ツーリングに使ってわかった天国と地獄|CBR1000RR-R SP 1000kmガチ試乗②
- 2020/07/11
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中村友彦
マイペースで快走路を走った午前は最高に楽しかったものの、悪路や渋滞路に足を踏み入れた午後になると、印象が徐々に悪化。CBR1000RR-Rで約500kmのツーリングに出かけた僕は、非常にわかりやすい形で、天国と地獄を味わうことになった。改めて考えると、ホンダがここまで落差が激しいバイクを作るのは、近年では異例のことかもしれない。
REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)
パニガーレV4やRSV4と同じジャンル
基本的に僕はツーリング大好き人間で、どんなモデルに乗るときも、できるだけ多くの距離を走りたいと思っている。と言っても実際には、諸般の事情で数時間しか試乗できないケースは多々あるのだが、丸一日以上の時間をかけてじっくり付き合うことで、短時間の試乗とは異なる印象を持つことは少なくない。だからこそ当企画では、1000kmをひとつの目標にしているのだ。
ただし、第1回目で紹介した約200kmのプチツーリングの後に、市街地の移動にCBR1000RR-Rを使った僕は、撮影を兼ねた約500kmのロングツーリングに出かけることが、おっくうになっていた。その原因は、一般公道に適していないライディングポジションと、いまひとつ面白味を感じない低中回転低中速域の乗り味である。せめてエンジンがYZF-R1やパニガーレV4、RSV4のような不等間隔爆発だったら、多少なりとも面白さが感じられるのだけれど、等間隔爆発で排気バルブが堅実な仕事をするRR-Rの低中回転域は、粛々と回っているだけだからなあ……。
以下はあくまでも私見だが、僕は近年のリッターSSのロングツーリング適応力を、①あまり使いたくない:パニガーレV4、RSV4、②使えないことはない:YZF-R1、ZX-10R、③それなりに使える:S1000RR、GSX-R1000、という3種に分類している。そして先代のCBR1000RRは、③の中でもトップと言いたくなるほど、ロングツーリングに適していたのだが、RR-Rは①の仲間入りを果たしてしまったのである。だから先代のオーナーがRR-Rに乗り換えたら、後悔する可能性は十分にあると思う。
最高の爽快感が味わえた午前
そんなわけで、ブルーな気持ちで臨んだRR-Rでのロングツーリングだが、朝4時に自宅を出発し、ひと通りの撮影が終わった13時頃の僕は、予想外の上機嫌になっていた。その背景には、単純RR-Rのキャラクターに慣れたという事実があるのかもしれない。でもマイペースで約250kmを走った、この日の午前中の僕は、RR-Rの資質にすっかり魅了されてしまったのである。
どこからどう語るべきかで迷うものの、このバイクの美点として、筆頭に挙げたいのはシャシーだ。リッターSSのシャシーと言ったら、世の中では軽快やシャープというイメージを持つ人が多そうだけれど、RR-Rは重さを感じないギリギリのレベルで安定指向という感触で、ライディング中の乗り手はマシンに全幅の信頼感を抱きながら、いろいろなラインやブレーキングを試したくなる。誤解を恐れずに言うなら、RR-Rのハンドリングは非常に自由度が高くて、その特性は誰かと競い合うような場面だけではなく、事情を把握していないワインディングロードを走るときにも、有効な武器になるのだ。
もちろんそういった印象には、トラクション/ウイリーコントロールやセミアクティブ式の前後サス、ABS、HESD(Honda Electric Steering Damper)といった、多種多様な電子デバイスも貢献しているに違いない。ただし、実際の走行中に電子デバイスの介入に違和感を覚えることは皆無で、このバイクはすべての挙動がナチュラル。その証明……という表現ではちょっと語弊があるけれど、ライディングモードを最も穏やかな3にすれば、RR-Rは雨天走行も結構快適で、ウェット路面でもそれなりにスポーツライディング楽しめる。なおライディングモードに関しては、状況に応じて1~3を使い分けた僕だが、セミアクティブサスの設定は、途中からレインモードのA3を常用。また、アップとダウンの両方に対応するクイックシフターは、速さに貢献するだけではなく、ツーリングでの疲労軽減にも大いに役立つと思えた。
続いてはエンジンに関する話。第1回目に記した暴力的という言葉と矛盾するようだが、RR-Rが搭載する並列4気筒の高回転域は、意外なほど扱いやすかった。他社のリッターSSの中には、速度の上昇と共に恐怖感が増して、右手に力を込めづらくなる車両が存在するものの、RR-Rのエンジンはどんなに回しても、いい意味で“想定内”という感触で、ライダーを裏切る気配を見せない。もちろん僕がそう感じた背景には、前述したシャシーの安定感があるとは思う。でも環境的に許されるなら、このエンジンは10,000rpm以上が常用できてしまうのだ(レッドゾーンは14,500rpmから)。ちなみに、そうやって走ったときのズ太い排気音は、レーシングマシンを思わせるほどの迫力。この種のバイクのオーナーは、本来の資質を解き放つことを目的として、マフラー交換を考える人が多いけれど、ホンダとアクラポビッチが共同開発した純正品の性能を超えるのは、相当に難しいんじゃないだろうか。おそらく今現在は世界中のマフラーメーカーが、RR-R用の開発で大いに頭を悩ませていることだろう。
苦痛に耐えながら走り続けた午後
昼食を終えてマシンに跨ったとき、このまま高速道路をバビューンと走ってイッキに帰れたら最高なのに……と僕は思った。とはいえ、少々マゾっ気のある僕は、以後は快適なワインディングロードだけではなく、荒れた路面のチマチマした県道や舗装林道、夕方の通勤時間帯の幹線道路なども走行。そして19時過ぎに帰宅した頃は、ものすごい仕事をやり切った気分になって、しばらくはRR-Rに触れたくないと感じた。その理由としては、渋滞路で右太股近辺に感じた猛烈な熱気もあるのだけれど、一番はやっぱりライディングポジションだ。
ただし、午前中の僕はRR-Rのライポジに好感を抱いていたのである。中でも最も感心したのは、ホールド感に優れるガンソリンタンクの形状だが、フロントまわりの状況を緻密に伝えてくれるハンドルと、暴力的な加速に対抗できるステップ位置も、スポーツライディングにはベストだった。とはいえ、走行時間が長くなると同時にマイペースを維持しづらい状況だと、やっぱり手首と首の付け根、尻、膝などが痛くなってくるのだ。そのあたりを再認識した僕は、グリップ位置が数cm高くなるハンドルと、バー位置が前方かつ下方に数cm移動するステップを夢想。おそらくそれだけで、RR-Rは先代に通じる快適性……とまではいかなくても、冒頭で述べた②に該当する、ロングツーリング適応力を獲得できるだろう。とはいえ、そんなことはホンダの技術者だってわかっているのである。わかっているのに、あえてレーシーなライディングポジションを採用したのだから、現状の乗車姿勢に異論を述べるべきではないのかもしれない。
第1回目で述べたように、RR-Rはサーキット指向のライダーのために開発されたバイクである。でもトータルで約1000kmに及んだ今回の試乗を通して、ワインディングロードが主体で、渋滞を避けた半日程度のツーリングに使うなら、サーキットを走らないライダーでもアリかも?という気がして来た。ただし、僕がRR-Rのオーナーになったら、開発陣の皆様には大変申し訳ないけれど、本来の動力性能が味わえなくなるのを承知で、フォークの突き出し量を減らし、リアの車高を下げ、車体姿勢を前上がりにすると思う。それで好結果が得られなかったら、おそらく、ハンドルとステップに手を加えるだろう。
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