ギヤトレーン解析に特化したCAEツール「MASTA」が進化 【SMT】解析モデル作成の効率向上と機能拡充でよりパワフルに PR
- 2021/06/15
- Motor Fan illustrated編集部
ギヤトレーン向けのCAEツールとして定評のある「MASTA」の最新版、バージョン11がリリースされた。新たな機能の追加はもちろん、その特徴といえるモデリングや音振解析の機能においてもさらなる充実が図られている。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI) FIGURE:SMT
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ドラッグアンドドロップ……。PCを扱ったことがあれば誰もが馴染み深いであろう“あの”操作だけで、ギヤとそれを支えるシャフト、ギヤトレーンを構成する最小単位が画面上に現れた。時間にしてわずか30秒ほどであろうか、正確に測ってはいないが、1分はかかっていなかったはずである。とにかく予想をはるかに超える素早さ。
英国SMT社の手がける「MASTA」はギヤトレーン解析に特化したCAEツール(ソフトウェア)だ。同ツールにおいて最大の特徴といえるのが、解析用のモデルが作りやすく、速くて正確な解析が可能という点であり、これが世界的な支持を受けるかたちで同分野のツールとして確固たる地位を築き上げている。そのMASTAに11番目のバージョンとなる最新版が登場した。定評ある使い勝手はそのままに、さまざまな機能が追加されたわけだが、まず驚かされたのが、大幅に強化されたといって良いであろう、モデル作成にまつわる機能。なかでも印象的だったのが、ドラッグアンドドロップ操作でモデルが作成できるという「パレットモデリング」と呼ばれる新機能である。
もともとスピーディなモデル作成は同ツールの“売り”であり、これまでのバージョンでも、簡単なものであれば、2Dの図面を基に数分のうちに作成することができたのだが、最新版ではAnsys社の3Dダイレクトモデラー、SpaceClaim(スペースクレーム)と直接連携しながら3DのCADデータを受け渡しする機能(CADリンク)が追加されたことでモデル作成はさらに容易なものになっている。
図面を必要とせずにモデル作成を行なうことができるパレットモデリングに対し、CADリンクではより複雑な構成のギヤトレーンを素早くモデル化することが可能と、守備範囲は異なるかたちとなっており、前者はおもにコンセプトモデルの作成に向く。どちらにしても、MASTA上で作られるモデルは、一般的な3D CADデータのような寸法を表す数値の集合体(ジオメトリーデータ)ではなく、物理解析が可能なモデルである。もちろんFEM(有限要素法)に必要なメッシュの生成も可能であり、伝達誤差から音振の解析まで、シームレスに実行することができる。
もうひとつの大きなトピックが、“タイムステッピング“という手法を用いるプラネタリーギヤの解析機能と、サイクロイド減速機のモデル化という機能の追加だ。どちらもこれからの電動化技術においてカギとなるもので、とくに重要になってくるのが音振である。EVにせよHEVにせよ、エンジン音が存在しない状態での運用では、ギヤトレーンに要求される音振性能がよりシビアになってくるためだ。
音振解析はもともとMASTAがもっとも得意とするところだが、プラネタリーギヤの解析についてはこれまでも可能であったものの、プラネタリーギヤにおける特徴的な現象である“サイドバンドノイズ”を正確に解析することは困難だった。原因となるのはリングギヤ内側の歯当たりの周期に、遊星ギヤ通過の周期が重なる(合成される)ことで起きる振動周波数の変調。バージョン11ではこの部分にタイムステッピング技術を採用することでこの変調の状態まで、高精度で解析を行なう。
タイムステッピングは文字通り一定時間毎に区切りながら、ときどき変化するリングギヤの位置などを考慮した振動周波数解析(FFT解析)を行なう。最終的に時系列順に並べるというものだが、区切りの数だけ解析計算が必要となる。
そこでカギとなるのがMASTAがこれまで培ってきた独自の計算アルゴリズム。時間毎の計算を迅速にこなすことで、膨大な解析量をこなす。このタイムステッピング解析は世界初。プラネタリーギヤ以外に剛性が不均一なギヤブランク(軽量穴あき形状など)の解析にも活用できる。
なおサイクロイド減速機については車両駆動用としての前例はまだないものの、今後はインホイールモーターなどへの応用が期待されることに加え、産業用などのロボティクス分野ではすでに普及。同技術への対応はMASTAの活用領域拡大にも繋がるはずだ。
振動特性を時間単位で解きほぐすタイムステッピング解析
3D CADツールとのリンク機能で解析用モデルの作成がさらに容易に
これからの電動化技術においてカギとなるサイクロイド減速機にも対応
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