東京モーターショーには第0回があった! / 1953年 第0回・自動車技術展覧会 【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】
- 2020/07/24
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荒川 健
1953年に登場していた、日産のオリジナルバスや乗用車、対するライセンス生産のオースチンや、ヘンリーJ、この作りから、当時の日本の自動車業界の裏側が見えてくる。すでに60年以上の歴史を持つ東京モーターショー。ここでは貴重な資料の中からかつての東京モーターショー、そして話題の車を振り返ってみよう。
解説:荒川健(カーデザイナー)
東京モーターショーは日比谷公園が最初だと決め込んでいた私は、2013年にモーターファン別冊「歴代東京モーターショーのすべて」を見てビックリ、なんと0回があったことが紹介されているではないか!
今回光栄にも、そのゼロ回から書かせていただけるとのこと、喜んでお引き受けいたしました。
さて本題の0回、名称は「自動車産業技術展」場所は上野公園。現在の噴水池が大きくなる前、動物園の前あたりにかけてかなり広いスペースがあり、そこで行われたのであろう。
主催者は日本乗合自動車協会、バス事業開始50周年記念イベントとのこと。
当然自動車メーカー各社から最新型のバスが出品され大勢のギャラリーに囲まれ、白黒写真でも華やかな雰囲気が十分伝わってくる。
早速デザインについて詳しく見てみよう。
何と言ってもこの日産自動車株式会社のリヤエンジンバスが興味深い。
1940年にレイモンド・ローウィがデザインしたグレイハウンド・バスを参考にしているようにも見えるが、よく見るとフロントフェイスは中心線がわずかに感じられるデザインで、日産のほうに自動車らしい前進感がある。ローウィのデザインは、悪くいうと前か後かわからないデザインだ。
じっくり見てみると当時のデザイン事情もわかる
実は、当時の設計技術ではトレーシングペーパーの原図を直に感光させる青写真または青焼きという普通紙の図面をもとに木型を作るのだが、当然湿度により1㎜2㎜は狂ってくる。特に重要なフロントの中心部分は、こうした誤差による間延び感を防ぐため、あえて中心線がわかるように設計していたのだ。
おでこの砲弾型ランプもボディ全体とよくマッチし、アクセントになっていてかっこいい。
またウインドシールド上の帽子のつば状の日除けやワイパーの付け根をあえてガラス側に逃げを作るなど、凝った作りが個性的な秀逸の1台だ。
立て看板をよく見ると、三菱や日野、富士ディーゼルなどロゴが見える。
日本車の黎明期、オリジナルとライセンス生産の混在する展示
日産自動車がライセンス生産したオースチンA40や、三菱重工のヘンリーJ、ダットサンなど乗用車もバスに混じって展示されていた。
ライセンス生産のおかげで、日本は近代的な自動車製造技術を短時間で学び自動車産業の基礎を瞬く間に手に入れることが出来、その後25年足らずで技術力で世界の頂点の仲間入りを果たした。
こうして先進国の名車と戦後最初の国産車の写真を見比べると、ダットサンのデザインは痩せている。いかにも貧しい。理由は、木型を作る際、木材の量をケチっている? としか思えない平板な造形だからだ。無理もない、良質な木材も無く困窮生活を強いられていた設計者にヘンリーJのような豊満な、木材をふんだんに使ったボディ木型をイメージするのは不可能だったに違いない。
それに、パネルの強度を増すにはプレスによるキャラクターラインが有効なのだが、そうした工夫もされていないようだ。とにかく悪路をまともに走れる車がようやく量産できるようになった、そんな時代だったのである。
ここで木型というワードに触れておこう。当時の自動車製造法はデザインモデルを木材で作っていた。部位によっては主要な断面のみの場合もあった。また金型で打ち出したパーツは精度が悪かったため、改めて木型に合わせて形状をチェックし必要があれば修正していたのだ。
アメリカからクレイモデル技術が導入されたのは1960年代になってからで、急速にデザインが進歩したのはクレイ(特殊粘土)のおかげだといっても過言ではない。
次回は、いよいよ歴史に残るカーデザインを取り上げることにしたい。
おまけの豆知識by Ken
1953年の出来事……当時の自民党幹事長だった佐藤栄作(のちの首相)が造船疑獄と呼ばれる汚職事件で、検察が逮捕しようとしたが、法務大臣の犬養健(犬養毅の子息)が国会開催中は逮捕出来ないという判断を下し、世の中に政治に対する不信感が強まった。また朝鮮戦争が終結し特需がなくなり国民が深刻な不景気にあえぐ時代だった……、時代の暗さが現在と似ていますね。
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