Vストローム250 ABS 1000kmガチ試乗2/3|コイツは、スルメのようなバイクである。
- 2021/07/19
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中村友彦
バイクの真価は、いろいろな場面で長く乗ってみないとわからない。もちろん世の中には、短時間で素性が理解できるモデルも存在するのだが、Vストローム250は乗れば乗るほど味が出て来る、スルメのようなバイクなのである。
REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)
スズキVストローム250 ABS……61万3800円
■実用的にして、自然で素直な特性だが……
改めて第1回目を読み直したら、何だか抽象的な話に終始していた気がするので、今回はいわゆるインプレからお届けしたい。まずはマシンに跨る際の印象を記すと、重心が適度に高く、車重が250ccとしては重めの189kgなので、サイドスタンドを払って直立させるときはそれなりの手応えを感じるものの、シートが低いおかげで、跨ってからは不安や御しづらさは感じない。そして実際に走り始めると、第1回目でも述べたように、エンジンのパンチやメリハリはいまひとつ……。ただし、基本設計の多くを共有する兄弟車のGSX250R(車重は181kg)の場合は、低中回転域がトルクフルと感じるので、その印象はエンジンではなく、1台をトータルで見た際の話と言うべきなのだろう。
一方の車体は、至って自然で素直だ。グイグイ曲がるとか、トラクションがビンビン伝わるという感触はないし、ブレーキタッチやサスペンションの動きは極上と言うレベルではないけれど、どんなライダーでも初乗りの段階から違和感を持つことなく、ごく普通に走れそう。そのあたりを把握した僕は、GSR250の基本設計を転用しつつも、重量配分や車格が異なるこのバイクで、よくぞここまで上手くまとめたものだと思ったのだが(しかもスポーツ指向のGSX250Rと同時開発)、よくよく考えるとVストローム250の車体は、巨大なハーフカウル仕様のGSR250Sに通じるところがあるから、スズキとしてはそんなに難しい作業ではなかったのかもしれない。
続いては高速道路の話で、一定開度・一定速度を維持してのロングランはなかなか快適。車体は速度の上昇に伴って安定性が増してくる感があるし、スクリーン+カウルは必要にして十分な防風効果を発揮してくれるから、法定速度+αの巡航は余裕でこなせる。ちなみにトップ6速での回転数は、100km/h:7500rpm、120km/h:9000rpmと、結構高いのだが、振動が程よく抑えられているから、実際の巡航中に不快感はまったくなかった。
では一部の好事家が気になる、未舗装路でのフィーリングはどうかと言うと……。これは残念ながら、厳しいと言わざるを得ない。フラットダートなら普通に走れるし、シートが低くて足つき性が良好なおかげで、多少のガレ場は通過できるけれど、気合いを入れてプッシュを始めたり、ヌタヌタ路面に遭遇したりすると、オフロードの腕前がいまひとつの僕の場合は、にっちもさっちも行かなくなる。まあでも、このバイクの純正タイヤはGSR250やGSX250Rと同じIRCのRX-01なのだから、そもそも悪路走破性に期待するべきではないのだろう。
なおVストローム250のタイヤはF:110/70-17・R:140/70-17で、このサイズに適合するオフロード指向の製品は存在しない。とはいえ、F:120/70R17・R:130/80R17、130/80-17になることをヨシとするなら(前後ホイールのリム幅は許容範囲)、悪路を視野に入れたオン&オフタイヤ、ミシュラン・アナキーアドベンチャーやシンコーE705などを装着することが可能だ。
■走行開始から8時間経過後に、印象が大きく変化
さて、ここからは約500kmのロングツーリングに使っての感想である。オーナーが読んでいたら気を悪くすると思うけれど、朝5時に自宅を出て、午後1時に昼食を取った段階での僕は、正直言ってこのバイクに大きな魅力は感じなかった。どんな状況もソツなくこなせるし、不満は特にないのだが、何かこう、自分自身の気持ちがいまひとつ盛り上がって来ないのである。
まあでも、そういった気持ちになるのは、ライダーの趣向の問題なのだろう。と言うのも、僕がバイクで最も重視するのは、“操る楽しさ”なのだ。具体的には、どうやったらコーナーを上手くクリアできるか、どうやったらエンジンのオイシイ領域を使えるか、などということを考えながら、ワインディングロードを走ることがバイクの醍醐味だと考えている。でもVストローム250は、そういったライディングプレジャー的な部分ではなく、過程より結果という感じで、キャンプ場や名所など、目的地に安全かつ安心して到着することを重視したバイクなのだと思う。見方によってライディングプレジャーは、場合によっては疲労につながることがあるし……。
そんなわけで、世間の評価はさておき、僕の好みではないと感じたVストローム250だが、走行開始から8時間が経過した午後1時以降は、徐々に意識が変わり始めた。最初に変化が起きたのは車体、と言うか、ハンドリングの印象だ。前述したようにこのバイクのハンドリングに、コレといった主張や個性はなく、僕はそのことに物足りなさを感じていたのだけれど、心身が疲れて来ると主張や個性がないこと、バイクからの要求に合わせる必要がないことが、ありがたく思えて来る。ツアラーとして見るなら、これはこれでひとつの正解だろう。
そして車体以上に意識が変わったのはエンジンだ。またまた前述したように、Vストローム250の並列2気筒にパンチやメリハリないものの、心身が疲れて来ると、どこからどうアクセルを開けても実直な反応を見せてくれる特性が安心材料になるし、太いとか厚いとは思えなくても、低中速トルクは十二分であることに気づかされる。興味深かったのは、エンジンの守備範囲の広さ、粘り強さによるギアチェンジの少なさで、おそらく、1日トータルでの回数は、一般的な250ccの半分以下で済むんじゃないだろうか。もちろん、その事実は疲労軽減につながるに違いない。また、当初は味気なくて黒子的と思えたエンジンに、鼓動感的なモノが感じられるようになったことも、僕にとっては意外にして大きな収穫だった。
■カスタムの可能性と兄貴分へのステップアップ
こうした経緯を経て、Vストローム250に親近感を抱くことになった僕だが、自分がオーナーになったとしたら、やっぱりもう少し主張や個性が欲しいので、エンジンの存在感を増す排気系の交換や、ハンドリングの軽快化(と下半身のゆとり)が期待できるシート座面の肉厚化などを行いそうな気がする。さらに言うなら、前後タイヤやリアショックをアフターマーケット製に交換することで、自分好みの乗り味を追求するのも面白そうだ。
なおVストローム250に限った話ではないものの、今どきの400cc以下のアドベンチャーツアラーには、ミドルとリッターの兄貴分が存在し、もちろんメーカーとしては、多くのライダーにステップアップして欲しいと考えている。ただしVストロームに関しては、250から650、あるいは1050への乗り換えは、ちょっと難しそうだと僕は思った。と言っても、乗り味の上質さやわかりやすいライディグプレジャーでは、650と1050のほうが優勢なのだ。でも250の実直さと扱いやすさ、日本の道路との相性のよさを知ってしまうと、高速をバビューンと走ってイッキに遠くまで、という使い方をするライダー以外は、兄貴分にはなかなか目が向かないような気がする。
※近日中に掲載予定の第3回目では、筆者独自の視点で各部の解説を行う予定です。
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