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GSIクレオス:三菱電機がカーボンナノチューブを用いた振動板を車載スピーカーに採用

  • 2021/07/01
  • Motor Fan illustrated編集部
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NEDOの「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト」でGSIクレオスが開発したカーボンナノチューブ(CNT)の性能を最大限に発現させる技術が、このたび三菱電機の振動板に採用され、新製品として車載用スピーカーに搭載された。

 カーボンナノチューブ(CNT)※1に代表されるナノ炭素材料は「軽量」「高強度」「高電導度」「高熱伝導度」という特長を持つ日本が世界をリードする材料。一般的にCNTはそのナノサイズのため凝集塊の状態で存在するが、CNTが本来持っている性能を発現させるためには、この強く固まった塊を解砕して(ほぐして)、CNTを母材内に高分散させる必要がある。そのためには高いエネルギーを塊に加え、文字通り「粉砕」しながらほぐしていく方法が一般的だが、CNTの破壊や短化現象※2が生じ、CNT自体に欠陥が生じてしまうなど、CNTを良好な状態で高分散させることは技術的に極めて困難で、CNT機能発現の大きな妨げになっていた。

 このような背景のもと、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2010年度から取り組む「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト※3」の技術開発テーマの一つとして、GSIクレオスは2014年度から2016年度まで「カーボンナノチューブ超高分散材料の大量生産技術の開発」でCNTの構造を壊さずに凝集塊を良好に「ほぐす」ことにより、次工程でCNTを分散しやすくし、複合材料など工業製品への応用の可能性を大きく広げる技術を開発した。

 GSIクレオスはプロジェクト終了後も、自社独自開発品であるカップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNT)※4を用いてCNTを「ほぐす」技術の改良を続け、熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂、塗液への分散、さらにほぐしたCSCNTが分散した複合材料の設計・最適化を進め、さまざまな工業製品への適用を試みてきた。この結果、このたび三菱電機が同技術を活用したCSCNTを用いた振動板を新製品の車載用スピーカーに採用し、NEDOプロジェクトの成果として製品の実用化と市場展開につながった。このスピーカーは従来製品と比べ高音がクリアで、低音の分解能、ゆがみ感、臨場感などの面でも大きく進歩している。

技術開発と成果

1)高アスペクト比※5のCNT超高分散液の開発
 凝集塊をほぐす技術開発により、分散工程でCNTの短化現象を低減し、CNTの長さや結晶構造を保ったまま、高分散させることに成功した[図1(a)(b)]。

2)CNT超高分散液の性能確認
 従来の複合材料力学によれば、充填する強化材のアスペクト比が30以上の時に、機械的特性向上に効果があることが知られている。今回開発したほぐし処理後のCNTは、アスペクト比が30以上であることが確認されている。このように長さや結晶構造が保たれることで、CNTが本来持つ高い性能の発現が可能となる。このほぐされたCNTをさまざまな母材樹脂に添加したところ、CNT複合材料として各種機械的性能の向上が確認できた。

 機械的性能の向上を確認した一例として、炭素繊維強化樹脂(CFRP)の母材樹脂内に従来の解砕法によるCNTと今回開発したほぐしCNTを分散し、筒状試験体を成形する。この筒状試験体に所定の角度から動的荷重(衝撃)を与える耐衝撃試験を行った[図2(a)(b)(c)]。

 耐衝撃性を測定したところ、ほぐしCNT充填CFRPでは従来の解砕法に比べ、2倍以上の耐衝撃性能の向上を確認した[図3]。

 今回、ほぐしCNTを振動板に充填することで、音を伝える速度を向上させることができ、クリアな高音・低音の分解能・ゆがみ感・臨場感などスピーカーに必要な各種特性の向上に大きく寄与したため、三菱電機製スピーカー新製品への採用に至った。

※1 カーボンナノチューブ(CNT)
炭素原子だけで構成されている直径がナノメートルサイズ(10億分の1メートル)のチューブ状の炭素材料
※2 短化現象
外部応力によりCNTの長さが失われ短くなる現象を、 しばしば「短化現象」あるいは「短尺化現象」と表現する事がある。実際には高いエネルギーがCNTに与えられる事で、CNTの結晶構造が破壊されながら短くなっていく状態を示す。
※3 低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト
プロジェクト事業名:「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト/ナノ炭素材料の実用化技術開発」実施期間:2014年度~2016年度
※4 カップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNT)
CSCNTは学術的には「切頭円錐形炭素網積層構造炭素繊維」(下図参照)と呼ばれ、CNTの一種として分類される。GSIクレオスが独自に展開するカーボンナノチューブ。
※5 アスペクト比
長さ(L=Length)と直径(D=Diameter)の比率を指し、L/D(L÷D)により算出される

カップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNT)

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