レクサスLS500hとLS500 フラッグシップに相応しい進化のスピード 乗り心地と静粛性は「原点回帰」
- 2021/01/14
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世良耕太
レクサスのフラッグシップセダン、LSが改良を受けた。試乗したのは、ハイブリッドのLS500hとV6ツインターボのLS500の最上級グレード、EXCUTIVEである。「Always On」の合言葉で開発されているレクサス、そのフラッグシップたるLSの仕上がりは如何に?
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
LSの原点回帰 乗り心地と静粛性が向上した
レクサスは2020年11月19日にフラッグシップセダンのLSを改良した。改良のベースになる現行(5代目)LSは2017年にデビューし、18年と19年に一部改良を行なっている。製品企画を担当した技術者のひとりは、「1989年に発売した初代のクルマづくりに思いを馳せながら、新しいLSを原点回帰と位置づけ、乗り心地と静粛性の向上に努めた」と説明した。
現在のレクサスは「Always On」の合言葉で開発を進めているのだという。通常はフルモデルチェンジのタイミングで投入するような大がかりな仕様変更であっても、「改良」のタイミングで積極的に投入していくスタンスだ。クルマの動きだけでなく、開発も「アジャイル(俊敏)」にするのが、現在のレクサスだ。
今回は改良版のLSだけでなく、LX570やES300h、LC500コンバーチブルにRC F、IS300にIS350と、多くのレクサスに触れることができた。それぞれに際立った部分もあるが、総合的に判断すればLSが頂点に立つ。いや、別格だ。LSは3.5ℓV6自然吸気エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド仕様のLS500hと、3.5ℓV6ツインターボエンジンに10速ATを組み合わせたガソリンエンジン仕様のLS500に乗った。どちらも最上級グレードのEXECUTIVE(エグゼクティブ)だ。
LS500 3.5ℓV型6気筒DOHCターボ
LS500h 3.5ℓV型6気筒DOHC
ハイブリッドもガソリンターボも静かで上質だが、軍配は僅差でハイブリッドに上がる。LSの良さは後席で味わうべきかもしれないが、運転していても楽しいし、ドライバーを喜ばせるような改良が施されている。LS500が搭載する3.5ℓV6ツインターボエンジンの最高出力と最大トルクに変更はない。最高出力は422ps(310kW)/6000rpm、最大トルクは600Nm/1600-4800rpmだ。開発陣が着目したのはピークではなく過渡だ。なぜなら、LSのユーザーは加速時の約90%がアクセル全開の半分程度の踏み込み量で走っているというビッグデータを得たからである。
レクサスは加速時にギヤ段を維持したまま加速できる力強さのことを「余裕加速度」と呼んでいるが、LS500では10速ATのシフトスケジュールを見直し、この余裕加速度を向上させた。アクセルを踏み増した直後にシフトダウンして加速するのではなく、ギヤ段を維持したまま過給圧の制御でトルクを増して加速する。ターボエンジンだからこその力の出し方で、これ、病みつきになる。ターボのレスポンスを向上させるため、負圧式だったウェイストゲートは電動式に変更。コンロッドは形状の最適化によってコンロッドボルトの系を縮小し、軽量化を図っている。
ハイブリッドは19年10月の一部改良でアクセルを半分程度踏んだときの振る舞いに関し、手を打っている。エンジンの音を抑えるためにモーターの働きを強め、エンジン回転を低めに保つようにした。また、加速の際は加速度が波打っていたというが、モーターの力を借りてフラットに伸びるようにしたという。
乗り心地に関しては、シートクッション(後述)の変更が目を引くが、「シートだけ変えれば乗り心地が良くなるとは考えていない」と、開発を担当した技術者は言う。
「ひと昔前は、それぞれの設計者が自分の部品だけを見ていました。シートはシート、タイヤはタイヤという考え方でした。(乗り心地にとって重要な)路面からの振動伝達経路はタイヤが出発点で、最後がシートです。振動が路面から人に伝わるまでの全部品について、それぞれどれだけの寄与度があって影響度があるのか。今はトータルでマネジメントしています。昔はすべての部品がいいものになっていればいいという考え方でした。野球でいえば、全員を4番バッターにする考えです」
