街乗りはなかなか厳しかったけれど……。|CBR1000RR-R SP 1000kmガチ試乗①
- 2020/07/09
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中村友彦
一般公道での乗り味を語ることに、果たして、意味はあるんだろうか? 車名のRが1つ増えた新世代のファイアブレード、CBR1000RR-Rを体験した僕は、思わず、そんなことを考えてしまった。ただし、どんなにサーキットに特化したキャラクターでも、このバイクには保安部品が付いているのだ。となれば、市街地走行やツーリングでの印象を語ることに、意味がなくはない……だろう。そんなわけで、一般公道における新世代RR-Rの素性を探るべく、約1000kmの距離を乗り込んでみることにした。
REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)
ホンダCBR1000RR-R SP……278万3000円
先代とはまったく異なる、本気の市販レーサー
ホンダ自身が製作したCBR1000RR-Rの広告や紹介記事を見て、僕が興味を惹かれたのは、初代からのコンセプトであるTOTAL CONTROLの後ろに、for the Trackという文字が追加されたことと、写真や動画に使われる走行車両に、バックミラーやナンバープレートが付いていないことだった。先代のコンセプトがNEXT STAGE Total Controlで、広告や紹介記事では、サーキットの走行写真でも保安部品を装備していた事実を考えると、これは異例の事態だ。何と言っても既存のCBR1000RRは、レース用ホモロゲーションモデルでありながら、ストリートでの操る楽しさを追求、あるいは、ストリートでの操る楽しさに配慮していたのだから。逆に言うなら、保安部品を外して走る、Track=サーキットを重視した新世代のRR-Rは、先代までとは完全な別物なのだろう。
もっとも試乗前の僕は、“潜在能力はとんでもなく高そうだけれど、ホンダのことだから、たぶん誰でも普通に乗れちゃうんだろうな”と思っていた。と言うのも近年のCBR1000RRは、サーキットでの戦闘力がライバル勢にいまひとつ及ばない一方で、初心者でも乗れそうなほどフレンドリーだったし、街乗りやツーリングに気軽に使えたのである。でも新世代のRR-Rは、初心者や街乗りやツーリングをほとんど無視した、本気の市販レーサーだったのだ。
サーキット重視のライディングポジション
RR-Rと対面して、最初に驚いたのはライディングポジションである。シートは現代のリッターSSの平均的な高さだが、ハンドルは低くて幅広なうえに、タレ角がかなり強く、ステップはアフターマーケットのレース用を思わせるほど、高くて後ろ寄り。これはもう、完全なレーシングポジションじゃないか。近年のSSやレーサーに免疫がないライダーだったら、おそらく、シートに跨ってハンドルに手を添えた時点で、拒否反応を示すだろう。
ただし実際に市街地を走り始めると、RR-Rは意外に従順だった。先代+26psにして、200万円代のリッターSSではダントツのトップとなる、218psを発揮するエンジンは、低中回転域ではいかにもホンダと言いたくなる優しい回り方をするし、足まわりは超高荷重域を想定しているはずなのに、妙な硬さやシビアさは感じない。とはいえ、やっぱりライポジは低速走行にはまったく適していないので、混雑した市街地を1時間ほど走った後は、手首や首の後ろに痛みを感じることとなった。
まあでも、そのあたりに文句を言うのは野暮と言うものだろう。程度の違いはあっても、現代のリッタースーパースポーツで市街地を1時間走ったら、身体に痛みを感じることは珍しくないのだから。なおRR-Rで市街地を走っている最中、僕が唯一、ありがたいと感じたのは、オートキャンセル式ウインカーだった。肉体的にも心理的にも負担が多いリッターSSにとって、ウインカーの自動消灯は実に嬉しい機構である。と言っても、ドゥカティ・パニガーレV4は2018年、BMW S1000RRは2019年から、オートキャンセル式ウインカーを採用しているのだが、この要素を日本製リッターSSがようやく取り入れたことに、僕はそこはかとない安堵を覚えたのだ。
過給器装着車を思わせるほど、加速は暴力的!
