「日産の目指す未来」総合研究所所長・土井三浩氏は語る
- 2019/10/26
- Motor Fan illustrated編集部
NIMTT(ニッサン インテリジェント モビリティ テクノロジーツアー)で、総合研究所所長である土井三浩氏がプレゼンテーションした。日産はいま何を考えているのか、何を開発しているのか、どこへ向かおうとしているのか。
PHOTO:市 健治(ICHI Kenji)
皆さんこんにちは。本日は午前中に試乗いただきまして、それから移動お疲れさまでした、ありがとうございます。今日はですね、この後、今回東京モーターショーで日産のコンセプトカーを出していますけど、そのコンセプトカー、それから数年後に出てくるであろう技術を中心に、その背景と日産の考え方を、概略を紹介させていただきたいと思います。今日の本番は、後でゆっくりとエンジニアが個々の技術を説明しますのでこちらは前座と、ゆったりと聞いていただければと思います。よろしくお願いします。
この場所に来ていただいた方も大勢いらっしゃると思いますが、ここは日産の中の先進技術開発センターということで、約2000名の規模で、2007年につくりました。私が日産に入った頃は、クルマは鉄とゴムでできていたわけですけど今はそうはいかなくて、やっぱりソフトが相当な、価値の上でも仕事の上でも大きな比重を占めています。とはいえなかなかクルマ屋の中ではソフトウェアのエンジニアって数がいないものですから、この場所を使ってソフトウェアトレーニングセンターというのを作りまして、毎年大体100人くらい、2022年には合計500人くらいを自動車のソフトウェアエンジニアとして育てていけるような取り組みをしています。
今日はいろいろ技術を見ていただきたいと思いますが、過去にも数年にわたって同じような取り組みをしてきておりまして、例えばプロパイロット2.0は2017年、それからリーフ用のバッテリー、高容量バッテリーは2015年ということで、この場所で見てきていただいた経緯があります。ですので、今日見ていただく技術もこの後数年後に出てくる技術ということでお約束をさせていただきたいと思います。
次は少し中身の話をいたします。日産はご存知、3つのコンセプト、インテリジェントモビリティーというコンセプトのもとで技術開発それから商品開発、そしてコミュニケーションを行ってきております。3つの柱というのはインテリジェントドライビング、インテリジェントパワー、そして3つ目の、つながる所のインテリジェントインテグレーションということです。今日はこの3つの柱に従っていくつか技術を用意しております。
まずインテリジェントドライビングですけど、ドライビングを支える基本は、安全であります。日産は2005年、他社に先駆けて安全な長期目標というのを設定して、それを今もずっと守り続けながら、そこをめがけて技術開発をしています。今この上に、日産車10,000台あたりの死亡者数ということで、日本アメリカイギリスと、データが出ていますけど、すべて当初目標にしていた数値を上回る形で推移してきています。もちろん皆さんご存じのとおりで、クルマの安全だけで事故は減るわけではありません。インフラとか法規などを全部含めてではありますけど、目標に従って技術開発をやってきているということであります。その技術開発とは何かといいますと「セーフティ・シールド」コンセプト、クルマが人を守っていくという技術でありますが、クルマの事故は前だけでなく横後すべてですので、360度ぐるっと包囲する形で、適切な、事故に対して適切なタイミングで作動するような安全装置を次々と開発しています。
この安全装置が徐々に進化をして、例えばカメラの認識ですとかクルマの制御ですとか、そういったところが進化して、今のプロパイロットになってきているということです。プロパイロット、プロパイロット2.0ということで、プロパイロット自体も今後どんどん進化していくということになります。
プロパイロットが進化するというのはいくつか報告があると思いますけど、ひとつは、より広いシーンに対応していくということで、最初のプロパイロットは高速道路の単一車線からスタートしました。2.0では複数車線ということで、車線変更までを含めた自動運転機能ということです。その先には、今度は市街地というところが当然視野に入ってくるわけでありまして、市街地を走る自動運転のひとつとして、これはパッセンジャービークルというよりモビリティサービスという形で、今DNAさんと一緒にイージーライドというような実証実験をスタートしております。
それからパッセンジャーカーでいいますと、使いやすいというところがやっぱり安全機能、すべてそうですけど、使いやすいという意味ではHMIがひとつポイントになります。HMIも、かつてのメーターからもっと大きなディスプレイになり、ディスプレイが大きくなるということで、より多くの情報を出すことができるんですけど、それがわかりやすいかたちで、理解しやすいかたちでどうやって情報を出すかというところが各社の腕の見せ所という所になると思います。
また、自動運転といえども、どこかの宣伝で「これ誰かが乗っている」ってやっていますけど、やっぱり誰かが乗っているではなくてびしっとした安心して走れる自動運転と、そうじゃなくて頼りない自動運転ってやっぱりあるわけでして、頼りがいのある自動運転機能を実現するためには、ひとつの手立てとして高精度地図のようなものをベースにして、きちんと自己位置を特定して走るという技術も必要になってきます。さらには安全機能というのを考えると、皆さんに使っていただいてなんぼということになりますので、より多くのお客さまに、より多くの地域にということで、現時点でプロパイロットは合計450,000台ほどがすでに世に出ています。8つの日産のモデルに合わせてきています。今後、これをさらに拡大していくという計画であります。
