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非合理に流れる温暖化議論。CO2排出量増と長期的な気候変動のメカニズムはまだ解明されていない【牧野茂雄の自動業界車鳥瞰図】

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2005年に京都国際会議場で開催された仏・ミシュラン主催のビバンダムフォーラム。京都議定書が採択された同じ会場に、世界からメディアや研究者が集まった。このとき筆者はいろいろな分野の研究者諸氏に話を聞いたが、十万年以上前の過去の気候と2005年当時のCO2排出量増加がもたらす気候変動の因果関係を比較する作業は「ほとんど行なわれていない」との感触を持った。その状況は14年を経た現在でもあまり変わらない。自動車の燃費改善のほうがよほど進展がある。これは現実だ。

UNEP(国連環境計画)が発表した2018年の温室効果ガス排出世界総量はCO2(二酸化炭素)換算553億トンで、過去最高を更新した。
世界気象機関(WMO)発表の世界平均濃度も過去最高の407.8ppmとなり、さきごろスペインで開催されたCOP25でも「危機的」と断言された。排出量増は事実である。しかし、長期的な気候変動のメカニズムがまだ解明されていない。

 筆者が環境庁担当記者だった1988年に「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択された。オゾン層を『破壊する恐れのある』物質を特定し、その製造・使用を規制する内容であり、日本は翌年に締約国となり国内法が整備された。カーエアコン冷媒は「代替フロン」への転換が義務づけられた。 同じ時期、SOx(硫黄酸化物)とNOx(窒素酸化物)による酸性雨の問題が世界的に取り上げられ、まったく聞き慣れないグローバルウォーミング=地球温暖化という言葉がメディアでも使われ始めた。環境問題が旬だった。それ以前の国内公害問題は加害者と被害者がかなりはっきりとしていたが、NOxやCO2が汚染物質であるということは、およそ日本で生活するすべての人が推定有罪であり被害者=加害者になる。台所で煮炊きしてもNOxは出る。人間が活動すればCO2を吐き出す。人間の住環境にかかわる広範囲な問題だから環境問題であり、メディアは一斉に注目した。

 当時、筆者の取材や下調べに協力してくださった研究者の方々からはよく「証拠は完全ではない」と聞かされた。オゾン層を破壊する特定フロンは「ほぼ有罪確定」だったが、CO2については「怪しい容疑者だ」と聞いた。少なくとも「断定できる」と仰る方はいなかった。

 その後、メタンなどさまざまな温室効果ガスと、もっとも排出量の多いCO2が有罪となったが、国際会議でたまたま知り合った数十~数千万年単位で地球の過去の気象について研究されている方々から「直近200年程度の観察で将来の予測などできない」と聞かされた。そして筆者なりにいろいろと取材と資料集めを行なった結果、人為的な地球温暖化の進展という説を無条件に信じることはできなくなった。

 2年前に立命館大学古気候学研究センター長の中川毅(なかがわたけし)氏が書かれた「人類と気候の10万年史」(講談社)には、福井県の水月湖底から採取された7万年ぶんの「年縞」が世界的に古気候学の正確な「年代物差し」に認定されたくだりが記されている。湖底に酸素がなく直に注ぎ込む川がない水月湖には、花粉や落ち葉などが樹木の年輪のように堆積物として保存されていたのだ。

 筆者が環境庁担当記者だった時代には、地球の歳差運動による地軸の変化や太陽を周回する地球の公転軌道変化、太陽の黒点活動などが気候変動をもたらす要因であると言われ、その方面の研究が行なわれていたが、当の環境庁や研究者諸氏は「わからないことはまだまだ多い」と言っていた。とくに古気候学の領域では「わからないことだらけだ」と聞いた。

 それから約30年を経た現在は、過去に温暖期と氷期とが繰り返され、温暖期には現在よりも気温と海水面が高い時期が存在したことが明らかになった。氷河や湖底に保存された「年縞」という証拠から導かれた結論だ。いっぽう、19世紀以降に温室効果ガス濃度が増えたことは、いま現在の観測をもとにUNEPが発表する毎年のデータに示されている。大気中のCO2濃度は、それがppm=100万分の1単位とはいえ、観測が始まって以降は増え続けている。

 ただし、人為的な温室効果ガスの排出が、地球の地軸や軌道の変化など何億年も続いてきた天体現象や太陽黒点の活動以上に気候変動の原因になっているのかどうかは、まだ断定できる段階ではない。同時に過去200間の人口増加や都市化、人間の活動、CO2吸収体である植物生育面積の変化などが、いま観測されているCO2濃度にどう影響しているのかも未解明である。過去には現在より世界の平均気温が高い時代があったことも明らかになっている。

 論文やデータを集めて冷静に読み込むと、地球温暖化と人為的CO2排出の関係はよくわからなくなる。容疑者CO2の排出をできるだけ抑えることは、いまの時代に生きる我々の行動としてとりあえず正解には思う。しかし、地球の気候メカニズム解明こそはさらに重要だ。なのに、この分野への投資があまりに少ない。証拠不十分のなかで全世界がただ「CO2が温暖化の原因だ」という雰囲気に流され、毎年何兆円もの温暖化対策費を投じ、それが効果を生まない。この現状は非合理的だ。

 調査研究を経た、少なくとも現状では最良と判断された情報を逐次発信しないと世の中では勘違いが起きる。たとえば30年前には「割り箸は森林伐採に繋がる」と否定された。資源としての森林には健康な木を育てるための間伐は必須なのに、間伐材まで否定されるという本末転倒に陥った。塗り箸を何度も洗って使うことで発生する洗剤の混ざった生活雑排水のことは黙殺された。下水は薬品とエネルギーを使って処理しないと海にも河川にも流せない。使った割り箸は、もともとCO2を吸って育った木が材料だから燃やしてもカーボンフリーだ。

 ここで「箸を洗うくらいは皿洗いのついで」などという暴論を吐くと、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)という現在まさに重要な「総量計算」の考え方は成り立たなくなる。環境問題でのどんぶり勘定容認こそは問題のすり替えを招く。その最たる例がBEV(バッテリー電気自動車)の礼賛だ。

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