内燃機関超基礎講座 | 同じエンジンの縦と横[トヨタ2AR-FXE/2AR-FSE]何が違うのか、どこを変えたのか。
- 2020/11/22
- Motor Fan illustrated編集部

同じエンジン型式で、FF用の横置きとFR用の縦置きを作り分ける。カムリとクラウンという、特殊でも何でもない主力車種に横置き・縦置きエンジンを使い分けるトヨタの場合、そこにどんな技術と内情が潜んでいるのだろうか。

横置きの2AR-FXEと縦置きの2AR-FSEをそれぞれ搭載状態で上側と下側から見た比較。上面視では横が縦になったくらいしか違いがわからないが、下面に移ると相当な違いがあるのがわかる。
FXEは前方排気のため排気管がエンジンの真下を通り抜けるように配置されているのに対し、FSEではエンジンと排気管の干渉はない。その代わり前引きのタイロッドとステアリングラックがエンジンの前部下側を横断している。そのためオイルパンの位置がFXEとFSEでは異なる。
エンジンとサスペンションを支持するサブフレーム(クロスメンバー)はプラットフォームの違いそのままに異なっている。クラウンの場合、2WDと4WDでもその形状は違う。
水流れはFXEがエンジンの前(右側)から後ろ(左側)に流すのに対し、FSEでは前から入れて前に出す。FXEは12.5°前傾しているが、FSEは垂直配置(1.9°前上がり配置)のため、オイル流路は若干変えてある。FSEの吸気系レイアウト(エアクリーナーからインダクションボックス、スロットルまで)はV6と基本的に同じ。低速はモーターで走行するため、低回転でのエンジントルク特性はほとんど考慮しなくて済むため。実車搭載テストでもV6と直4でエアフローを変える必要はなかったという。

上で示した通り、FXEでは排気管を、FSEではステアリングラックを避けるため、オイルパンの位置を変えている。AR系ではオイルパンの中に二次バランサーを置いているため、必然的にバランサーの配置が変わる。バランサーを駆動するための出力を、FXEではクランクシャフトの3番カウンターから取り出しているのに対し、FSEでは6番から取り出す。
厳密に言えば出力位置が違えば振動特性も変わるが、問題になりやすいのはギヤのガタやノイズで、それらはAZ系から採用されているバランサー側入力ギヤの樹脂化(カウンターギヤも)によって問題ないレベルに抑えられている。ちなみに二次バランサーの位置はメーカーによって、エンジンの両側にあったりカムシャフト側にあったり、平行配置あり段違い配置ありと様々だが、計算上はどこに置いても構わないという。ただし、エンジンの中心に収めて、出力はクランクセンターから取り出すというのは大前提。現実にはそう上手くバランサーを収める場所はないから、搭載要件の中でギリギリまで真ん中に寄せる工夫をすることになる。






FSEはFXEと同じ生産ラインを流すため、シリンダーブロックはほぼ同一、シリンダーヘッドも腰下ほど大きな違いはない。専ら冷却水とオイル、ブローバイの流路変更と、マウント用のボスの変更が主なところ。エアフローについても前記した通りハイブリッドであることから同じと考えてよい。
エキゾーストポートに変更はなく、排気脈動の調整で触媒とマフラーの位置を変えたくらい。だがFSEは燃料供給がポート噴射と筒内直噴併用のD-4Sを採用することになったため、そのための改変が多岐に渡っている。直噴インジェクターの取付だけではなく、ポート噴射用インジェクターの位置も変更されたため、インテークマニフォールドの形状も変わった。また、直噴化に伴う圧縮比の変更から燃焼室形状にも手が加えられている(当然ピストン冠面形状も変更)。
一番の難点は高圧燃料ポンプの配置で、生産ラインの変更なしに配置できる位置はヘッド上部なのだが、衝突安全対策でボンネットとヘッドの間の空間はほとんどないに等しい。何とか収められたのは設計面だけでなく、サプライヤーの協力もあったことを窺わせる。

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