しかし、4番バッターが9人集まっても強くないことがわかった。そこで、2番が弱いなら6番で補うというような、トータルマネジメントの考え方に変えたのだという。そのなかでシートは、これまでリヤにのみ採用していたカバーの深吊り構造を前席にも採用。新開発した低反発ウレタンと底付き低減パッドを全席に採用した(すべて採用しているのはEXECUTIVEのみ)。
「深吊り」とは、シートの縫い目を表皮の深い位置にもっていくことを指す。縫い目の位置が浅いと旋回時などでお尻が動いた際に表皮が張ってしまい、お尻が浮く。お尻が浮くと上半身が動いてぶれが大きくなってしまう。それを防ぐために、縫い目の位置を深くしたというわけだ。こうすることで表皮の長さに余裕ができ、お尻が動かなくなって、上半身が安定するというわけだ。
「低反発ウレタンはクルマに乗り込んで座った瞬間、我々は『座り心地』という表現をしますが、最初のスッとした沈み込みを重視し、ゆっくりたわむようにチューニングしました。今までは柔らかいほうがいいと思っていたのですが、それだとすぐに底付いて安っぽく感じてしまう。早いうちにちょっと抵抗があったほうがスッとお尻が収まり、気持ちがいいのです」
ランフラットタイヤはサイド部の補強層を最適化することで縦ばねを低減。減衰力可変ダンパーは油圧制御用ソレノイドのオイル流量制御バルブの流路を拡大して減衰力を低減すると同時に可変幅を拡大した。スタビライザーのばね定数を低減し、エンジンマウントは内部のオリフィスを変更して減衰特性を最適化。それぞれが個別最適ではなく全体最適の観点で仕様を変更し、乗り心地を向上させている。
EXECUTIVEに乗って目を引いたのはドアトリムで、見るからに和の意匠である。聞けば、フロント側は「箔オーナメント」で、熟練職人がプラチナ箔を一枚一枚手貼りしたもの。リヤ側は京都の老舗織屋と協業して量産化した「西陣織表皮」である。プラチナ箔と(銀糸を織り込んだ)西陣織で、夜の海で月明かりに照らされてきらめく波に見立てているという。日本発のプレミアムブランドだからこそ発信できる匠の技であり、ある意味アートだ。
「ホテル」という宿泊施設は西洋からやってきたが、日本に入ってきて和の要素と意匠を巧みに融合して新しい価値を生んでいる。洋室に和室を組み合わせた和洋室はわかりやすい例で、竿縁天井と欄間飾りのある部屋にベッドを置いた部屋が魅力ある空間に仕上がっていたりもする。同じように、西洋からやってきた自動車に和の要素が融合してもいい。挑戦し続けるレクサスの姿勢は評価したい。西陣織は難燃性や耐候性、汚れやひっかき傷への強さなどをクリアするのが難題だったという。水面下で開発を続け、ようやく陽の目を見た格好だ(月明かりに見立てているが)。
改良点を上げればキリがないが、最後にもうひとつ。LS500h全車に標準装備される高度駐車支援システムのアドバンストパークを試した。試したのは、直角にバックして駐車枠に収める並列駐車である。ヤリスにも同様の駐車支援システムはオプション設定されており、以前試した。ヤリスの場合は前進から後退への折り返し地点でブレーキを踏み、シフトレバーを「D」から「R」に入れ替える必要があるが、レクサスLSはその必要がない。シフトの切り替えを電気的に制御するシフト・バイ・ワイヤを採用しているためで、駐車支援をセットしたらあとはシステムの駐車操作を見守るだけだ。ヤリスのときもそう感じたが、自分で操作するよりテキパキしているし、正確である。
「たゆまぬ進化」をテーマに掲げるレクサスの「Always On」はホンモノであり、本気だ。もたもたしていると置いていかれそうである。それほど、進化のスピードは速く、内容は充実している。
レクサスLS500h EXECUTIVE(FR)
全長×全幅×全高:5235mm×1900mm×1450mm
ホイールベース:3125mm
車重:2360kg
サスペンション:F&Rマルチリンク式
駆動方式:FR
エンジン
形式:3.5ℓV型6気筒DOHC
型式:8GR-FXS型
排気量:3456cc
ボア×ストローク:94.0mm×83.0mm
圧縮比:-
最高出力:299ps(220kW)/6600pm
最大トルク:356Nm/5100rpm
燃料:プレミアム
燃料タンク:82ℓ
モーター
型式:2NM型交流同期モーター
最高出力:180ps(132kW)
最大トルク:300Nm
燃費:WLTCモード 13.6km/ℓ
市街地モード:10.4km/ℓ
郊外モード:13.8km/ℓ
高速道路モード:15.5km/ℓ
トランスミッション:電気式無段変速機(マルチステージハイブリッド)
車両本体価格:1687万円
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