内燃機関超基礎講座 | 直6でもV8でもFFになる「エンジン横置き」流行の理由
- 2020/11/12
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牧野 茂雄
いまやフォード・エクスプローラーのような大型SUVでさえモノコックボディのFFである。世界中で1年間に生産される約9000万台の自動車のうち8割以上が、FFまたはFFベースのAWD(全輪駆動)である。なぜFFは、そのなかでもとくにエンジン横置きFFが世界的に流行したのだろうか。おもな要因とその背景を考えてみる。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
1980年代半ばにフォードは、インターミディエイトクラスのトーラスをV6エンジン横置きのFF車として発売した。90年前後にはGMがV8エンジン搭載のフルサイズクラスまでをFF化し、いずれFRはトラック系を除いて消滅するのではないかと言われた。かつて英国でFF初期の名車「ミニ」が生まれた背景は、56年に勃発したスエズ動乱による石油価格の高騰だった。73年と79年に世界を二度襲ったオイルショックは日本にもFF車を産んだ。自動車の小型軽量化、それによる燃料消費の節約にはFF化が必須だと思われた時代を自動車産業界は経験した。
Cセグメントまでの乗用車は80年代に多くがFF化された。CVJ(等速ジョイント)の技術的進歩と量産によるコスト低減がプロペラシャフトとリヤアクスルに代わる部分の原価を圧縮し、最初のうちは高かったFF車の製造原価をみるみる落としていった。全長を短くしても室内の広さは変わらない、あるいは全長を保ったままであればもっと広い室内を得られる。居住性でのメリットが初期FFの訴求力だった。
それと重量、効率面のメリットである。FRではエンジンの回転を車輪の回転方向に90度変向させるためハイポイドギヤが必須である。この製造コストは数ある単品部品のなかではもっとも高い部類に入り、同時に重量がある。後輪に駆動力を伝達するプロペラシャフトも必須だ。これらがなくなれば軽くなる。車室中央のフロアトンネルも不要になる。ハイポイドギヤでロスしていた3〜4%の駆動力を取り返せる。横置きFFがもてはやされた理由はこれらである。
90年代に入ると衝突安全性の向上という課題が自動車産業に突きつけられる。車体前部にクラッシャブルゾーン(つぶれしろ)を設け、この部分を潰すことで衝突エネルギーを吸収する設計術が急速に進歩した。その先鞭をつけたのは91年発表のボルボ850であり、横置き5気筒エンジンで前輪を駆動することでクラッシャブルゾーンを無理なく設計していた。その後ボルボはFR車を引退させ全ラインアップをFF化する。その過程で直6エンジン横置きという前代未聞のレイアウトを産んだ。補機も含めたエンジン前後長を450mmに抑えるためV型エンジンを捨てたためだ。同時に排気量を補うための低過給圧ターボを組み合わせ、現在の過給ダウンサイジングという流れにも先鞭をつけた。
プレミアムクラスのために6気筒以上のエンジンが必要と判断したときは、ヤマハ発動機にV8の設計と製造を委託した。こうした変遷は単に技術面だけの流れではない。ボルボは1990年代初頭にルノーとの合併を一旦は決めたものの、株主らの反対によってこれを撤回した。その後、業績好調だった98年にフォードがボルボを買収した。直5エンジンはフォードに供給することで生きながらえ、フォードとの関係からヤマハ製エンジンの調達を決めている。4気筒エンジンはマツダ設計フォード仕様を採用した。2010年にフォードから中国の吉利集団に売却された直後、エンジンを過給直4に絞ることを決めている。FF化とパワートレーン集約というテーマでボルボ・カーズ社を見ると非常に興味深い。
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衝突安全性の問題は、FR車が直6エンジンを捨てる理由にもなった。90年代末には直6からV6への転換が一気に進んだ。パワートレーンとしてのV6は、縦置きでも横置きでも体積はほぼ同じであり、90年代末に日産はFFとFRのV6搭載モデルのプラットフォーム設計を統合している。初代ティアナとV35スカイラインのボディ骨格はほぼ共通になった。そうかと思うと80年代にV8エンジン横置きFFを設計したGMはFRに回帰し、FRという方式にプレミアム感を持たせた。一方ボルボは、05年になってSUVのXC90にV8エンジンを横置き搭載する。このあたりの事情は各社それぞれだった。
FF化の理由は「効率、重量、コスト」に集約されるだろう。この3つの視点で自社の商品を検証した結果、各社が長期戦略としてFFを選択した。その傾向が現在も続いている。同時に、ある量を超えたところでFF用の部品単価は劇的に安くなり、逆にFR用部品が高騰した。ごく自然な数の理論である。
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