アウディA6 セダン55TFSIクワトロ×メルセデスAMG E53 4マティック+×BMW 540i xドライブMスポーツ 群雄割拠のEセグでナンバーワンを決めるハイレベルな戦い! アウディA6、メルセデス・ベンツEクラス、BMW5シリーズ
- 2019/08/17
- GENROQ編集部

群雄割拠の欧州Eセグメントに満を持して新型A6が投入された。
シャープなデザインに進化したA6はライバルを大きく上回る性能の持ち主か?
対するはメルセデスAMG E53とBMW 540iのAWDモデルたち。
長距離を乗り比べてみると意外な個性の違いが見えてきた。
REPORT◉大谷達也(OTANI Tatsuya)
PHOTO◉小林邦寿(KOBAYASHI Kunihisa)
※本記事は『GENROQ』2019年8月号の記事を再編集・再構成したものです。
メルセデス・ベンツEクラス、BMW5シリーズ、アウディA6の比較テストといえば自動車雑誌の企画としては定番中の定番。ただし、もしも「ラグジュアリーセダンを造らせたらメルセデスが天下一品」とか「BMWはスポーツセダン界の雄」とか「アウディは4WD技術に長けている」といった紋切り型のコメントがここで羅列されると予想しているなら、大変な期待外れに終わるはずだ。
なるほど、メルセデスは快適性、BMWはスポーティな走り、アウディにはクワトロに代表される先進技術に関して長い歴史を有している。けれども、そうした特徴が各ブランドの製品そのものであったかのように語られたのは、モデル数がまだ4つか5つしかなかった30年以上も昔の話。その後、モデルバリエーションが飛躍的に増え、さらにエンジンラインナップやグレード違いも含めれば無数ともいえる選択肢が用意されるようになった現在、各ブランドの立ち位置にはしばしば逆転現象が起きるようになっている。今回の比較テストも、まさにそんな結果に終わったといえる。
主役となる3台は、最新のアウディA6セダン55TFSIクワトロを筆頭に、メルセデスAMG E534マティック+、BMW540i xドライブMスポーツという組み合わせ。一見したところアンバランスに思えるかもしれないが、実は3台とも3ℓ6気筒エンジンを搭載する4WDモデルで、価格はA6の1006万円からE53の1260万円までと、意外に近い関係にある。

まずはA6で一般道と高速道路を走ってみる。ここで強く心に残るのは、車内が驚くほど静かで滑らかな乗り心地が味わえること。足まわりの設定は決してフワフワしてなく、むしろソリッドに感じるくらいだが、なぜか路面の凹凸だけはきれいに吸収し、その存在を一切乗員に知らせない。まるでエアサスペンション装着車のようだが、現時点でA6のエアサスペンションは日本未導入。それにもかかわらず乗り心地が傑出して優れているのは、試乗車が履いていた標準サイズのタイヤ(ミシュラン・パイロットスポーツ4。サイズ:245/45R19)に大きな理由がある。というのも、新型A6はこのタイヤを基準にして足まわりの設定を決めたようなのだ。
A6の静かで快適な印象は高速道路に舞台を移しても変わらない。それとともに印象的だったのは、これまでアウディが苦手としていたアダプティブクルーズ・コントロールやアクティブレーン・キーピングの洗練度が完全にこのクラスのトップと肩を並べたこと。これは、レベル3自動運転を視野に入れて開発されたA8と共通の運転支援用コントローラー“zFAS”を搭載したことと深い関係がありそうだ。
一般道で快適だったのは540iも同様。あまりに心地よかったのでエアサスペンション装着車かと疑ってしまったが、試乗した540iは金属バネ仕様。ただし、こちらはA6のパリッと張りのある軽快な乗り心地に対し、どっしりとしてより重厚に感じる。引き続きランフラットタイヤを履きながら、ここまでゴツゴツ感を消し去った足まわりの仕上がりは大したもので、今や乗り心地面でランフラットでないタイヤとの差はないも同然。パンク時の安全性とセキュリティ性を重視してここまで開発に邁進してきたBMWの努力には素直に敬意を表したい。
540iは高速道路での快適性も上々だったが、路面から伝わるかすかな振動にランフラットの影が感じられなくもない。それよりも興味深かったのが、かつてBMWの弱点とされた高速直進性が見違えるように改善された一方で、ステアリングフィールは従来ほどビビッドな感触を伝えず、アウディに近い情報量がほどよく制限されたタイプに生まれ変わっていたこと。
いずれもxドライブを搭載したことに関係がありそうだが、4WD=アンダーステアという先入観はそろそろ捨て去ったほうがいい。そもそもxドライブと4マティックはトルク配分装置に電子制御式多板クラッチを採用しており、コーナー進入時には後輪駆動に近いトルク配分として4WDのクセを消し去ることが可能。一方のA6は引き続きトルセンCを用いているが、長年の熟成によりアンダーステアは気にならないレベルまで消し去られている。
ところで、試乗車はBMWのパーソナライゼーションプログラム“インディビデュアル”のレザーパッケージやダッシュボード、ドアトリムなどを装備していたため、室内は落ち着きがあってゴージャス。これがまたどっしりとした乗り心地とよくマッチして、メルセデスかと見紛うようなラグジュアリー感を生み出していた。しかも、内装のオプション価格は総額でも50万円弱で、この種の装備としては比較的廉価。「BMWで華やかな世界を楽しみたい」と思う向きにはうってつけだ。
前述した2台と比較すると、E53は路面からの振動によって常にボディが上下しているような感触がある。エンジン音は、おとなしく走っているときは静かだが、スロットル・ペダルを踏み込めば往年のアメリカンV8を彷彿とさせるエキゾーストノートをあたりに轟かせ、さらにスポーツモードに切り替えればスロットルオフで「パパパパパン!」とアフターファイアのごとき勇ましいノイズを響かせる。
しかも、AMGだけあってパワー感がすさまじい。それもマイルドハイブリッド、電気式スーパーチャージャー、ターボチャージャーが畳みかけるようにして威力を発揮するため、鋭いレスポンスのあとに強烈な加速感が途切れることなく続いていく。ちなみに最高出力は2台のライバルが340㎰で横並びなのに対し、これを100㎰近くも引き離す435㎰を発揮。ストレート6の滑らかで官能的な回転フィールを含め、このパワープラントこそE53の白眉といって間違いない。

