Lツインの基盤を作った、2台のベベルドゥカティ|1970~1980年代のイタリアンクラシックが集う、ラウンドミーティング②
- 2021/01/01
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中村友彦
2020年に開催されたラウンドミーティングには、イタリアの名車が数多く参加。今回はその中から2台のベベルドゥカティ、1971~1973年に販売された750GTと、1973年に衝撃的なデビューを飾った750SSを紹介しよう。
REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)
1971~1973 ドゥカティ750GT
4種のパラレルツインとV4を試作
昨今ではV4のイメージが強くなっているけれど、1970年代以降のドゥカティの主力エンジンは、90度Vツインである。車載時の2つのシリンダーの角度が、アルファベットのLを思わせることから、“Lツイン”と呼ばれるこのエンジンには、単気筒並みのスリムさが実現できる、理論上の1次振動がゼロにできる、という美点が備わっているのだが、そもそもの話をするなら、1970年代初頭のドゥカティが理想を追求し、積極的にLツインを選択したかと言うと……、必ずしもそうではなかったようだ。
レーサー用として125~350ccのパラレルツインを手がけたことはあるものの、第二次世界大戦後に2輪事業に参入したドゥカティは、当初は250cc以下の単気筒車を主軸としていた。そんな同社が1960年代前半に大排気量車に目を向けるようになった理由は、BSAやトライアンフを筆頭とする英車勢のように世界最大の2輪マ-ケット、北米市場で成功したい……と考えたからである。
そして既存の単気筒車では、北米での成功は難しいと判断したドゥカティは、同時代の英車を規範としたかのような500ccパラレルツイン車と、ハーレーへの対抗意識を感じる1257ccのV型4気筒車、アポロをほぼ同時期に開発。とはいえ、前者は性能不足、後者は車格とパワーに見合ったタイヤとチェーンが存在しないという理由で、計画は破棄されることとなった。そして以後の同社は、1967~1968年にも3種のパラレルツイン車を開発したのだが、これらの市販化も諸般の事情で頓挫している。
既存の単気筒車で培った技術を転用
当時の他メーカーの動向を振り返ると、1967年にはモトグッツィV7(1969年型で排気量を703→757ccに拡大)、1968年にはトライアンフ・トライデント/BSAロケットⅢ(750cc並列3気筒の兄弟車)、1969年にはBMW R75/5、ラベルダ750GT、ホンダCB750フォアなど、新時代のビッグバイクが続々と登場していた。言ってみれば、1960年代に数多くのトライ&エラーを繰り返したドゥカティは、この潮流に乗り遅れそうだったのだが……。
そんな状況下で窮余の策として生まれたのが、既存の単気筒車の技術を転用したLツインだったのである。いや、窮余の策はちょっと失礼な表現で、前述した美点に加えて、ライバルとは異なる個性を強調する、従来の生産設備が適度に流用できるという意味で、Lツインは最善の策だったのだろう。とはいえ、設計を担当したファビオ・タリオーニはマルチシリンダー信奉者で、ボローニャ大学在籍時は250ccV4の図面を描き、1954年のドゥカティ入社後は、既存の単気筒車のブラッシュアップを図る一方で、125/175/250cc並列4気筒レーサーの開発にも従事していたのだ。もちろん、前述したV4のアポロも彼の作品である。そのあたりを考えると、当時のタリオーニには、当面はLツインでしのいで、いつかはマルチシリンダー……という意識があったのではないだろうか。
もっともドゥカティLツインの第一号車として、1971年に登場した750GTは、同社の知名度をイッキに高めるモデルとなった。60psというパワーは、当時の基準で考えても驚くほどではなかったけれど、軽快な操縦性と抜群の安定性を絶妙の塩梅で両立した750GTは、グランツーリスモという車名とは裏腹に、バランスに優れるスポーツバイクだったのである。ただし、1972年から発売が始まった北米市場で750GTが大ヒットしたのかと言うと、その判断は人によって異なりそうだが(総生産台数は約5000台。ちなみに、同時代のCB750フォアの年間販売台数は6~7万台前後)、新時代を迎えたビッグバイクの世界で、750GTで確固たる地位を確立したからこそ、以後のドゥカティは堅実な成長を遂げることができたのだ。
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