アウディ:CO2ニュートラルな生産拠点の実現に向かって前進
- 2020/11/27
- Motor Fan illustrated編集部
アウディは、2025年までに全拠点をCO2ニュートラルにする計画を策定した。ブリュッセルとジェール工場は既に達成している。また、サプライチェーンのCO2プログラムでは、アルミニウム、スチール、バッテリーコンポーネントなど製造に大量のエネルギーを要する素材を削減する可能性を模索する。
アウディは昨年、世界中の拠点で約180万台の車両を生産(一汽フォルクスワーゲンオートモーティブカンパニーリミテッド長春が中国で現地生産した車両を含む)しており、製品の生産を可能な限り持続可能なものにすることが、非常に重要な目標となっている。
AUDI AGの生産およびロジスティクス担当取締役のペーター・ケスラー氏は次のように述べている。「車両ライフサイクルにおける排出量の大部分は、その利用段階で発生します。しかし、電気自動車の割合が増えるにつれ、これらの排出量に関する焦点は、次第に生産段階に移行しています。この点に関して、私たちは自動車メーカーとして、決定的に重要な責任を担っています。生産現場でカーボンニュートラルを達成し、この取り組みをサプライチェーンにも一貫して採用することで、より少ないカーボンフットプリントを達成した車両をお客様にお届けすることができるようになります」
アウディは、2015年を基準として、その製品のライフサイクル全体を通して、2025年までに車両固有のCO2排出量を30%削減するという野心的な目標を設定した。高度なテクノロジーが導入され、大量のエネルギーを必要とする車両の生産において、脱炭素化という目標には大きな困難が伴うが、アウディはすでに「クリーン」な生産という点で、2つのマイルストーンを達成している。
Audi e-tronシリーズを生産しているブリュッセル工場は、認証機関により「CO2ニュートラルな工場」に正式に認定されている。CO2ニュートラルな生産をサポートする主な活動としては、グリーン電力への転換と大規模な太陽光発電システム(10万7,000㎡)の設置、再生可能エネルギー(バイオガス証明書を取得)を使用した拠点への熱供給、そして現時点においてどうしても避けられない排出量に関しては、認定されたカーボンクレジットプロジェクトによって相殺することなどが挙げられる。これらの3つの柱は、(他の対策を伴いながら)、地域による違いはあるものの、他の拠点の脱炭素化を実現するための青写真にもなっている。
屋上太陽光発電システムが年間9.5ギガワット時のエネルギーを生成
最近、アウディにおける2番目のCO2ニュートラルな工場になったハンガリーのジェール工場では、2012年以来、その地理的な条件を活かし、必要な熱の約70%を地熱エネルギーによってまかなっている。これにより、アウディハンガリアは、産業用地熱エネルギーの主要なユーザーとなっている。必要な熱の残りの30%は、バイオガス証明書によってCO2ニュートラルであることが保証された天然ガスによって生成されている。
そして、16万㎡の屋上太陽光発電システム(このタイプではヨーロッパ最大)の試運転を開始したことにより、アウディのジュール工場もカーボンニュートラルなフットプリントを達成した。サッカー場約22面に相当する面積に設置された3万6,400ピースの太陽電池は、年間9.5ギガワット時のエネルギーを生成することにより、年間4,900トンのCO2を削減することができる。
アウディグループ最高環境責任者のリュディガー・レクナゲル氏は次のように述べている。「私たちは、各拠点の環境フットプリントを改善し、2025年までにすべてのアウディの拠点において環境バランスシートをCO2ニュートラルにする目標を達成するために継続的に取り組んでいます。現時点で、私たちは、残りの拠点、すなわちインゴルシュタット、ネッカーズルム、メキシコのサンホセチアパスで既に対策を実施しており、対策前と比較して、70~75%のCO2排出量を削減しています」
気候に中立な鉄道輸送とLNGトラックを使用したロジスティクス
工場の外においても、アウディは長年にわたって、環境保護に取り組んできた。
例えば2010年以来、アウディは車両の輸送に環境に優しい鉄道輸送を使用、インゴルシュタットの工場からは「グリーントレイン」と呼ばれる鉄道が、北海のエムデン港まで車両を輸送している。2012年には、アウディのネッカーズルム工場からエムデンへの輸送も「グリーントレイン」に切り替えられた。
2017年以降、鉄道を使用したロジスティクスは、ドイツ鉄道によってほぼ気候に中立な方法で行われてきた。ドイツ鉄道は、DB Cargo(ドイツ鉄道貨物)の「DB eco plus」と呼ばれる環境に優しい車両に切り替えることで、年間1万3,000トン以上のCO2を削減している。これまでに、アウディハンガリアは、DB Cargoとともに、コンポーネント、エンジン、車両の鉄道輸送においてCO2ニュートラルを達成した。
さらにアウディは、2019年以来、ハンガリーとベルギーにおいて、ドイツ国外での輸送で発生するCO2排出量も相殺している。インゴルシュタットの拠点では2台のハイブリッド機関車が使用され、ネッカーズルムの拠点では、電気モーターを搭載した鉄道用トレーラーとCNG(圧縮天然ガス)大型トレーラーによる相互運転が行われている。鉄道輸送が不可能な場合は、気候にやさしい代替手段を使用している。最近では、ネッカーズルムの一部のロジスティックスは、環境に配慮したLNG(液化天然ガス)エンジンを搭載した2台のトラックを利用し、ディーゼルエンジンを搭載したトラックと比較して、CO2を最大20%、窒素酸化物を80%削減している。年末には、3台目のLNGトラックが追加される。ブリュッセルの拠点でも、2018年からLNGトラックを使用している。LNGは、今後、完全なバイオ燃料をベースにしたものに転換していく予定。これにより、ディーゼルエンジンと比較して、1回の輸送あたり90%のCO2を節約できる。
