トヨタ、NTT:共同記者会見
- 2020/03/25
- Motor Fan illustrated編集部
NTTとの協業に際した豊田社長スピーチ
豊田でございます。
皆さんご承知の通り、自動車産業は、「CASE革命」によって、クルマの概念そのものが変わるとともに、人々の暮らしを支えるあらゆるモノ、サービスが情報でつながっていく時代に突入しております。つまり、私たちのビジネスを考える上でも、クルマ単体ではなく、クルマを含めた街全体、社会全体という大きな視野で考えること、「コネクティッド・シティ」という発想が必要となっております。
こうした中で、今回、NTTと新たな協業を取り組ませていただくことになりました。私からは、トヨタがNTTと提携する理由を、私たちが直面しているふたつの変化の観点からご説明させていただきます。
トヨタが生まれ変わるためのふたつの大きな変化
ソフトウェア・ファーストのモノづくり
ひとつは、トヨタ自身が対応していくべきものとして、モノづくりにおけるソフトウェアの位置づけの変化があります。
従来の商品開発は、ハードとソフトの一体開発が基本でした。しかし、ソフトの進化のスピードがハードを上回る状況が出てまいりますと、一体開発では、商品の性能や価値向上が、進化の遅いハードの制約を受けるという課題が顕在化してまいりました。そこで近年、開発の自由度確保と商品力向上のため、ハードとソフトを分離し、ソフトを先行して開発・実装する「ソフトウェア・ファースト」の考え方が広がっております。この成功例がスマートフォンです。スマートフォンの大きなモデルチェンジは、画面の大型化や超高精細有機EL画面の登場、折りたためる画面など、新しいハード技術の採用のタイミングで行われます。しかし、スマホでは、そのタイミングを待たずに、同じハードでもOSやアプリの更新で新しい機能を拡張していけるのです。
これをクルマづくりに当てはめますと、フルモデルチェンジは、ハードを更新するタイミングでクルマを買い替えていただきその価値をお届けすること。マイナーチェンジなどその他の改良は、ソフトを更新するタイミングでハードはそのままに新しい機能・価値をご提供することとなります。分かりやすいのは、ソフトとデータがカギを握る、高度運転支援機能など先進技術です。ベースのソフトを先に実装しておき、リアルライフでデータを集めながらAIをレベルアップせ、ある段階でアップデートとして機能を追加する。そんなことができるようになります。クルマのマイナーチェンジがソフトウェアのアップデートという概念に変わってくれば、トヨタが持つハードの強みがさらに活きてくると思います。
トヨタのハードには3つの強みがあると考えております。ひとつは耐久性の良さであるDurability。次に交換部品の手の入りやすさを意味するParts Availability。最後に、修理のしやすさであるRepairabilityです。ソフトが都度、最新のものになり、ハードをより長期間使用することになれば、この3つの強みがより発揮されることになります。実際、協業相手のMaaS事業者はトヨタのこの3つの強みを評価して、トヨタのクルマを選んでくれております。
ハードの強みを活かして、ソフトウェア・ファーストの考え方も取り込んでいくことで、トヨタのクルマづくりを次のフェーズに変革することが可能になると考えております。
社会システムの一部としてのクルマ
もうひとつは、トヨタだけでは対応することができないもの。クルマの役割の変化です。
今から約10年前の2011年の東京モーターショーでトヨタは「Fun-Vii(ファン・ビー)」というコンセプトカーを出展いたしました。この時に私は「スマホにタイヤを4つ付けたらこういうクルマになった」と申し上げました。「走る・曲がる・止まる」に、「つながる」機能を加えるとクルマは新しい価値を生み出せると考えておりました。
それから7年後、2018年1月のCESで「e-Palette」を発表いたしました。e-Paletteは、TRIやトヨタコネクティッドというソフトウェアのエンジニアたちがクルマを作ればどうなるかという新たな試みでした。その次にe-Paletteを走らせるための道が必要だと考えて、生まれた発想が「Woven City」です。
トヨタにとってWoven Cityとは、モノの見方・考え方を180度変えていくことを意味しております。クルマや住宅が先にあって、それをつなげていくという従来の発想から、上位概念は人々が暮らす「街」であり、そこにクルマや住宅をつなげていくという発想に転換する、そのために仕事のやり方を大きく変革するということだと思っております。これが、トヨタも「街のプラットフォーム」づくりに取り組む理由です。
つながる化、IOT化によって、クルマは「個人の所有物」、「移動手段」にとどまらず、社会システムの構成要素の一つとなり、果たすべき役割が変わってきております。例えば有事の際は非常電源になり、ハザードマップなど、センサーを通じて社会に役立つ情報を提供できる。様々な可能性が生まれております。それゆえにクルマの進化は社会の進化と密接な関係をもつことになります。
私は社会システムに組み込まれたクルマを最も上手に活用いただけるパートナーがNTTだと思っております。なぜならば、NTTの事業は社会づくりそのものに直結しているからです。社会を構成する様々なインフラはNTTが提供する情報インフラに支えられております。人間の体に例えると、クルマや家は「筋肉」「骨」、通信は情報という血液を流す「血管」であり、その中でもNTTは「大動脈」として、毛細血管に至るまでの血液循環を支え、体全体を動かしているのだと思います。言い換えると、NTTは社会システムの根幹を担っているのです。
