キャデラックを侮るな! 欧州製SUVにも引けを取らない完成度。 【初試乗】キャデラックXT5 クロスオーバー
- 2017/11/04
- MotorFan編集部 野口 優
今や欧州製SUVが人気を博し、それがベーシックとなる中、キャデラックは最新SUVの「XT5クロスオーバー」を日本に導入した。アメリカ車とは思えないリアリティあるドライブフィールをはじめ、その質感など、実のところヨーロッパ車と大差ない出来であることはあまり知られていない。そんな面も含めて、この上陸したての「XT5」の実情をレポートしたい。
REPORT◎野口 優(Masaru NOGUCHI)
PHOTO◎市 健治(Kenji ICHI)
昔とは違う、最新キャデラック。
もし、あなたが“欧州車こそ最高!”と思っているなら、一度その概念を取り払い、今だからこそもっとピュアな目で見ていただきたい。というのも人間というのは、意外とのめり引きずりやすい生きもので、1980〜90年代に見られた、欧州車至上主義が未だに日本では当たり前のように思われているからだ。もちろん、それに異論はない。しかし、もうそろそろ……という時期に来ているように思えてならないのは確かだろう。
そのきっかけとなったのが、アメリカを代表するキャデラックという存在。それまで私自身もヨーロッパ車ファンで、すべてとまで行かないまでも多くの最新欧州車に乗るたびに感銘を受けてしまうことが多かった。だが、それが一転したのは、久々にキャデラックCTSの現行型を乗ったときだった。欧州車にも引けを取らないドライブフィールをもち、そして極度な演出など見られない適度な加速性能、さらに上質な質感に、エッジの効いたエクステリアデザインなど、その昔のような“デカくて、緩くて、どんくさい”面など一切見られないことに、むしろ新鮮さを覚えたからだ。
と、前置きが長くなってしまったが、何が言いたいのかといえば、今のキャデラックを先入観だけで判断してはいけないということ。つまり、欧州市場をも意識して造られているキャデラックの最新モデル群は、たとえヨーロッパ車から乗り換えてもなんら不満はないどころか、久々に良い出会いに巡り会えたと思えるほど、違和感なく付き合えると思う。それは、今回上陸したばかりのSUV「XT5クロスオーバー」でも同じこと。その実情をレポートしたい。
高い質感と、ちょうど良い性能。
この「XT5クロスオーバー」は、基本的にクラスレス的な考えで、絶妙なボディサイズを狙っているのは確かだ。BMWで例えるなら、X3とX5のちょうど中間に位置するくらいだから、室内空間などは狭すぎず広すぎない、ちょうどいいサイズ感をもっている。インテリアの質感も欧州勢と比較しても遜色ない仕上がりで、本革を基本にして一部にカーボンやアルカンターラを用いるなど、高級車としての条件と雰囲気を満たしている。ACCやレーンキープなどの安全支援技術も搭載しているし、インフォテイメントシステムもApple CarPlayやAndroid Autoにも対応するなど、多様化する機能性への対応も申し分ない。
パワートレインは、自然吸気の3.6ℓ V型6気筒エンジンに8速ATを組み合わせる。それをAWDで駆動するが、基本のツーリングモードでは2WD(フロント駆動)で走行するようセットされているから、環境性能に対する意識も高いため、燃費性能も悪くない。最高出力314ps、最大トルクは365Nmと、このクラスとしては驚くほどの数値ではないというのが本音だが、しかし力不足に感じることもない、実に絶妙なところを狙ってきている。というのは、このV6自然吸気エンジンのセッティングが見事だからである。
過剰な演出がない走行性こそ本質。
まず、走りはじめに思うのは、アクセルの“ツキ”。発進時にアクセルを深く踏み込んでも過剰な演出が見られないのが良い。最近のドイツ勢など、この辺りに“スポーティ感”を演出するために、あえてツキを良くして魅力的に見せようとしているが、実のところ面白みはあるかもしれないが、実用的とは言い難い。その点このXT5は、乗りやすさを重視しているのは明らかで、素直にスタートするから街中での扱いやすさが際立つ。しかも、こうしてゆっくりと流していてもタイヤの接地感が常に伝わってくるため、実際のボディサイズよりもひと回りほどコンパクトに感じられるから、乗っていて思いのほか楽にドライブできる。
それは高速道を走行しても同様で、中高速域においても滑らかに加速する。速くもないが遅いとも思わない、本当に“ちょうど良い”を実現していると思う。乗り味に関しては街乗りでもそうだが、やや硬さを伴うものの、しかし、これこそリアリティがあって好感が持てる理由でもある。欧州車的にも引けを取らないと思うのは特にこの点で、走るという行為の実感を与えるには極めて重要なことだから、多少硬いほうが良いのは確かだ。もっとも今回の試乗車のグレードが“プラチナム”で20インチを装着していることもあるが、逆に考えれば、このサイズでこの乗り心地を確保しているというのは、むしろ褒めるに値するほど。この可変ダンパーは欧州勢を意識してセッティングされているだけに綿密に計算されているのは間違いない。
シャシー性能も欧州車並み!
だからスポーツモードに選択し、それなりの速度で飛ばしてもSUVであるにもかかわらず4WDとなることもあって不安定な面も一切見せない。ステアフィールは若干重くなり、足まわりも引き締まるのだが、ノーマルモードから劇的に硬くなったようには思うことはなかった。カーブでも適度なロール量でねばる印象だ。路面のアンジュレーションにも瞬時に反応することもあり、ちょっと攻めるくらいのレベルなら乗り心地が悪くなるようなこともない。ハンドリングの応答性も欧州車的でゆるく感じることもないし、意地悪く切り足しなど試みても素直についてくるからシャシーの出来は相当良いと断言できる。
ちなみに、この試乗の帰路、ちょっと楽するためもあって、ACC=アダプティブクルーズコントロールとレーンキープ機能を試してみたが、その精度はほぼ信頼できるレベルにあるのは確認できた。その“ほぼ”というのは、時々、車線の判断を見誤ることがあったからだが、それでもこの程度であれば、合格レベルにあると言えるし、追従に関しては申し分ないから、頼りにして問題ないと思う。
是非とも試乗してほしい1台。
それにしても最近のSUVの多くが丸み帯びた外観であることに対して、キャデラックXT5は、エッジの効いたシャープなデザインと巨大なフロントグリルで市場に送り込んできたことには、むしろ感心する。素直に“良いじゃん!”と思えたのは本当だ。迫力もあるし、サイズ感もいい。この質感にしては買い得感が高いと思う。これで右ハンドルの設定さえあれば、メジャーリーグに進出できると思うのだが、逆に捉えれば、当たり前の存在にならないからこそ、魅力が増すという見方もできる。いずれにしても、いまSUVの購入を考えている向きには、一度このXT5の試乗をお勧めしたい。きっと多くの人が“意外な発見”と感じるに違いない。
【SPECIFICATIONS】
キャデラック XT5 クロスオーバー プラチナム
■ボディサイズ:全長4825×全幅1915×全高1700㎜ ホイールベース:2860㎜ ■車両重量:1990㎏ ■エンジン:V型6気筒DOHC 総排気量:3649cc 最高出力:231kW(314ps)/6700rpm 最大トルク:368Nm/5000rpm ■トランスミッション:8速AT ■駆動方式:AWD ■サスペンション形式:Fマクファーソンストラット Rマルチリンク ■タイヤサイズ:235/55R20 ■車両本体価格:754万9200円(税込)《XT5 ラグジュアリー:668万5200円》
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