サプライヤーとアウディは共同で重要なCO2削減可能性を特定
資源を注意深く慎重に使用することで、素材を節約することができるだけでなく、新しい素材の生産に必要となるエネルギー消費量も削減することができる。調達戦略担当シニアディレクターのマルコ・フィリッピ氏は次のようにコメントしている。「資源の効率的な利用は、生産段階でのCO2排出量を削減するための重要な鍵です。そのため、私たちは、特に製造に大量のエネルギーを必要とする素材や、大量の素材が必要なコンポーネントに対して、“ホットスポットベース”と呼ばれるアプローチを採用しています」
特にバッテリーの製造工程ではエネルギーを大量に消費するため、電気自動車への移行により、サプライチェーンに起因するCO2排出量の割合が増加する。アウディでは、予測されたフリート平均に基づき、2025年までにすべてのCO2排出量のほぼ4分の1がここで発生すると予想。従って、アウディは、サプライヤーとともに、初期の製造段階における効果的な対策に重点的に取り組んでいる。
アウディは、2018年の初頭に、サプライヤーと協力して、CO2排出量をさらに削減するための対策を特定するため、サプライチェーンにおけるCO2プログラムを開始した。CO2削減の主な対策としては、循環型素材ループの構築、二次素材の使用の累進的な増加、リサイクル素材の利用(例えば、プラスチック部品の再利用、グリーン電力の使用)などが挙げられる。これらの対策も、2025年までには完全に実行に移される予定で、その場合、車両1台あたり平均1.2トンのCO2を削減できる可能性がある。
「アルミニウムクローズドループ」リサイクルコンセプトによってCO2の排出を回避
前記の3つの例は、CO2削減の可能性を示すものだ。アウディは、プレス工場に「アルミニウムクローズドループ」を導入したことにより、2019年のカーボンフットプリントは15万トン削減された。アウディは軽量デザインのパイオニアであり、1990年代からアルミニウムを使用している。リサイクルされた二次アルミニウムを使用することにより、一次アルミニウムを使用する場合と比較して、最大95%のエネルギーを節約することができる。
「アルミニウムクローズドループ」は現在、インゴルシュタットとネッカーズルムで実施されており、2021年からジェール工場にも導入される。現在、二次アルミニウムは、Audi A3、A4、A5、A6、A7、A8のボディの一部に加えて、Audi e-tronおよびAudi e-tron Sportbackのボディにも使用されている。2020年末から、二次アルミニウムは、ネッカーズルム工場で生産されるAudi e-tron GTにも使用。さらに追加のモデルおよび工場にも導入される予定だ。
アウディはプラスチックのケミカルリサイクルのための試験プロジェクトを開始
CO2削減における2番目の例は、アウディが開始した試験プロジェクト。アウディは、カールスルーエ工科大学(KIT)と共同で、自動車用プラスチックのケミカルリサイクルの実用化に取り組んでいる。この方法により、安全性、耐熱性、品質要件が厳しい自動車開発で使用されている混合プラスチックを、車両のプラスチック部品の製造に使用することのできる、「熱分解油」と呼ばれる物質にリサイクルすることが可能。将来的にこの技術は、機械的リサイクルに代わる環境に優しい技術になる可能性を秘める。
「IN-Campus」はリソースを効率的に使用する完璧な例
リソースを効率的に使用するもう一つの例が「IN-Campus」である。これは、インゴルシュタット市との合弁事業で、AUDI AGは、バイエルノイル石油精製所の跡地を、環境に優しい複合施設へと再生している。
両パートナーは、新しい「グリーンフィールド」(更地)に別の工場を建設するのではなく、最新技術を導入しながら、以前の製油所を環境要件に準拠して新たな土地へと再生することによって、製油所によって損なわれた自然を取り戻す活動を行っている。75ヘクタールの面積を持つ「IN-Campus」は、ドイツ最大の再生プロジェクトの1つで、総面積の15ヘクタール分については、大気中のCO2を吸収するために緑地にする計画だ。プロジェクトは、2022年までに完了する予定。
レクナゲル氏は次のように説明している。「私たちは、このバイエルン州の石油精製所を、環境に配慮した形で完全に再生する活動に従事していることを、大変誇りに思っています。そうすることで、私たちは社会と自然の両方に貢献しています。これもリソースの効率的な使用の例と言えるでしょう。この場合のリソースとは、土地を意味しています」
このサイトに将来的に建設される建物は、高度な持続可能性の要件に準拠する予定だ。
インゴルシュタットの「IN-Campus」は、商業地域に適用されるDGNBサステナビリティ認証を既に取得している。将来的には、フォルクスワーゲングループの「Car.Software」組織の拠点の一つもここに置かれる予定。このソフトウェア開発組織は、グループ内のすべてのブランド向けに標準化されたソフトウェア アーキテクチャを開発するとともに、デジタルエコシステムを構築し、顧客向けの便利な機能も開発している。
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