続いてはインテリジェントパワーということで、大目標は後にも先にもCO2を下げるというのが一番の目標になります。これも2007年に、2050年までにCO2を90%削減するという目標を立てまして、そこに向けて技術開発を進めてきたうちの柱がふたつ、日産の場合はバッテリーEVとe-POWERということになります。EVもe-POWERもコアになるのはモーター駆動です。モーター駆動のためのエレクトリックパワートレインと電池というのがコアの技術になりますし、モーターで駆動する気持ちよさというのは両方のクルマに共通する良い点ということになるかと思います。
では両方ともにどれくらい売れているのかといいますと、電気自動車の場合はすでに累計で43万台ということになっています。リーフを出した頃は、本当にこんなの来るのかしらと、充電するとこないじゃんというようにずいぶんいわれたこともありましたけど、今になってみると各社、どこのメーカーもEVを出しますといっていないメーカーはほぼないくらいでありまして、ある領域を占めるマーケットになるだろうというのが見えてきたところだと思います。
ただ、EVが本当に増えてくるとなると自動車メーカーとして本当に考えなきゃいけないところがまた出てくるわけでありまして、大きくはふたつあると思います。ひとつは、そうはいっても本当にお客さんってそんなにいっぱいいるんだっけという話ですね。もっとお客さんにとっていただくためには今のリーフで充分かと思っているかというと決してそうではなくて、より競争力のある、乗っていただける技術開発をしていかなければならないというのがひとつです。
それからもうひとつは、そんなにもし増えちゃった場合どうなるんだろうということで、ひとつはネガティブな側面で、例えばバッテリーを作るときのCO2という話は我々もわかって開発をしています。そういう意味でいうとライフサイクルでのCO2の問題はちゃんと真面目に考えないと、数を増やすことが正義にはならないということもわかってやっています。それからもうひとつは、数が増えていったときに、初めて、グリッドとつながって、社会の電気に対してある量が貢献できるという時代がもうじきくるというように思っています。今はまだ数が微々たるものなので牛にハエが集っているみたいなものかもしれませんけど、これが増えていったときに意味のある、動く電池として市場の中で活躍する時がくるだろうと。そこに向けてある準備をしておく必要があると思っています。
またe-POWERの方ですけど、ノートで発売して以来ずっと、6割以上、7割近いお客さまにノートの中のe-POWERを選んでいただいています。それからセレナの場合は40%位ですけど、同型の他社さんのハイブリッドで見ると大体3割くらいになっているので、それに比べても遜色ないかそれ以上の比率でお客さまに選んでいただいているということで、燃費もさることながらe-POWERの走りという、ある層のお客さまにはきちんと受け入れられているという実感があります。
先ほど電気自動車が増えていったときに、本当に暮らしていた時に、競争力ということを考えると、やっぱりひとつの大きなドライバーは電池になります。日産は世界で初めてリーフにリチウムイオン電池を載せましたけど、リチウムイオン自体もまだ進化しています。おそらくこの先10年以上はまだリチウムイオンが自動車の主流電池であることは変わりないと思っています。ただそこに、いずれ入れ替わるような、もしくはゲームチェンジを起こすような形で期待をしているのか全固体電池です。そこにゲームチェンジが起こさない限りはリチウムイオン電池でそのまま行けばいいわけで、やっぱりそれだけのポテンシャルがある全固体電池を作らなきゃいけないというように思います。
何をいっているかというと、リチウムイオン電池の場合は、中に液が入っている都合で±、正負極の材料が限られます。今でいうとNMC、ニッケルマンガンコバルトとグラファイト、もしくはシリコンが混ざる、そういう正負極の材料に限られますけど、全個体の一番いいところは、燃えないということがよくわかりますが、少なくとも今日産のリチウムイオン電池は燃えていないわけでありまして、そんなに大きな問題ではない。だけど、材料の選択肢が非常に広いので、ものすごいポテンシャルが期待できるということです。正極、負極の材料がいろいろ選べる。いろいろ選べるのでどれを使うのが一番いいかと考えるのが一番難しいところって、選んだ材料によっては作れないということもありますし、原理的には良いんだけれど電池にならないという材料もありますし、選んだわけだけどたいしてリチウムイオン電池に対してアドバンテージがない材料を選んでも無駄な苦労ということで、その辺の材料選択はきちんとして意味のある全個体とは何かということを、まさに今私の所ですけど、ひとつの大きな仕事としてやっています。
それからe-POWERの方ですけど、初期のe-POWERは既存のエンジンベースで作ってきましたが、e-POWERの最大のアドバンテージというのはエンジンを定点で動かせるというところが本当のアドバンテージになってくるんですけれども今はまだそれを使い切ったという状況ではありません。それを使い切って、もう少しパワートレインというかエンジン技術を入れていくと、大体効率50%くらいのところまでは行くだろうというロードマップは引けています。当然、市場に出していくので、それをお客さまに買っていただけるコストと信頼性ということで、今できましたとはいえませんけれど、技術として成立しそうなところは50%が見えているということで、まだまだe-POWERの効率というのは上がっていくだろうというように思っています。ですので、バッテリーEVもe-POWERも、まだまだこの先進化していくだろうと思っています。