このように、ソフトウェア・ファーストのクルマづくりを実現し、「街」という社会システムと結びついたクルマの未来をつくっていくこと。これを会社規模で行うことが、私の言う「自動車をつくる会社」から「モビリティ・カンパニー」、すなわちモビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社にフルモデルチェンジするということであります。
企業グループのフルモデルチェンジにおいてもNTTは先駆者です。NTTはすでに会社規模でハードとソフトの分離を実行してこられました。当初、電話回線はアナログ通信であり、通信の切り替えは機械式接点による交換機だったと伺っております。その後通信のデジタル化とともに交換機がルータに置き変わり、ソフトで通信の制御を行うようになっていきました。さらに携帯電話により、場所を選ばずどこでもつながる社会が実現され、通信は「通話」という機能を超えて、新しいデータサービスやビジネスを生む基盤となりました。
そこで、NTTはグループ全体の事業構造をハード主体からソフト主体にフルモデルチェンジし、NTTコミュニケーションズやNTTデータなどの通信基盤・情報処理基盤の構築や、その上でのソフト事業を担う会社をつくり、データサービスやソリューションまで幅広く取り組む「総合情報通信企業」として、イノベーションの加速に取り組んでこられました。現在は、スマートシティやIOWN(アイオン)構想など、将来の街づくりの実証や先端研究でも世界の先頭を走っておられます。
「ソフトの位置づけの変化」と「クルマの役割の変化」というふたつの変化に対応し、「モビリティ・カンパニー」へとフルモデルチェンジしていくために、NTTとの提携は必要不可欠であり、ある種、必然であったとすら思っております。そして、私たちは、更なる仲間を求めていくことになると思います。この提携のベースにあるのは「オープンマインド」です。多くの仲間と共に「未来をもっと良くしたい」。それは両社共通の想いです。
トヨタの原点は「すべての人に幸せを」
最後に、今回の提携の根底にある私の想いをお話ししたいと思います。
このグラフをご覧ください。平成の30年間の一世帯あたりの支出を見ると、支出総額は増えていないものの、「交通・通信」の項目が約30年前の10%から15%に増えております。いみじくも家計調査では両者が同じ分類になっておりますが、この間ピークを迎えた日本の自動車市場に対して、大幅に増えているのは「通信」です。これは、人々が「クルマ」以上に「通信」を必要不可欠なものだと考えているということ。もっというと、「通信」が人々の「幸せ」につながっているということです。
かつては、クルマがその役割を担っていたと思います。
このグラフを見て、もう一度、クルマが頑張らないといけない、日本の基幹産業であり、成長産業だというならば、もっと人々に「幸せ」を与える存在にならなければいけないということを痛感いたしました。
こちらの円錐形をご覧ください。これは1955年にトヨタ自動車工業が発行した「トヨタ」と題した冊子にあったものです。「トヨタとは」というタイトルとともにこの円錐形が記載されていました。一番上には、「佐吉翁の遺志」とあります。これは「豊田綱領」のことであり、その中には「産業報国」の精神があります。織機から自動車にフルモデルチェンジを果たし、現在に至るまで、トヨタの根底にあるのは「社会や国を豊かにすることに貢献したい」という強い想いです。
未来の社会づくりには大きなエネルギーが必要になります。先を見通すことが難しい大変革の時代、回答のない時代だからこそ、「お国のために」という意志を持ち、未来を創造する技術力と人間力を持った民間企業が決起することが大切だと考えております。
NTTとトヨタが、日本を背負うという気概を持ち、多くの仲間を巻き込みながら、人々の豊かな暮らしを支えるプラットフォームを作ることができれば、社会のお役に立つことはもちろん、世界における日本のプレゼンスを高めることにもつながっていく。そう信じております。そして、「佐吉翁の遺志」とともに、「前社長の理想」、「国産大衆車の製造」とあります。クルマも昔は高嶺の花でした。トヨタは、それを誰もが手に入れられる、誰もが運転できるものにしてまいりました。電話も同じです。一家に一台の電話も当然ではなかった時代を経て、今は、先進国・新興国を問わず、ひとり一台スマホなどの通信手段を持つことが当たり前の時代になりました。「大衆車」という言葉に込められているのは「量産」ということであり、「すべての人に幸せをお届けする」ということです。トヨタもNTTも日本に根差したグローバル企業です。「すべての人」と言う時、それは、グローバルに展開することを意味します。そして、両社が描く未来の真ん中には「人」がいます。「笑顔」の人がいます。「ヒューマンコネクティッド」。それが私たちの目指す未来社会です。
澤田社長と初めてお会いした際も、実直なお人柄、人間を大切にされる姿勢を実感いたしました。私は素直に「この方に頼りたい」と思いました。トヨタの原点は「すべての人に幸せをお届けする」ことです。私は、そのためにNTTと提携をさせていただくのだと思っております。そしてそれは、日本が世界のためにお役に立てることでもあると思います。私たちが取り組む未来にご支援賜りますよう、よろしくお願いいたします。
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