では、この3台をワインディングロードで走らせるとどうなのか? ここでも、もっとも情熱的な走りを見せるのはE53だ。圧倒的なパワーとエンジンサウンドが折り重なってドライバーの気持ちを昂ぶらせる。ただし、シャシー面では前述したボディの上下動と連動する形でステアリングが左右に揺すられ、ハードコーナリング中はこれを腕力で抑え込むことになる。もっとも、スタビリティコントロールを作動させている限り挙動の乱れは起きないので不安は覚えないが、ドライビングしているという実感がいちばん強いのは間違いなくE53である。
これともっとも対照的なのがA6だ。路面の不整があってもバネ下だけで手早く吸収し、ステアリングには一切振動が伝わらない点は現代的でクール。それでもコーナリング中に必要な情報はステアリングを通じてしっかり届けられる点は実に興味深い。しかも、ステアリングレスポンスが自然なうえにリニアリティが高く、ロードホールディングが優れているため、グリップ限界まで追い込むのは難しくない。おかげでタイヤと相談しながらコーナリングするスポーツドライビングの醍醐味を存分に味わえる。
同じワインディングロードを540iでゆったりと流すと、一般道を走っているときと同じように洗練された感触を示し、ドライバーをいたずらに刺激しない。ところがそこから徐々にペースを上げると、落ち着いた挙動を保ったまま、ストレート6が次第にその存在感を強めていく。さすがにE53ほどの爆発力はないものの、エンジンの回転フィールとパワーの高まりだけでここまでドライバーの気持ちを駆り立てるのはさすがBMWというほかない。
つまりE53は最新テクノロジーを駆使しながらもトラディショナルな手法でドライバーを鼓舞するのに対し、A6は徹底的に洗練されたスタイルでドライビングの新たな喜びを表現。540iは基本的にA6に近いスタンスながら、時としてE53と似た官能性を帯びるといったような違いがあった。
では、3台のなかでどれが一番高い評価を得たのか? 今回の取材には私を含めて3名のドライバーが同行したが、3台の印象は共通していながらも、1名はE53が気に入り、残る2名はA6に票を投じた。また、選ばれなかった540iにしても、クルマに対する評価は他の2台に負けないくらい高かったことを付け加えておきたい。
最後に個人的な意見を申し上げれば、クールで先進的なフィーリングが味わえるA6にもっとも惹かれた。騒音や振動を徹底的に排除しながらも、ドライビングに必要なインフォメーションを巧妙に伝える手法は斬新で、乗り心地、エンジンの感触、ハンドリングなどはいずれもこの先進的な世界観とよくマッチしていた。とりわけ気に入ったのが荒れた路面でもステアリングの座りがいいことで、私のスキルでは、これがタイヤを限界まで使い切るうえで大いに役立った。先進的なデザインの内外装もA6の魅力をより引き立てているといえるだろう。
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