりを考えると(2004年に登場した初代ZX-10Rが175ps/11700rpmだったのに対して、2021年型ZX-10Rは203ps/13200rpm)、その事実には物足りなさを感じる人がいるかもしれないが、現代の厳しい排出ガス・騒音規制を考えれば、かつてと同等のフィーリングを実現してくれたことは、個人的には十分に満足である。
一方の低中回転域の特性は、明らかにかつてより良好。極端な表現をするなら、ZXR250を筆頭とする1980~1990年代の250cc並列4気筒には、往年の2サイクルを思わせるほど低回転域がスカスカだったのだが(そこまで言うと極端すぎかも)、ZX-25Rはどんな領域でもスロットル操作に対する反応が従順で、アクセル開けたら開けたぶんだけの加速を披露してくれるし、その気になれば6速2000rpmで走ることも可能。また、ゼロ発進時のエンスト防止策として、1速にシフトするとアイドリングがわずかに上がるシステムは、現行モデルならではで、この種のエンジンに不慣れな人には有効な機構だろう。言ってみればZX-25Rのエンジンは、かつての250cc並列4気筒に通じる爽快感を備えつつも、かつての250cc並列4気筒よりも守備範囲が広がっているのだが……。
ニンジャ250を含めた現代の250cc並列2気筒に慣れ親しんだ身としては、低中速トルクに物足りなさを感じないでもなかった。具体的には、渋滞路で前方を走る4輪が加速したときや、勾配が急な峠道のタイトターンなどでは、シフトダウンがわずらわしくなり、ニンジャ250ならそのままのギアで行けるのに、と感じる場面に何度か遭遇したのだ。排気量とエンジン形式を考えれば、その点に文句を言うべきではないのだが、前述した意見と矛盾すると思いつつも、250cc並列2気筒車との差異を目の当たりにした僕は、並列4気筒車で余裕のツーリングを楽しむためには、最低でも400cc、できれば600cc以上の排気量が必要なのかも、という気がしたのだった。
よくぞ作ってくれた!と思いつつも……
冒頭で述べたように、一泊二日のツーリングにおいて、ZX-25Rはなかなかの快適性を発揮してくれた。ただし、身体にコレといった痛みはなくても、心理的なストレスがなかったわけではない。と言ってもその原因は、僕自身の器の小ささだと思う。端的に言うなら、本領発揮の場面が全体の20~30%程度では物足りず、ツーリング二日目の後半の僕は、遅い4輪や黄色いセンターラインにイライラしてしまったのだ。そしてその際にふと思ったのである。低中回転域が楽しいニンジャ250の場合は、こういったストレスはあんまりなかったんじゃないかと。逆に言うなら、かつての250cc並列4気筒とは比較にならないレベルで低中回転域をソツなくこなせても、やっぱりZX-25Rは回してナンボのバイクなのである。
なお比較論ではなく、ZX-25R固有の問題として、僕が何とかしたいと思ったのはリアショックだ。尻や腰に痛みは蓄積しなかったものの、跨った段階でかなりのストロークを使ってしまい(バネレートが低い印象)、一方でダンパーが全域で強いせいだろうか、路面の凹凸の吸収性はスムーズとは言えないし、コーナリングの中盤~立ち上がりではリアの車高がどうにも低く感じた。この問題はプリロードを強くすることで、ある程度は改善するのだが、僕がZX-25Rオーナーになったら、さまざまな調整機能を備えたアフターマーケット製への換装を行うだろう。
さて、今回の原稿は途中から異論を述べる展開になってしまったが、大前提の話をするなら、僕はカワサキに対して、“よくぞ現代の技術で、新しい250cc並列4気筒を作ってくれた!”と、賛辞を送りたい気分なのだ。こんなにも試乗意欲がそそられるバイクは昨今では貴重だし、業界人的な発言をするなら、ZX-25Rは日本の2輪市場の活性化にものすごく貢献しているのである。ただし同時に、どんなにZX-25Rのセールスが好調でも、並列2気筒のニンジャ250の販売と熟成を、今後も続けて欲しいとも思った。パワーや質感などでZX-25Rに劣ろうとも、車重の軽さや低中回転域の楽しさ、価格の安さ、燃費などでは、ニンジャ250に分があるのだから。
もっとも、カワサキは1989年にZXR250を発売してからも、長きに渡って並列2気筒を搭載するZZR250の生産を続けたメーカーである。さらに言うなら、他の国産3メーカーがイッキに250cc並列4気筒に注力した’80年代中盤~後半も、カワサキは並列2気筒のGPZ250R/GPX250Rを販売していたのだ。その事実を考えると、現時点で僕が余計な心配をする必要はないのだろう。
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