日本はコアとなる市場をがっちり押さえるべきであり、名を捨てて実を取るという選択肢も必要になる 【牧野茂雄の自動車業界鳥瞰図】安価な価格帯で ASEAN をねらう中国勢
- 2018/08/14
- Motor Fan illustrated編集部
ASEAN(東南アジア諸国連合)自動車市場は昨年実績で約340万台。2025年には500万台に届くと言われる。日本勢は過去50年に渡って投資を続け、いまでも85%のシェアを誇る。では今後、日本勢はASEANでどう振る舞うのだろうか。緩い連合を組んで欧米中に対向するのか。内輪の競争を続けるか。そろそろ決断を迫られる時期に来ている。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
2017年のASEAN自動車市場のうち、インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナムの5ヵ国合計は約327万台であり、ASEAN全体の96%を占める。この5ヵ国が自動車生産国であり、シンガポール、ラオス、ブルネイ、ミャンマー、カンボジアは輸入に依存している。17年の市場が前年比減だったのはベトナムで、約10%のマイナス。インドネシアとマレーシアは横ばい。タイとフィリピンは同10%以上伸びた。
現在の日本とASEAN市場がまったく違う点は自動車所有欲である。「ほかのなにを我慢してでも自動車は欲しい」という欲望が自動車市場を支え、成熟市場ニッポンからASEANを見ている我われの予測がしばしば外れる。新車を買うことへのあこがれは強い。しかし「見栄えのいい中古車」の流通量が増えると、すんなり流れたりする。モデルチェンジで姿形が変わることにはあまり頓着せず、外観にキズがなくキレイであることにこだわる。そんな印象を抱く。
自動車メーカーも調査会社も、いずれASEANは年間500万台の市場になると予測する。一人当たりGDPで突出したシンガポールとブルネイは自動車生産国にはならないだろう。この両国を除けばマレーシアが約1万ドルでトップ。2位はタイで約6000ドル、3位はインドネシアで約3500ドル。フィリピンはそろそろ平均が3000ドル台に乗りベトナムは急速に2500ドルへと近づきつつある。自動車生産拠点を持つこの5ヵ国は着実に経済発展を続けている。それが市場の力でもある。
一方、国ごとの売れ筋モデルには大きな違いがある。インドネシアはMPV(多目的ワゴン)とSUVを中心としたワゴン・バン系が約6割を占め、HB(ハッチバック)を含むセダン系は2割にとどまる。タイは荷台のあるピックアップトラックが4割強でセダン系は3割強だ。マレーシアとベトナムはセダン系が最多でフィリピンはセダン系とMPVおよびSUV系がともに約4割である。
世界的な流行になったSUVとその派性モデルであるクロスオーバーも、ASEAN域内での販売台数は増えている。過去にこのカテゴリーがあまり売れなかったマレーシアで売れるようになり、フィリピンでは一気に人気車種になった。都市部に住む中間所得層が中級価格帯のクロスオーバー車に強みを示す傾向は、さらに顕著になるように思う。
市場調査会社は「国による」というが、流行は伝染する。いままでSUVが売れなかった国でもSUV需要は徐々に拡大するだろう。ただし道路舗装率が低い地域ではフレーム車の需要は廃れない。タイのピックアップもインドネシアのMPVもフレーム車である。インドネシアではトヨタ・アルファードが人気だが、未舗装の道をお構いなく飛ばしていると「2年でモノコックが歪む」そうだ。それでも高額で取り引きされているから、日本車への信頼感は極めて高いといえる。
当然、ASEANは日本以外の自動車メーカーも狙っている。かつてVW(フォルクスワーゲン)は、ドイツ政府とともにタイ政府にエコカー政策(小排気量小型車の優遇)を持ちかけた張本人だが、この制度は現在、日系メーカーが利用しておりVWは工場進出はしていない。今後3~4年で欧州勢のASEAN域内生産拠点が現在よりも大幅に充実する可能性は低い。
ただし、すでにKD(ノックダウン)組み立て工場を持つダイムラーとBMWは、SUVのASEAN域内組み立て機種を増やし、一部の部品を現地調達し、ベトナム向けの出荷を開始した。そのベトナムでは、韓国・ヒュンダイ傘下の起亜がトヨタに次ぐナンバー2の地位を占めており、ヒュンダイ・起亜がASEAN攻勢の拠点と位置づけている。
そして中国である。すでに上海汽車はタイに工場を構える。タイを選んだ理由は部品のサプライチェーンがASEAN域内でもっとも充実しているためだ。一方ベトナムは、今年1月にASEAN域内製の自動車部品について関税を撤廃した。完成車の関税撤廃はスケジュールどおりだったが、部品の門戸開放は昨年11月の決定だった。域内での完成車流通が活発化した場合、すでにベトナムに工場進出している自動車メーカーが撤退する可能性を否定できないという点が部品関税撤廃の理由だ。(次ページへ続く)
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