電動駆動ということをやろうとすると、やっぱりクルマ屋ですので動力性能を上げたくなるわけですね。今日は午前中に追浜で試作のクルマに乗っていただいたと思いますけど、これも今まではシャシー制御ということで、ずっと、80年代90年代と、タイヤのトラクション、それからステア方向ですね。それからサスペンションを使って上下方向の荷重というのを含めて、タイヤの動かせる自由度というのをことごとくコントロールしてきたわけですけど、それを今全部統合する。しかも4輪駆動でEモーターでとなると、4輪独立で制御できるようになってくるわけでして、そのポテンシャルを制御したのが今日乗っていただいたクルマということになります。当然これは、電気自動車のひとつのあるべき価値のひとつというように思っていますので、ここを磨いてこの先出せるような形にしていきたいというふうに鋭意開発中です。
最後、インテリジェントインテグレーションになります。インテグレーションということでふたつ、大きな側面があります。ひとつはクルマの中で何をするのという話ですね。日産自動車はプロパイロットの宣伝で、矢沢永吉さんにこうやってやってもらっていますけど、この後矢沢さんは何をするんでしょうという話ですね。プシュっとやってプレモルを飲んでもらっちゃっ困るわけですね。そのために作っているわけじゃなくて、もっと他のことをクルマの中でしてほしいと思う。
じゃあ何をするのっていうので、ひとつのリソースが外からの情報ということになると思います。日産のクルマも今100%コネクテッドというのを目指して順次クルマを変えてきていますけど、コンテンツは何か、どういうコンテンツをどういうかたちで提供するのかというのがひとつです。それからもうひとつは、クルマがグリッドにつながる。先程の、EVがある量に達したときに社会の中でどういう意味を持つかというところがもうひとつ。加えてつながるという意味でいうと、ニューモビリティといっているイージーライダーのようなモビリティーサービスもつながってなんぼということになりますので、クルマがつながるという意味も様々だと思っています。
その中で今日は、日産コネクトという、外からも携帯で取れるサービスをそのままクルマで、シームレスに使えるというのは当然でありますけど、いかにクルマや、それからクルマを運転するという上で必要な情報を乗せていくというところがひとつ、大事なところかなと思っています。もうひとつは、それをどうやって、そうはいっても運転をしているので、運転をしているドライバーもしくは助手席、それから後席の人たちへどうやって伝えるかというと、HMIのところがもうひとつのポイントになります。
HMIでいいますと情報が増えますので当然ディスプレイは大きな方向に行きます。なので今日も横長の大きなディスプレイということで、その中でいかに情報を整理して伝えるかというのが最初のステップになると思います。その先には、中と外の情報をいかに使う、つなげるかということで、セミミックスドリアリティということで、自分のディスプレイと外の景色とがあたかもつながったような世界というものを想定しています。これも後で、技術として見ていただく予定にしています。
最後もうちょっと飛んだところで、クルマの中と、クルマの外にいる人たちとをどうやってバーチャルにつなげていくかという世界が、最後のInvisible-to-Visible、見えないものが見えるというコンセプトを去年のCESで発表しました。その時はゴーグルをかぶって、ARで見てもらいましたけど、実際にはゴーグルをかぶって運転していただくつもりはなくて、それをどういう形でクルマの中でHMIとして再現していくかということですね。考え方は、外にいるサービス、自分のパートナー、家族とバーチャルにクルマの中でつながっていくという世界をどうやって実現していくかというような、プラットフォーム的な考え方になりますけど、そこにもあるHMIというのが今いろいろ考えているところであります。
これは最後になりますけど、エネルギーとつながるという意味でいいますと、今リーフトゥホームという形で既に過去、スタートしていますけど、家とつながって、次はビルとつながって、最後はグリッドとつながるというステップへ進んでいくというふうにすると、ここに書いてありますVehicle to Building、V2Bという形で実証実験を始めました。
2018年の12月からスタートしていますけど、NTT西日本さんと組んで、何をやっているかというと再生可能エネルギー、基本的には太陽光パネルを持ったビル、その発電したエネルギーはそのビルの中で自己消費します。ただ、その電気を消費したビルに電気自動車がつながった状態で、発電量とビルのエネルギー消費量と、それから電気自動車の充電量、その3つをクラウドからコントロールして、一番CO2が少ない、一番コストが安い形で全体のエネルギーをコントロールするという実験です。これがうまくいけば、いろんなビルが同じような仕組みを持って、最後はそれが全体のグリッドにつながっていくというところが大きな将来の絵柄になるかなというように思って、その第一歩としてこういった実証実験を行っています。
私の話としては以上になります。ありがとうございました。
|
|
自動車業界の最新情報をお届けします!
Follow @MotorFanweb