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作家・安部譲二の華麗な自動車遍歴コラム。名車と聞けば馳せ参じる安部譲二、波乱万丈のクルマ人生! 【コラム】華麗なる自動車泥棒 (安部譲二)Vol.1

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(イラスト 鐘尾 隆)

作家・安部譲二の華麗な自動車遍歴コラム!クルマが人生を輝かせていた時代への愛を込め、波乱万丈のクルマ人生を笑い飛ばす!月刊GENROQ‘97年4月から56回にわたり連載された『クルマという名の恋人たち』を、鐘尾隆のイラストとともに再掲載。青年期からギャング稼業時代、そして作家人生の歩みまで、それぞれの時代の想いを込めた名車、珍車(!?)が登場します。稀代のストーリーテラー安部譲二のクルマ語りにご期待下さい!(毎週連載)
(文:安部譲二 イラスト:鐘尾 隆)

第1回 キャデラック・エルドラド ‘85

僕はキャデラックが好きです。
昭和20年代といえば、今から50年近く前ですが、その頃の日本は、まだアメリカやイギリスとの戦争に負けたばかりで、とても貧乏な国でした。

東京はアメリカ空軍の爆撃機、ボーイングB‐29が降らした爆弾のおかげで、焼跡だらけだったといっても、若い読者の皆様にはほとんど信じられないのに違いありません。昭和20年代の前半は、田舎は知りませんが、東京では喰べるものも極端に欠乏していて、僕たちは不味い薩摩芋ばかり喰べていたのですから、本当に非道い時代でした。

今ではデブで禿のオッサンになってしまった僕も、その頃はまだスリムで目の大きかったティーンエイジャーです。目の大きさ自体は、50年前のその頃でも、今でもまったく変わらないのですが、目のまわりの顔が変わりました。

50年前は頬がそげて顔が小さかったので、目が大きく見えたのですが、今は顔に余計な肉がいつの間にか随分ついてしまったから、僕の目は象さんのお目々になってしまったのです。

古い日本映画を見るとよく分かるのですが、その頃の東京の街には、ほとんどクルマなんか走っていません。アメリカ兵の乗ったジープと、ボンネットバスが時々走っていく中に、たまに乗用車が混って、クルマが大好きだった僕の目を魅きつけたのでした。

その頃、48年式のフォードと、それにキャデラックを見た時の興奮を、僕は今でもハッキリ覚えています。「クルマというものは、絶対にこれ以上は美しくならない。これはもう究極の美しさなのだ」と、僕は中学の同級生に、フォードとキャデラックの美しさを熱っぽく語りました。
 
今は総理大臣になっている橋本龍太郎さんも、当時は可愛い中学1年生で、教室で僕が興奮して語ったアメリカ車の美しさを、黙って聞いていたのです。

六本木の坂を喘ぎながら登って行くバスを、鮮やかに加速して苦もなく駆け登る龍のように見えました。僕の目の大きさと同じで、これは比較の問題だったと思うのです。まるでクルマの通らない焼跡だらけの街で、古い満員のバスを並びかけもせずに、一気に無造作に追い抜いて行くキャデラックは、断然、素敵で大きく見えました。

薩摩芋ばかり喰べていた敗戦国の少年にとっては、それは贅沢と豊かさの象徴だったのです。スラムに住む黒人の少年が、いつの日かピンクのキャデラックに乗ることを夢見るように、50年前の僕も、「大人になったら成功して、僕も、あのキャデラックに乗る。絶対に乗る。誰が何と言っても乗るぞ」と、心に誓いました。

その頃の僕は、暇があると日本橋の三越の駐車場に出掛けて行ったのです。ここにはいつでも凄いクルマが集まっていました。まだ庶民は飢えていた日本なのに、ロールス・ロイスもパッカードも、それにハドソンや、アームストロング・シドレー・サファイアもいたのです。
 
僕が憧れのキャデラックをいつまでも見ていると、運転手さんがジロリと睨みました。妙な子供だと思ったのに違いありません。
 

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