東レ:ナノ構造制御技術による塗布型半導体カーボンナノチューブの移動度155cm2/Vsを達成
- 2019/02/10
- Motor Fan illustrated編集部
東レは、産業技術総合研究所、東京大学と共同で、精密に構造制御された半導体型単層カーボンナノチューブ(*1)(CNT)を高純度に取り出す技術に取り組んでいる。この度、塗布型半導体としては世界最高となる移動度(*2)155 cm2/Vsを達成した。
今回の移動度向上は、塗布型半導体の特徴である高性能と低コストを生かすことで通信距離が長いUHF帯RFIDを用いて、複数のタグを一度に読み取る性能が向上し、より実用化へ一歩近づく技術。東レは、この素材を活かし、RFIDをはじめとする様々なIoTデバイスや、呼気中に含まれる微少量の有機成分を検出することによる疾病予兆検知、簡易的な環境モニタリングが可能な高感度センサーなどの分野をターゲットに一層の技術確立を目指す。
単層CNTは、半導体型が3分の2、金属型が3分の1の混合物として合成されるが、この半導体型CNTの1本1本は、10,000cm2/Vs以上の高い移動度を有することが知られている。一方、塗布方法で形成したCNT膜では、CNT同士の接触点に電気的抵抗が存在するため、CNT膜の移動度はCNT単体の100分の1以下に留まっていた。
東レが昨年開発した単層型CNTは、従来比長さが1.5倍、直径分布が1/2、移動度108cm2/Vsを達成していたが、直径分布が揃った単層CNTは凝集しやすく、半導体型と金属型の分離が不十分となる問題があった。
今回、高度に構造制御されたCNTを1本1本に解きほぐし均一に分散する技術と、半導体型CNTを高純度に取り出す技術を深化させ、狭い直径分布を保ったままCNTの半導体純度を従来比5%以上高めることに成功した。この高純度半導体型CNTと東レが保有する高性能半導体ポリマー(*3)を複合化することで、塗布型半導体としては世界最高レベルを更新する移動度155cm2/Vsを達成した。
今回開発した塗布型半導体は、最新の有機ELディスプレイにも使用されている酸化物半導体IGZO(*4)を上回る性能であり、無線通信速度の向上や回路の低消費電力化、センサー高感度化など、塗布型デバイスの性能向上に繋がるものと考えている。なお、本研究の一部は、NEDO「エネルギー・環境新技術先導プログラム」の委託事業の一環として実施したもの。
*1 カーボンナノチューブ:
炭素原子で構成される直径がナノメートルサイズの物質。単層、二層、多層のものがある。
平面のグラフェンシートを丸めて円筒(チューブ)状にした構造をしているが、通常の合成方法ではその丸め方がランダムに行われるため、半導体型が3分の2、金属型が3分の1の混合物となる。
*2 移動度:
半導体中の正孔・電子などのキャリアの動きやすさの指標。移動度が大きいと高速応答が可能になり、またTFTサイズを小さくできるため微細化にも有利となる。
*3 高性能半導体ポリマー:
CNTに表面に付着しやすく、CNTを均一分散させる機能を持つ。純度が高く、構造が揃ったCNTは凝集する力が強く均一な分散が困難となる。東レは、半導体ポリマーを単層CNTの表面に付着させることで、導電性を阻害することなく単層CNTの凝集を抑制できることを世界に先駆けて見出した。
*4 IGZO:
酸化物半導体の一種。低消費電力に特長があり、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどに使用されている。
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