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ホンダが巨大風洞を新設する理由は空気抵抗低減のためだけではない。目的はWLTPだ ホンダの新風洞 3つ目の風洞の理由は空力開発だけではない。WLTP、燃費測定のため

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ホンダは2020年に稼動した新しい風洞を公開した。3基めの風洞である。この風洞を作った背景にあるのは、エアロダイナミクだけでなく、「WLTP」への対応があった。つまり「燃費」のための風洞だ。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO & FIGURE◎Honda

ホンダ3基めの風洞の意味

コントロールルームから「プレナム」と呼ぶ気流室を望む。
HRD Sakuraの風洞では2012年頃から量産車の開発も行なっていたが、2020年6月から新ムービングベルト風洞での開発に移行。

ホンダは2020年に稼動した新しい風洞を公開した。実車風洞としては3基目になり、1基目はものづくりセンター栃木内で1991年から稼動。固定床の風洞で、現在は風切り音の開発に使用されている。2基目はF1パワーユニットの開発拠点としても機能するHRD Sakuraにあり、2009年に稼動。路面やタイヤの動きを再現できるムービングベルト付きで、SUPER GT GT500などのレース車両の空力開発に用いている(もともとはF1の空力開発を視野に入れた施設だったが、2008年シーズン限りで撤退したため利用されることはなかった)。

WLTPでは、それまで実走で行なっていた空気抵抗計測を風洞での計測に置き換えることが認められている。気温や風速などの外乱に左右されにくいので、風洞のほうが精度高く計測できる。

3基目の実車風洞は、ものづくりセンター栃木内に建設された。ムービングベルト付きで、6月から開発に用いている。それまではSakuraの風洞でレース車両の開発と並行して量産車の開発を行なっていたが、量産車専用の風洞が必要になり、新設したというわけだ。なぜ、量産車専用の風洞が必要になったのか。「大きな理由はWLTPです」と担当技術者は説明する。

WLTPはWorld harmonized Light vehicle Test Procedureの略で、2018年に施行された世界統一の新しい燃費測定基準である。

年間を通じて気流室の温度の温度を一定に保つため、風洞は二重構造になっている。

「JC08とWLTPとで選択肢がありますが、ホンダは2018年からWLTPでやっていくことに決めました。メインはヨーロッパですが、世界中でWLTPを認可手法として適用しています。来年からは中国が適用し、韓国やインドも適用する話が出ています。残るは北米くらいですが、少なくとも中国が入ってくることで、全世界の何百万台でこの認可を通さなければならない。となると、風洞テストの時間がかなり必要になってきます」

燃費を測定するのになぜ風洞?

写真の奥から手前に空気が流れる。赤いナセルに出力2.5メガワットの電気モーターが収まっている。

「今まではテストコースで実走し、コースティングダウンというモードでクルマの走行抵抗を求めなければなりませんでした。WLTPでは代表置換が許可されるようになり、走行抵抗の空力の部分は風洞でとっていいことになりました。転がり抵抗はシャシーダイナモでとります。この両者を足したものを走行抵抗の認定値として申請できることになりました。したがって、風洞のテスト時間を大幅に増やさなければならず、新しい風洞を建てることになりました」

これまでのように空気抵抗低減や冷却の最適化などを目的とした用途でも使うが、WLTPへの対応が風洞新設の大きな原動力になっている。こうした背景から、新ムービングベルト風洞は開発効率を向上させるための工夫が施されている。Sakuraのムービングベルト風洞はレース車両の開発を主目的に設計されたため1ベルトだが、栃木の新ムービングベルト風洞は量産車に特化したため、5ベルトとした。

新しい風洞は車両の固定や部品交換を効率よく行なうため、5ベルトを採用した。床下と4輪それぞれにベルトを設置。

1ベルトは幅の広いベルトの上に車両全体を載せる。いっぽう、5ベルトの場合、メインのベルトはフロアの下を通り、左右のタイヤはベルトをまたぐ格好。各タイヤに独立したベルトが当てがわれている。1ベルトの場合、車両を何らかの方法で固定しないと、ベルトの動きにつれて動いてしまう。一般的には、ベルトの外側(左右)に設置したポストから伸ばした棒で前後のアクスルを固定し、車両が動かないようにする。

オートメーテッド・ビークル・アタッチメントが自動的に車体側(サイドシル部前後左右4点)の固定点を探し、床側に固定する。
床下のベルトとタイヤのベルトは同速で動く。
車両のホイールベースとトレッドに合わせ、タイヤ側ベルトの位置を調整できるようになっている。

「量産車の場合は床下に空力パーツがいっぱいついています。タイヤのプロファイルひとつで空力性能が変わったりもします。ベルトの上でジャッキアップすることはできないので、いったんベルトから降ろしてジャッキアップし、タイヤや床下パーツを交換して再度ベルトに載せ、アクスルを固定しなおす必要があります。ひとつパーツを交換するのに1時間くらいかかることもあります」

つまり、効率が悪い。1ベルトで計測を行なう際は、ベルト側からタイヤを回すことになるので、トランスミッションを壊さないようドライブシャフトを外す必要もある。エンジンをかけた状態であれば潤滑ができるので問題ないが、すると今度は排ガスの処理が問題になる。

1ベルトの場合は、床に設置したアタッチメントで車両を支える。オートメーテッド・ビークル・アタッチメント(AVA)と呼ぶ装置がそれで、車体側に付いているアタッチメントを自動で探し、ローリングロード上に固定するシステムだ。AVAで固定することで、タイヤが回ってもクルマは動かない。

EGR(排ガス除去)を世界初採用。空気の流れを邪魔しないよう、リヤタイヤの陰にかくれるようにホースを配置している。

ドライブシャフトも外さなくていい。EGRというシステムを世界で初めて採用したからだ。排ガス再還流の意味のEGR(Exhaust Gas Recirculation)ではなく、Exhaust Gas Removal(排ガス除去)の略である。テールパイプにホースをつなぎ、計測する空気の流れに影響を与えないようリヤタイヤの陰に隠れる位置でターンテーブルの下に導いている。設備側のブロワーで排気を引っ張り出し、大気に放出する仕組みだ。エンジンをかけ、シフトをニュートラルにした状態で計測する。

施設の構造も、新ムービングベルト風洞の特徴だ。外気温に応じて風洞を流れる空気の温度が変動しては、正確な計測はできない。そこで、風洞を二重構造とし、外壁と内壁に挟まれた空間を空調で管理することにより、年間を通じて一定の温度にコントロールできるようにした。

フィットの開発はHRD Sakuraのムービングベルト風洞で行なった。ベルト脇の黒いポストから、前後のアクスルに固定用の棒が伸びているのが見える。
フィットの空力開発上のポイントは、Aピラー、ドアミラー、リヤスポイラーの3点。デザインと性能の整合性を図るのに苦労したという。

出力2.5メガワットの電気モーターが最高187rpmで回転し、最高で200km/h+αに相当する風を起こすという。新ムービングベルト風洞は、車両開発の効率化を約束する巨大な最新設備だ。

ターンテーブルを回転させ、ヨーをつけた状態で計測することもできる。
奥の壁際に見える黒い装置はレイクと呼ぶ計測装置。車両の背面や側面を移動させながら計測し、計測データを用いて空気の流れを可視化する。
プレナムを抜けた空気は写真奥に向かって流れていく。壁や天井には吸音材が貼られている。
18枚あるブレード部の直径は9m。最高回転数は187rpmで、200km/h超に相当する風を起こす。
カーボン製ブレードと外枠の間には、指すら入らないほどの狭い隙間しかない。

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