レクサスLCとアクアのボディ、ハイブリッドカーのリチウムイオンバッテリーなどに採用された異種材料接着・接合技術技術を紹介 異種材料接着・接合技術は「安全・安心」「感動」「環境」の3つを兼ね備えた電動車の普及に必要不可欠…トヨタ自動車・加古慈氏【第10回高機能素材Week】
- 2019/12/06
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遠藤正賢
幕張メッセで12月4~6日に開催の、業界関係者を対象とする材料・加工機械の総合展示会「第10回高機能素材Week」(注:業界関係者向け商談展のため一般および18歳未満の入場不可)。
同展示会は「第10回高機能フィルム展」「第8回高機能プラスチック展」「第6回高機能金属展」「第4回高機能セラミックス展」「第3回接着・接合EXPO」「第2回高機能塗料展」「第29回液晶・有機EL・センサ技術展」「Photonix2019」の8種類で構成されている。
最終日の6日には、レクサスCTおよびUXの開発を指揮したトヨタ自動車の加古慈・材料技術領域 領域長が、「第3回接着・接合EXPO」の特別講演「自動車業界の動向と高機能素材への期待」に登壇した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢/トヨタ自動車
加古氏は冒頭、自動車業界が100年に一度の大変革期を迎えていることに関し、ニューヨークの街を1905年頃から自動車が走り始め、そのわずか8年後には完全に馬車と置き換わった歴史を引き合いにして、これと同様のことが今まさに起こり始めていることを示唆。
特に、カメラの高解像度化・高感度化やレーザーレーダーの三次元か化などセンサー性能の向上、GPUなど車載コンピューターの処理能力向上、自動運転基本アルゴリズムや機械学習による認識ロジックなどソフトウェアの性能向上により、自動運転の進化・普及が急速に加速していることを強調した。
ただし、「自動運転の一番の目的は安全であり、利便性のみを追求しては意味がない。渋滞解消や燃費低減などで環境改善にも寄与するほか、高齢者や身体が不自由な人にも移動の自由を提供することにつながる」と、その意義を説いている。
そして電動化については、「各地域のエネルギー事情や好みに合わせて提供するのが重要。移動距離が短い場合は現状EVでも対応可能だが、シェアカーなどでは稼働率が高まるため、航続距離の伸張や充電時間の短縮が必要になる」と指摘。また、2030年に電動車の販売台数を550万台とする同社の目標にも触れ、「現状のペースであれば5年くらい先行しそうだ」という見通しを示している。
こうした近年の動向を踏まえ、「安全・安心」「感動」「環境」の3つを兼ね備えた電動車をさらに普及させるためには、バッテリーなど電動パワートレインのさらなる進化と車両の軽量化が必要不可欠と指摘。そのうえでは異なる材料の組み合わせを実現できる異種材料接着・接合技術の重要度が高いとして、レクサスLCとアクアのボディ、ハイブリッドカーのリチウムイオンバッテリーなどに採用された技術を紹介した。
レクサスLCの開発においては通常のモデルとは異なり、モーターショーで好評を博したデザインが先行し それを実現しつつ高い走行性能も両立する、軽量・高剛性な「二律双生」のボディ・シャシー開発が求められたと述懐。CFRPとアルミ合金、超高張力鋼板といった軽量素材を部位ごとに使い分けるとともに、それらを接合するため構造用接着剤を、キャビンや骨格まわりを中心として73mmにわたり用いている。これはレクサスISの25mに対し約3倍もの長さに相当する。
これにより、ボディのねじりモーメントに関し、LCは変形のしかたがより線形的になったため、車両の挙動もよりリニアなものに。ねじり剛性の絶対値も競合他車より高いため、「ボディ自体でキビキビした動きを実現し、サスペンションは比較的ソフトなセッティングとして乗り心地を向上させた」と述べている。
なお、構造用接着剤の採用にあたっては、高速かつ小径に塗布できる生産技術や、常温塗布を可能にする粘度設定、画像による品質管理システムが開発・導入されている。
さらに、LSW(レーザースクリューウェルディング)と呼ぶ、リモートレーザーによる高速点接合技術を採用。1点あたりの所要時間が0.3~0.8秒と早く、かつ分流が発生しないため打点間隔の制約がなく、さらに片側からのアクセスが可能なため閉断面にも適用可能。打点間隔を最小限に詰めた場合は構造用接着剤に近いねじり剛性を実現できると同時に、コンパクトかつ低コストな生産ラインを作ることにも寄与するというメリットを説いた。
そのほか、電動車ではエンジンを搭載しない、もしくはエンジン停止時間が長くなることで、室内暗騒音が低くなるため、車体への入力が構造部材を伝播しルーフパネルなどを振動させることにより耳に近い所で発生する、ロードノイズが目立ちやすくなることを指摘。その対策として、トヨタ・アクアでは高減衰マスティック接着剤をルーフなどに用いることで、50~80Hz域で約3dB低減したことを紹介した。
ハイブリッドカーのリチウムイオンバッテリーについては、アルミニウム製のバスバーと銅製の負極端子とを接合する接着技術を開発中であることを紹介。「電池の高さを数mm下げるといった小さな積み重ねが、居住空間を拡大するなど、車両全体のパッケージングに大きな効果をもたらす」と、かつてレクサスCTやUXの開発を指揮した経験から、その意義を強く訴えている。
そのほか、電動車のリサイクル性を高めるため、UVを照射することにより接着力を弱める易解体性接着剤を開発していることにも言及。「トヨタが自動車会社からモビリティカンパニーへと生まれ変わるうえでも、分子レベルでの接着・接合技術開発が今後ますます重要になる。これはトヨタだけでは実現できない」と、聴講する材料メーカーなどの関係者に対し協力を呼びかけて、講演を締めくくった。
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