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NEDO:移動情報の統合データ基盤「TralSARE」のβ版を開発

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図1 混雑ダッシュボード「PeopleFlow」の表示画面例

NEDOが進める「Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業」において、今回、MaaS Tech Japanは異なる交通事業者のシステムデータをシームレスに共有・分析できる移動情報統合データ基盤「TraISARE」(トレイザー)のβ版を開発した。併せて、ユーザビリティ評価の一環として混雑情報ダッシュボードを2021年4月22日から5月31日まで試験公開し、その有効性を検証した。

 このダッシュボードは、交通データと人流データを組み合わせることによって混雑情報の可視化や分析・予測を可能としたものだ。試験公開では駅周辺の混雑予測情報などを提供した結果、利用者が「混雑を避ける・軽減する移動」へと行動を変容させる効果が期待できることを確認した。今後、ユーザー評価のフィードバックやさまざまなデータホルダーとの共創を拡大させ、ニューノーマル時代における最適な移動に貢献するソリューション基盤の実現を目指す。

1. 概要

 政府は「Society 5.0」(※1)の実現に向け、IoTや人工知能(AI)などさまざまなテクノロジーによって新たな付加価値の創出や社会課題の解決を目指す「Connected Industries」政策を推進している。本政策が掲げる重点5分野の一つである「自動走行・モビリティサービス」分野では、多様なモビリティを一つのサービスとして統合するMaaS(Mobility as a Service)をはじめとする交通DX(※2)を実現することにより、都市における渋滞・混雑や過疎地域での公共交通維持、高齢者の運転免許返納といったさまざまな課題解決につながると期待されている。

 これを踏まえ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は業界横断型AIシステムと業界共用データ基盤の連携開発を支援する「Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業/業界横断型AIシステムと業界共用データ基盤の連携開発/移動情報統合データ基盤の構築」(※3)に取り組んでいる。この中で株式会社MaaS Tech Japanは異なる交通事業者のシステムデータをシームレスに共有・分析できる移動情報統合データ基盤「TraISARE」の開発を2019年度に開始しており、このたびβ版の開発を完了した。併せて、ユースケースの一つとして交通データと人流データを組み合わせた混雑情報ダッシュボードを2021年4月22日から5月31日まで試験公開し、その有効性を確認した。

2.「TralSARE」の概要

 今回NEDO事業でMaaS Tech Japanが開発した「TraISARE」は以下のデータと連携でき、これらの情報を蓄積することで現在の運行情報や混雑状況の可視化・分析、将来の予測シミュレーションなどさまざまな解析を可能としている。鉄道などの運行情報だけでなく、目的地のデータや人流データとも総合的に連携することで、包括的な移動情報の提供を目指す。
・鉄道やバス、タクシーなど多様なモビリティのデータ
・不動産や飲食、エネルギーなど交通以外の業種のデータ
・人流データ

図2 移動情報統合データ基盤「TralSARE」の概要

3. 混雑情報ダッシュボードの概要

 MaaS Tech Japanは「TraISARE」によるデータ利活用のユースケースの一例として、公共交通オープンデータ協議会(※4)による鉄道駅・路線データとゼンリンの「混雑統計」データ(※5)を組み合わせた混雑情報ダッシュボード「PeopleFlow」を開発した。一般的な混雑情報は定点観測のように特定エリアの人数データなどを元に提供されているが、「PeopleFlow」は人流データを「移動情報」として扱うことで混雑の流入経路を加味した分析を行い、より高精度の混雑予測情報を提供する。このように交通データと人流データを組み合わせる解析は、新たな試みである。

 本ダッシュボードの有効性を確認するため、2021年4月22日から5月31日まで特設サイトで試験公開したところ、交通事業者や自治体などさまざまなステークホルダーから問合せなどの反響があった。

 MaaS Tech Japanは同時に、調査条件に合致した首都圏エリア(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)在住の238名を対象にインターネット調査を行い、238名中の約8割にあたる194人が実際に「PeopleFlow」を利用したことを確認した。このうち時間帯の変更など混雑回避が見込めそうなユーザー群(44.3%)を詳細に分析したところ、「PeopleFlow」の混雑予想により55.8%のユーザーに移動時間を変更しようと考える意識の変容が生じ、そのうち95.8%のユーザーが実際に移動時間を変更したことが確認できた。

図3 「PeopleFlow」利用者の調査結果

4. 今後の予定

 MaaS Tech Japanは今回のユーザー評価を開発にフィードバックし、最適な移動提案が可能なデータ基盤構築を実現するため「TraISARE」の開発を進る。NEDOはMaaS Tech Japanとともに、さまざまな既存データホルダーとの共創を拡大させ、ニューノーマル時代の移動の再定義に貢献する交通版ソリューション開発に引き続き取り組んでいく。

※1 Society 5.0
第5期科学技術基本計画(2016年1月22日閣議決定)において、日本が目指すべき未来社会の姿として提唱された概念。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続くものとして、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、社会課題の早期解決と新産業の創出を両立する新たな社会を指す。

※2 交通DX
MaaSを始めとする、交通機関のデジタルトランスフォーメーション(DX)
<参考:「DX」の定義>
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

※3 助成事業
事業名:Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業/業界横断型AIシステムと業界共用データ基盤の連携開発/移動情報統合データ基盤の構築
助成先:MaaS Tech Japan
共同研究先:日本マイクロソフト、Colorkrew、ヴァル研究所
事業期間:2019年度~2021年度

※4 公共交通オープンデータ協議会
公共交通オープンデータ協議会は、公共交通事業者およびICT事業者など85団体(2021年2月1日現在)で構成されている産官学連携の団体。

※5 「混雑統計」データ
「混雑統計」データは、NTTドコモが提供するドコモ地図ナビサービス(地図アプリ・ご当地ガイド)など一部のアプリケーションの利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったデータ。位置情報は最短5分毎に測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。

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