NEDO、熊本大学:人の皮膚感覚と同等の性能を有するロボット皮膚センサーを開発
- 2019/10/10
- Motor Fan illustrated編集部
NEDOは「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」に取り組んでおり、今般、NEDOと熊本大学は、人との物理的な接触を伴う作業を行うロボットの安全で快適な動作に必要な、人の皮膚感覚と同等の性能を有するロボット皮膚センサーを開発した。
本開発では、従来のスプレー噴霧技術を改良して、長時間のスプレー噴霧技術やスプレーガン自動駆動システムを確立し、均一で再現性の良い大面積の圧電膜を成膜することに成功。さまざまな形状・サイズのロボット表面に圧電感圧センサーをスプレー塗布することにより、皮膚センサーの作製が実現可能となった。
本センサーの搭載により、人間協働ロボットの安全で快適な動作が可能となることで、社会実装の可能性が高まった。また、この技術を応用して、モバイル機器や日用品、自動車、航空機の翼など、さまざまな形状・サイズの対象表面に圧電感圧センサーをスプレー塗布することにより、表面圧分布や振動の測定、また、作製される圧電膜の耐熱衝撃性を活かし、超高温下であっても特殊形状を対象とした超音波非破壊検査が可能となる。
概要
人の生活・作業環境に入り込み、人との物理的な接触を伴う作業を行うロボットが、人に対して安全で快適な動作を実現するためには、人と同じように全身を覆う皮膚センサーが必要だ。ロボット用皮膚センサーの実現に向けては、主にシート状に成形した圧電感圧センサーをロボットに貼り付ける手法が提案されているが、大面積の自由曲面形状を隙間なく被覆するためには柔軟性や伸縮性が不足していることが課題となっている。
この課題を解決するため、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と熊本大学は、2015年度から「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」事業※1で、力や振動と電気信号を相互に変換する圧電膜をスプレー塗布により作製するゾルゲルスプレー法※2をコア技術とした塗装プロセスを用いて、ロボット用皮膚センサーなど曲面に密着する圧電感圧センサーの作製技術の確立と作製される圧電膜のフレキシブル性・耐高温性を活用した応用に取り組んでいる。
そして今般、従来のゾルゲルスプレー法を改良し、連続塗布プロセスとスプレーガン自動駆動システムを確立、均一で再現性の良い大面積の圧電膜を作製することに成功した(図1)。さらに、圧電感圧センサーからの信号を安定して取得する回路システムを開発し、人の皮膚と同程度の空間分解能や周波数感度を有することを確認した。これらの成果は従来のロボット皮膚センサー技術の課題を解決し、人と同等の性能の皮膚感覚を持つロボットの実現に大きく貢献する。
本センサーの搭載により、人間協働ロボットの安全かつ快適な動作が可能となり、社会実装の可能性が高まった。この技術を応用して、モバイル機器や日用品、自動車、航空機の翼など、さまざまな形状・サイズの対象表面に圧電感圧センサーをスプレー塗布することにより、表面圧分布や振動を測定できる。また、ゾルゲルスプレー法で作製される圧電膜の耐熱衝撃性を活かし、超高温下であっても、大面積・特殊形状を対象とした超音波非破壊検査(肉厚・欠陥モニタリング)が可能になる。材料の完全非鉛化にも成功したため、人の皮膚表面に貼り付けて振動や生体信号取得のためのウェアラブル・フレキシブルセンサーとしての活用も期待できる。
今回の成果
【1】ゾルゲルスプレー法の連続塗布プロセスの確立
ゾルゲルスプレー法は主に超音波探傷用のトランスデューサー(交換器)作製のために用いられてきたため、従来のプロセスでは塗布可能面積が小さくロボットや、より大型の機器への適用ができなかった。そこでゾルゲルスプレー法の作製プロセスを大面積に拡張するための連続塗布プロセス(連続ゾルゲルスプレー法)を確立した。
この連続ゾルゲルスプレー法を自動コーティング装置に適用し、大面積でも均一な製膜が可能であることを実証した。今回確立した手法は、原則的に塗布対象の基材サイズの制約なく大面積へと拡張し均一塗布を実現できる(図2)。
【2】感圧センサー特性の実証
上記連続スプレー法プロセスで作製した圧電デバイスを用いて感圧特性の評価を実施した。今回、人の触覚で最も高精細な指先と同程度の1mmの空間分解能が実現可能であること、人の皮膚が知覚可能な数Hzから1kHzまでの振動を検出可能であり、また、平均感度が25mV/Nであること(図3)、人の皮膚の平均的な圧覚である数g重の荷重に対し十分な出力を示すことを実証した。
【3】圧力分布測定用センサーの作製プロセス実証
本事業が目指す高精細な圧力分布測定には高密度な電極・配線配置が必要となる。このような場合、一般的に図4のように縦・横方向に配置した電極配線パターンで圧電膜を挟むマトリクスアレイ構造を採用する。今回、下部電極パターンを付与した絶縁基板上への圧電膜塗布・焼成に成功。さらにこの圧電膜上に上部電極パターンを付与し上下電極の交点からの出力を取得することに成功した。
今後の予定
今後は、力分布の安定計測に向けて曲面への電極配置手法の確立に取り組み、ロボット皮膚センサーのほか、ボトルなどの把持状態の取得、航空機や自動車の車体表面の風圧分布測定などの用途開発を行っていく。また、本事業において、工業的に拡張可能なロボット皮膚センサー実現のための大面積・曲面塗布プロセスが確立され、ゾルゲルスプレー法を多様な用途へ事業化展開するための素子生産技術の目途が立ったことから、熊本大学は、ゾルゲルスプレー法で作製するセンサー(ゾルゲル複合体圧電センサー)の事業化を推進するための大学発ベンチャーである、CAST(熊本大学発ベンチャー認定)を9月26日に設立した。
なお、熊本大学CASTは、10月15日から18日まで幕張メッセで開催される「CEATEC 2019」のスタートアップ&ユニバーシティゾーンに出展し、今回の曲面塗布技術を用いたさまざまな形状の圧電デバイスやフレキシブル・薄型圧電センサー、生体の心拍・呼吸に連動した超音波エコー信号の取得、耐超高温超音波トランスデューサー(変換器)などのサンプル展示を行う。
※1 事業
事業名:次世代人工知能・ロボット中核技術開発/革新的ロボット要素技術分野/研究開発項目〔4〕革新的なセンシング技術(スーパーセンシング)
事業期間:2015年度から2019年度
※2 ゾルゲルスプレー法
圧電材料溶液と圧電セラミック粉体を混合した塗液をスプレー塗布し熱処理・分極工程を経て圧電膜を作製する手法。粉体の混合とスプレー塗布の効果により膜中に空孔を含むため、フレキシブルで熱衝撃に対しても壊れにくい特性を持つ。
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