ある程度のスピードが出れば、市街地で感じた問題は自然に解消されるに違いない。そんな思いを胸に抱いて乗り込んだ高速道路で、僕はまたしても驚くこととなった。何と言ったらいいのか、100km/h程度では全然スピードが足りないのである。頭や腕に走行風が当たることで、ライポジのツラさが多少は緩和されることを期待していたのだけれど、法定速度での巡航はべつに楽ではない。もちろん市街地と同様に、普通に走れると言えば走れるものの、おそらくこのバイクの高速巡航でバランスが取れる、と言うか、しっくり来るのは、150km/hあたりからではないかと思う。
ライポジとは違った意味で、高速道路で驚いたのは、暴力的な加速だ。市街地でその片鱗は感じていたけれど、6000rpm近辺からの吹け上がりスピードとパワフルさは、過給器装着車を思わせるほどで、間違いなく日本製リッターSSではナンバー1。ここ最近は先行を許していたBMW S1000RR、排気量が1100ccのドゥカティ・パニガーレV4やアプリリアRSV4ファクトリーにも、完全に追いつき、見方によっては追い越したと思う。なお加速については、ロング気味の2次減速比(某誌のテストでは、4速で299km/hをマーク)をショートに、具体的にはリアスプロケットを1~2T大きくすれば、ライバル勢に対してさらなる優位を築けたはずだ。ホンダがそうしなかった背景には、騒音規制という事情があるような気はするが、もしかしたら開発陣はギリギリのところで、一般的なライダーと一般的な使い方に配慮したのかもしれない。サーキット指向のライダーの場合は、コースに応じて2次減速比は変更するのだから、ノーマルはちょっと穏やかな設定にしておこうという感じで。
高回転域を常用すれば、峠道では水を得た魚
ワインディングロードを走り始めて約20分が経過した頃、僕はかなり困惑していた。大小のコーナーが続く場面なら、RR-Rは水を得た魚になると思っていたのに、どうにも気分が盛り上がらない。決して扱いづらいわけではないものの、スポーツライディングをしているのではなく、ただ単に移動しているという感触で、バイクと乗り手が何らかのやり取りをしている、あるいは、バイクが乗り手に何かを教えてくれる気配が希薄なのである。
とはいえ、それは僕自身の意識と乗り方の問題だった。高速道路で感じた暴力的な加速にビビった僕は、ワインディングロードでも低中回転域を使っていたのだが、そんな領域ではこのバイクは目覚めないのだ。逆に言うなら、意図的に高回転域を常用することで初めて、RR-Rは本来の運動性能の一端を披露してくれるのである。
実際に高回転域を維持して走るとなったら、たとえ1速でも、スピードはかなりのレベルになる。そういった状況で僕が感心したのは、何があっても転ばない、何があっても止まれる、何があっても曲がれる、と確信できることだった。まず直線でどんなに暴力的な加速をしようとも、コーナー進入時にブレーキをかければ、強烈な縦Gと共に、前後輪が路面にガッチリ食い付く制動感が堪能できるし(フロントだけを使っていても、極端に前下がりの姿勢にならない)、そこから車体を傾けていく際は、タイヤから地中に根っこが生えているかのような、極上の安心感が得られるので、自信を持ってイッキにフルバンクに持ち込める。そしてコーナーの立ち上がりでアクセルを開けた際に感じる、滑らかなパワーの伝わり方と前輪が浮きそうで浮かない感覚は、絶品!のひと言で、そのあたりを把握した僕は、以後は無心でスポーツライディングを満喫。こういった感触が、SBKやMotoGPレーサーに似ているかどうかは何とも言えないところだが、ワインディングロードでRR-Rの運動性能を認識した僕は、本気になったときのホンダの恐ろしさを、しみじみ痛感することとなった。
1980年代末のRC30とMC18に通じる資質
とりあえずの様子見として、約200kmのプチツーリングを終えた後、僕の頭にふと浮かんだのは、日本車の歴史を語るうえで欠かせないホンダのレーサーレプリカ、1987年型VFR750R/RC30と、1988年型NSR250R/MC18だった。などという表現をすると、1989年型以降のNSRオーナーや、1994年型以降のRVF/RC45マニア、2003年型以降のVTR1000SP-1/2好きからはお叱りを受けそうだが、僕自身はその3機種に試乗した際に、そんなに大きなインパクトは感じなかったのだ。ところがRR-Rのライディングフィールは、“壁を突き破った”、“時代が変わった”と言いたくなるほど強烈で、その印象はRC30とMC18によく似ていたのである。
もっとも、だからと言って僕はRR-Rを万人に薦めるつもりはない。移動の足やツーリングに使いたい人は言うに及ばず、ワインディングロードをメインに考えているライダーでも、他のモデルを選んだほうがいいのかもしれない。何と言っても、このバイクでスポーツライディングの充実感を得るには、かなりのスピードとスキルが必要なのだから。じゃあどんな人にRR-Rが適しているのかと言ったら、それはもちろん、サーキット指向のライダーだ。逆にサーキットを走らないライダーにとって、RR-Rはツラさが先行するバイクで、楽しさを感じる機会は多くないと思う。あら、このままだと否定的なシメになりそうだが、ホンダが久しぶりにここまで割り切ったバイク、なりふり構わず、速さに特化したバイクを作ったことは、僕としてはすごく嬉しかったのである。
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