早く安く簡単にリチウムバッテリーモジュール性能を把握する技術がキモ EVの価値を上げ、次の段階へ進むために 。日産が福島に使用済みEV用バッテリーの再製品化専用工場を作った背景
- 2018/04/13
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Motor Fan illustrated編集部 鈴木慎一
EVの価値を決めるのはバッテリー。バッテリー容量で航続距離が決まるからだ。厄介なのは、そのバッテリーが「劣化」すること。劣化したバッテリーをどう再生するか。日産がひとつの回答を示した。日産と住友商事が合弁で立ち上げたフォーアールエナジー社(4Rエナジー)が、福島県浪江町に、使用済みEV用バッテリーの再製品化専用工場を開設したのだ。
電気自動車(EV)の価値を決めるのは、結局のところ「電池」である
電気自動車(EV)の価値を決めるのは、結局のところ「電池」である。そしてその電池は、必ず劣化する。劣化すると、航続距離が短くなりユーザーは不満を覚える。その不満はEVのリセール価格に悪影響を与え、それがEVの評判を下げ……という悪い循環に繋がってしまう。その循環を変えるには、EVで使った高性能リチウムイオン電池を再生し再利用するサイクルを確立することが重要だ。数年間乗ったEVのバッテリーに価値があれば、当然クルマの価値が上がる。距離を重ねてバッテリーが劣化したEVは、再生バッテリーに交換することで再び航続距離を回復しクルマとしての魅力を取り戻す。
電気自動車・リーフを開発し世界に先駆けて市販した日産は、そのことを早い段階から理解していた。リーフ発売前に、住友商事と合弁で「フォーアールエナジー株式会社」(以下4Rエナジー)を立ち上げたのは、その証左である。4Rの意味は、使用済みEV用バッテリーの再利用(Reuse)、再販売(Resell)、再製品化(Refabricate)、リサイクル(Recycle)。とはいえ、EVが普及しないことには、中古バッテリーも出てこない。今回、4Rエナジーが、福島県浪江町に「使用済みEV用バッテリーの再製品化専用工場」を開業したのは、ある意味、機が熟したから、と言える。といっても、リーフの開発・導入時点での「原子力発電によって得られる電力でEVを走らせる」という前提条件は、11年の東日本大震災とそれに起因する福島第一原発の事故によって頓挫してしまった。そこからわずか十数kmしか離れていない浪江町にこの再製品化専用工場ができたことには、やや皮肉な巡り合わせを感じる。
さて、発売後8年目を迎えた第一世代リーフが買い換えのタイミングとなり、電池材料の高騰や自動車メーカーに使用済み電池の回収を義務づける法規が中国で発効されるという背景もあって、EV用バッテリーの再生ビジネスもいよいよ本格化してきた。
バッテリーパックのたったひとつのセルが劣化しただけで全体のパフォーマンスは低下する
記事上のメインカットは、25℃に保たれた恒温室で測定中のバッテリーパック。その壁を挟んで隣の部屋にあるのが、充放電装置だ。ここで充放電を繰り返し、各セルのバッテリー容量、出力を正確に測定する。1パックの測定には準備を含めて4時間かかるという。測定に関わるノウハウがこのビジネスのキモだ。
充放電装置のモニターには、各セルの状態が表示されていた。セルの温度は24.1~24.5℃。電圧はほとんどのセルが3.810~3.829Vの範囲内だったが、いくつかのセルは0.000V、0.001Vと表示されていた。これが劣化したセルなのだろうか。
EV用バッテリーの劣化は、使用条件によって千差万別。しかも、搭載しているバッテリーパックの中のたったひとつのセルだけが大きく劣化した場合、ほかのセルもそれに引きずられてパック全体が本来の性能を発揮できないことがあるという。たとえば、第一世代のリーフは、1モジュールに4つのバッテリーセルが収められいる。1パックで48モジュール、つまり192セル。その192セルが均等に劣化するわけではないところが難しい。さらに言うと、中古バッテリーのセル毎、モジュール毎の性能を正確に測定することも想像以上に難しい。1パックの性能を測定するのにかかる時間は、約4時間(従来技術では16日間かかっていた!)。測定したモジュールを性能別に「松・竹・梅」に分け、松クラスだけで再製品化すれば、再製品化前よりも性能が上がり、再びEV用として使える。再生したEV用バッテリーの価格は24kWhで30万円(税・工賃別)である。
日産自動車:「日産リーフ」の再生バッテリーを使った有償交換プログラムを発表
R&Dセクションに置かれた恒温槽。内部はマイナス40℃~プラス80℃までさまざまな温度環境を再現できる。このなかにバッテリーモジュールを入れて、バッテリーの変化を測定する。今後このスペースにはさまざまな測定機器が置かれてグローバルの研究拠点となる。
測定の結果、モジュールの3段階に分類。同程度の性能のモジュールを揃えて再製品化すると再生前よりも高性能にすることも可能だ。程度の良いモジュールで組み直された再生バッテリーは再びEV用として中程度のものは電動フォークリフトなどに、標準より劣化したものは工場受変電設備のバックアップなどで使用する。
第一世代に続いて第二世代、そして現行リーフのバッテリーもいずれは中古として再利用する時がくる。浪江事業所は、2020年に年1万台分のバッテリーを再生したいと目論む。他社製、例えば三菱i-MiEVのリチウムイオン電池(GSユアサ、東芝製)の再生も、「メーカーからの技術開示があれば、ぜひやりたい」ということだった。バッテリーが再生できれば、EVの価値が上がるだけでなく、再生バッテリーを蓄電デバイスとして利用することで再生可能エネルギーの普及にも役立つ。日産、住友商事、そして4Rエナジーは、そこまで見越して事業展開を考えているのだ。
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