軽微な損傷の修理が困難になり修理費や自動車保険料の増加につながる可能性も 国内鉄鋼メーカー大手3社が提案する軽量・低コストなマルチマテリアルドア。そのメリットと課題は?
- 2020/03/31
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遠藤正賢
CO2排出量規制や燃費規制が世界中で強化されつつある一方、CASE技術の進化・普及、また居住性や快適性、走る・曲がる・止まるといった商品力の競争激化も相まって、軽量化のニーズは車格やカテゴリーを問わず強まっている。
軽量化を抜本的に行う手法としては、軽く強い材料への置き換え(材料置換)が挙げられるものの、そうした材料は材料・製造コストとも高い傾向にあり、安価な軽自動車やコンパクトカーに採用するのは容易ではない。
そこで、鉄鋼メーカーは近年、安価な鉄鋼を活用しつつ他の素材と組み合わせることで、コスト上昇を抑えながら軽量化を実現する「マルチマテリアルドア」を開発。提案活動を強化している。
ここでは国内鉄鋼メーカー大手3社、JFEスチール、神戸製鋼所、日本製鉄が近年の自動車関連展示会に参考出品したものを振り返りつつ、それらの課題を探る。
REPORT●遠藤正賢(Masakatsu ENDO)
PHOTO●遠藤正賢、JFEスチール、神戸製鋼所、日本製鉄
JFEスチールの「鋼板×繊維強化樹脂マルチマテリアルドアパネル」は、スチール製アウターパネルの裏にCFRPまたはGFRPの骨組みを入れることで補強し、板厚を1ゲージ下げて軽量化しながら張り剛性もアップする、というもの。
フォルクスワーゲン・ポロのフロントドアをベースとした試作品では、鋼板のみを用いた純正の0.6mmt品に対し板厚を0.5mmtとしながら、張り剛性は約50Nmmから約80Nmmへと61%高く、重量は3817gから3367gへと12%軽くしている。
神戸製鋼所の「アルミ/鋼マルチマテリアル製ドア」は、6000系のアルミ合金を主体としながら、サッシュフレームをスチール製に変更。インナーパネルをオールアルミ製の1.2~1.6mmに対し0.8mmまで薄板化しつつ、歩留まり率を約50%に対し約70%へ改善する。
同社は、これによる軽量化コストは500円/kg以下で、オールアルミ製に対し約60%低く、かつ鋼板ドアに対し約7kg/枚・40%軽量できると試算。アルミ合金の使用比率が高くともコストパフォーマンスが高いことを訴求している。
日本製鉄の「鋼製超軽量ドアコンセプト」は、アウターパネルに440MPa鋼板を用いて薄板化しつつ、発泡樹脂シートをその内側に貼付し、さらに格子状のスチール製骨組みを追加。スチールを主体としながら従来品より24%軽量化しつつ、アルミ合金製ドアと同等の重量、張り剛性、耐デント性を確保する。
なお、従来品に対しサイドインパクトビームを省略する一方、骨組みに1.5GPa鋼板を用いることで、側面衝突時にドアが変形しキャビンへ侵入するのを、線ではなく面で防ぐ狙いも見受けられる。
以上のように、3社ともアプローチは異なるものの、コスト上昇を抑えながらアウターパネルを薄板化=軽量化するのみならず、張り剛性や歩留まり率の向上といった付加価値も与えていることがうかがえる。
その一方、3社の提案に共通する課題も透けて見える。それは、傷や凹みといった軽微な損傷の修理が困難になることだ。
アウターパネルの板厚が薄くなっているうえ、JFEスチールと日本製鉄のものは骨組み、神戸製鋼所のものはアウターパネル自体が熱を加えすぎると強度が落ちやすい素材のため、傷などの研磨や塗膜の剥離、引き出し鈑金におけるスタッド溶着などの際に、温度管理がシビアになる。
JFEスチールと日本製鉄のものはさらに、細かな骨組みがあることで、裏側からハンマーなどのツールを当てて凹みを修理するのも困難だ。
しかもドアパネルは、車両単体あるいは車両同士の事故はもちろん、乗降時にものを当てたり、開閉時にエッジの損傷やいわゆる「ドアパンチ」をしやすいなど、大小様々な損傷のリスクが常につきまとう部位。それが容易に修理できないとなれば、損傷したら交換か放置の二択になる。
そして交換の場合は経済的、放置の場合は心理的ダメージが、そのクルマのオーナーに重くのしかかる。また従来品より多少なりとも部品代・修理費が高いということは、それが自動車保険の保険料にも反映され、維持費の増大にもつながる可能性もある。
高級車であればオーナーのコスト許容度も高くなるためこうした問題も表面化しにくいが、軽自動車やコンパクトカーとなればそうはいかない。実用化の暁には、リペアラビリティ(修理しやすさ)が現状より改善されていることを期待したい。
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